資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

自分にとって最適な金融商品を探したいけど、どう見分けたらいいのか?

野中孝之さん(仮名)会社員・30歳(独身)

 野中さんは、父親が早期退職をして資産運用を始めたと聞いて「もう高齢なのに大丈夫なのか。だまされていないだろうか…」と心配になり、本人から話を聞いてみることにしました。

 すると父親から、「シニア世代の場合はどんな金融商品を買ってはいけないのか」「シニア世代がやってはいけない投資は何か」の話を聞いて、自分にあった資産運用をしっかり考えて老後を見据えているのだと分かり、少しホッとしました。

■参考記事:50〜60代のはじめて投資!買ってはいけない5つの金融商品
■参考記事:シニア世代がやってはいけない投資!「安心・安定・安全」は落とし穴?

 そして、父親に倣(なら)い、自分も資産運用を始めてみようと決心し、父親が買っている商品を教えてもらい、自分も同額だけ購入を開始しました。しかし、数年後、車を購入したくなり現金化しようとした際、その時現金化するには価格がかなり下がってしまっていることが判明し、がくぜんとしました。

 父親は長期保有を目的として購入していたため、一時的な値下がりに動じず、悠然と保有し続けていましたが、お金の出入りも多い若い世代の野中さんと、資産をじっくり育てるつもりの父親では、運用方針や目的が違うので、選ぶべき銘柄や保有期間も違うはずです。野中さんは結局、買いたいと思っていた車のグレードを落とし、保有商品を見直して資産形成計画を立て直すことになりました。

 父親から聞いた話は、主に「買ってはいけない商品」「やってはいけない投資」に関する話だったため、逆に、「買ってよい商品」「いい商品の選び方」は聞いていなかったのも失敗の原因と、同世代の投資家のブログやTwitterを読み、買うべき商品を厳選している途中です。

 野中さんが、年齢や立場に最適な金融商品を選ぶためには、どうすればよかったのでしょうか?

資産運用での金融商品選び、なぜ悩んでしまうのか?

 金融商品といっても、株式・債券・REIT(不動産投資信託)や、金・原油といったコモディティ、これらをプロが運用してくれる投資信託など、他にも多種多様な選択肢があります。そのため、商品一つひとつを吟味しながら選ぶことは至難の業です。

 最適な商品選びは、個々人の資産状況やライフプラン、投資の知識や経験によって変わります。資産運用を始める前に「自分の現状」を確認することが必須です。

 現状把握ができたら「自分にとって」最適な商品を探して投資を始めましょう。

金融商品を見分けるポイントは、「安全性・収益性・流動性・手数料・実績」

 何となく投資をするのではなく、投資知識を蓄えつつ経験を積むためにも、自分の投資目的にマッチする商品を選ぶにはどうするべきかを「考えること」が重要です。

 今回は、私がアドバイザーとして、まず最初に押さえたいポイントとして、投資元本割れの可能性を考える「安全性」、投資収益の目安(期待値)を考える「収益性」、現金化して使うために必要な期間を考える「流動性」、運用するために支払う「手数料」、類似商品とのパフォーマンスを比較する「実績」から、あなたにとって最適となる金融商品の良しあし、その見分け方を説明します。

金融商品の見分け方1:「安全性」は商品のリスクで判断する

 投資するときに一番気になるのは、投資で失敗してお金が減る可能性ではないでしょうか? お金を減らしたくて投資をする人はいませんが、投資をする上では元金が減る可能性を0%にすることはできません。

 しかし、投資した商品の価格が変動することで、資産を増やすこともできるのです。投資の基本中の基本ですが、まずはこのリスク(価格変動の幅)を知ることが、商品の安全性がどの程度かを判断する、一番の材料です。

 このリスクは、高いか低いかで判断するのではなく、自分が許容できる範囲の価格変動かどうかで判断しましょう。

金融商品の見分け方2:「収益性」はリターン(期待収益)を見極める

 投資では預金と違って、毎年決まった収益が約束されているわけではありません。つまり、「このぐらいの収益が期待できる」という意味で「リターン」が表現されているわけですが、期待以上の場合もあれば、期待以下の場合もあるということです。

 リスクが低い(ローリスク、価格変動の幅が少ない)商品ならば、リターンも低くなる傾向にあります。高いリターンを期待するなら、リスクも高くなりますが、投資では「リスクが高い=悪い」ということにはなりません。逆にあまりにもリターンが低ければ、投資するまでもなく預金で良いという可能性もあります。

 リターンは、許容できるリスクや投資資金の使途、投資可能な期間などから逆算して期待できる収益を上限とし、適度なバランスを見極めましょう。

金融商品の見分け方3:「流動性」は将来の支出や目標を考慮する

 資産形成のやり方というと、長期積立投資がよく推奨されます。ずっと継続し続けることが理想ですが、不動産の頭金や子どもの教育費、親の介護費用など、現時点では予期せぬ支出が発生することも考えられます。また一定の目標をたてておき、運用した成果を実感することで、モチベーションを上げることにもつながります。

 お金が必要な時に現金化しづらい商品だと、いざというときに自由に使えなくて困りますし、株式など値動きの大きい商品の場合は、売り時と現金化する時がうまくマッチしてくれるとは限らないので、株価が高い(=利益が出ている)うちに、少しずつ売却しておくことがおすすめです。

 金融商品は購入時には解約に必要な期間や条件が記載されているので、必ずチェックしましょう。また価格変動の大きな商品を売却する時は、余裕を持って対応しましょう。

金融商品の見分け方4:「手数料」は類似商品の比較や労力から検討する

 金融商品の手数料は、基本的に商品の売買時に支払いますが、手数料を強く意識する必要がある場合のほとんどが、投資信託のようなプロに運用を任せる金融商品です。投資信託は保有中にも日割で、商品価格から運