※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
リーマンショック再来ある?忍びよる危機にどう備える?

米インフレ&ウクライナ・ショック続く。日米とも株の上値重い

 米インフレ・ショック【注1】、ウクライナ・ショック【注2】が続き、日経平均株価・NYダウ(ダウ工業株30種平均)とも下値不安が払拭(ふっしょく)できない状況が続いています。

【注1】米インフレ・ショック
 米インフレ率(CPI総合指数前年比)が8.5%(3月時点)と、約40年ぶりの高水準となったことを受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融引き締めを急いでいます。金融緩和で押し上げられてきた世界の株式市場はFRBのタカ派転換を嫌気して昨年10月以降、下落が続いています。3月16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRBは0.25%の利上げを実施、さらに5月4日のFOMCで、0.5%の利上げと保有資産の縮小(量的な引き締め)を行うのがほぼ確実です。金融引き締め観測の強まりとともに米長期金利が一時2.9%台まで上昇したことを受けて、大型成長株の比率が高い米ナスダック総合株価指数の下落が目立っています。

【注2】ウクライナ・ショック
 2月24日ロシアがウクライナに侵攻を開始したことが、世界の株安を加速させました。米欧日本などがロシアに経済制裁を実施。これにより制裁を受けるロシア経済だけでなく、制裁する側の欧州・日本などにもダメージが大きくなりました。ロシアの主要輸出品である原油・ガス・穀物・パラジウムなどレアメタルの供給不安から市況が高騰、世界のインフレを加速する懸念が高まりました。米欧日本のロシア事業停止・撤退の発表が続いていますが、それが撤退企業の巨額の損失につながるリスクも出ています。
 停戦合意が近いとの思惑が出たこともありましたが、ロシア・ウクライナ間の主張の隔たりが大きすぎて、当分、停戦は見込めない情勢となっています。世界経済からロシアが分断されることによって、グローバル分業を前提に成長してきた世界経済が壊れ、日米欧のロシア事業で巨額の減損が出る可能性があります。

NYダウと日経平均の動き:2020年12月末~2022年4月26日まで

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成。2020年末を100として指数化

 このコラムでいつもお伝えしている通り、日本株は短期的にはさらに売り込まれる可能性があるものの、長期的には良い買い場と判断しています。それでは、短期的な下値をどれくらい見たら良いか、シナリオ別に試算しました。

短期的な下値リスクはどれくらい?

 短期的に下値トライがあるとして、どのくらい下がるでしょうか?それについて考える前に、日経平均の過去10年弱の動きを見てみましょう。日経平均はこれまで、急落・急騰を繰り返しながら上昇してきたことがわかります。

日経平均推移:2012年末~2022年4月(26日)

出所:2012年末の値を100として指数化、QUICKより作成

 過去10年の間、日経平均は何度も急落しています。高値から安値まで20~30%くらいの下げが多いことがわかります。

【1】世界景気悪化を伴うと下落率は3割に達することも

 下落率が特に大きかったのは、2015~2016年の下落(▲28%)と、2020年のコロナショック(▲31%)です。2015年10月から2016年3月にかけて、景気後退ぎりぎりまで世界景気が悪化しました。2020年はコロナショックで、一時戦後最悪の景気落ち込みとなりました。このように世界的な景気悪化を伴う世界株安局面では、日経平均は3割くらい下げることがあります。

【2】世界景気の悪化を伴わないショック安は20%くらいで済むことが多い

【1】であげた2つの大きな下落局面を除けば、下落はおおむね20%くらいで済んでいます。世界景気の悪化を伴わないショック安は、20%くらい下げれば終了することが多いと言えます。

 さて、以上を参考に、これからさらに日経平均がどれだけ下がるか考えてみましょう。世界景気の悪化を伴うか否かで、判断が分かれます。2つのシナリオで考えてみました。

【A】2022年後半~2023年にかけて世界景気が後退期に入るケース

 今起こっているインフレ&ウクライナ・ショックが最終的に、世界景気の後退を招くと考えるならば、日経平均は高値から3割くらいまで下がると考えられます。日経平均の昨年高値は3万0,670円です。そこから3割下げると、日経平均の安値は2万1,469円となります。

【B】世界景気は減速しつつも拡大が続くシナリオ

 日経平均は3月に一時2万2万4,717円まで下がっています。その時点で昨年高値からの下落率は約19%です。世界的な景気悪化を伴わないショック安は2割くらいで終了すると仮定すると、すでに2割の下げは一度見ています。そこから、日経平均は反発して4月26日時点で2万6,700円です。
 日経平均は当分上値の重い展開が続きそうですが、大底はすでにつけている可能性があります。

 私は、上記【B】の可能性が高いと判断しています。ただし、【A】のリスクも頭に置いておく必要はあります。

 ただし、【A】でも【B】でもない、もっと悲観的なシナリオも実はあります。世界景気が単に悪化するだけでなく、世界景気の悪化と同時に、世界的な金融危機が起こるシナリオです。そうなると、日経平均の下落率は3割で済まなくなります。それが、実際に起こったのが、2008年のリーマンショックです。

 これからリーマンショックのように、世界的な景気後退と金融危機が同時に起こることはあるのでしょうか?今と、リーマン前夜を比べてみました。

リーマンショックの再来ある?危機にどう備える?

 これから世界景気があれよあれよという間に急激に悪化し、景気後退期に入るとともに、世界的な金融危機も起これば、リーマンショックの再来となります。その可能性は低いと考えていますが、絶対ないとは言えません。

 今が、リーマンショック前夜でこれから世界的な景気後退が起こると考えるべきか否か、当時と今を比較してみました。リーマンショックが起こったのは、2008年9月でした。ショックが起こる直前まで、世界景気に対して楽観論が広まっていました。今と似ているところもあるし、似ていないところもあります。以下、それを分析します。

リーマンショック時の経済環境と、今の危機の共通点・相違点

【共通点1】世界的にインフレ懸念が強まっている

 リーマンショック直前、今と同じように原油など資源価格が一斉に上昇していました。BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国の頭文字をとった造語)が世界経済の成長をけん引しており、需要の増加に供給が追い付かず、世界的な資源価格の上昇を招いていました。
 リーマンショック前、新興国のインフレ率はのきなみ10%を超え、ハイパーインフレの不安が語られていました。今と似ています。

【共通点2】世界景気は減速しても、巡航速度の拡大が続くと楽観論が語られている

 リーマンショックは、2つの要因が重なっておこりました。1つは米国住宅ローン(サブプライムローン)の不良債権化に伴う金融危機、もう1つはインフレ高進による世界的な消費悪化です。
 北米債務危機はすでに2007年から起こり始めていて、2008年に入るとその兆候は強まっていました。それでも「たとえ米景気が失速しても、BRICsの高成長が続くので、世界景気は好調を続ける」と楽観論が語られていました。
 今も、中国景気悪化、欧州ロシア景気の悪化などが不安視されています。それでも、米景気が好調で日本の内需もこれから回復が見込まれるので、日本および世界の景気先行きは問題ないと楽観論が広がっています。私はまさにその意見です。

【相違点1】世界的な金融危機は(少なくとも現時点で)起こっていない

 リーマンショックは、一義的には欧米を中心とした金融危機でした。それにインフレ高進による世界的な需要減少が重なりました。今回の危機で、インフレや世界景気の減速に対する不安は高まっていますが、欧米で金融危機が起こる兆しはありません。新興国の一部に金融危機の兆しがありますが、欧米の金融機関を巻き込む世界危機が起こる可能性は、現時点では低いと考えられています。

【相違点2】金利水準は当時より低い

 リーマンショック前、米長期(10年)金利は5%を超えていました。利上げが続き、FF金利(短期金利)が長期金利を超える「長短金利逆転」も起こっていました。
 それと比較すると今、米長期金利はようやく3%に接近したところです。まだ量的引き締めも始まっていません。今はまだ、当時と比べてはるかに金融緩和的な状況が続いています。

【相違点3】地政学リスクが世界経済に与える影響が、今ほど深刻でなかった

 リーマンショック時、地政学リスクは今ほど深刻ではありませんでした。米中対立が今ほど激化していなかったし、ウクライナ危機によるロシア経済の分断も起こっていませんでした。
 リーマンショック前の資源高騰は単純に需要増加に供給が追い付かなかったことが原因です。それと比べると、今は世界的に供給余力がある中で原油高騰が起こっています。中東・ロシアに供給余力があり、米国も少し時間をかければ供給を大きく増やすことができます。地政学リスクによる供給不安が原油高騰を招いています。
 地政学リスクが緩和するかしないか、地政学リスクの行方が、世界景気およびインフレに重大な影響を及ぼすでしょう。その意味で、今の危機はリーマンショックと異なります。

 現時点で、私は世界景気が後退に向かう可能性も、世界的な金融危機が起こる可能性も低いと考えています。つまり、リーマンショックの再来はないと予想しています。日経平均は底入れが近づいていると予想しています。

 ただし、私の予想が外れて、世界的な景気後退や金融危機が起こることもあり得ないとは言えません。「危機はいつも違う顔をしてやってくる」と言われます。私がまったく想定していない事態が起こることも考えられます。

 日経平均がどこまで下がってどこで底入れするか、結局は誰にも分かりません。分からないことを前提に、忍びよる危機にどう備えるか考えるしかありません。

 時間分散しながら大型の高配当利回り株や日経平均インデックスファンドを少しずつ買い増ししていくことが、有効な対策と考えています。日本株は長期的には良い買い場と判断していますから、ここで悲観的になって株を売り払ってしまうのは得策でないと考えます。適切にリスクを管理しながら投資を続けていくことが、長期的な資産形成に寄与すると判断しています。

 最後に、著書発売のお知らせです。4月18日、主婦の友社より私の著書「クボッチ先生のやさしい投資入門」が発売されました。

 私にとって初めて、マンガで解説する投資入門書です。投資信託・ETF・日本株・米国株・成長株・割安株・NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)・iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)…、これから資産形成を始める人が知っておくべき内容を、ひと通りぎゅっと詰め込みました。ぜひ、ご参照ください。

▼著者おすすめのバックナンバー

2022年4月21日:利回り3.6~4.8%!「10万円以下」で買える、高配当株6選
2022年4月13日:イオン:株主優待を楽しみながら長期保有するのに理想的と考える理由
2022年3月30日:JT、ロシア事業のリスクが顕在化。予想配当利回り7.1%を信頼して良いか?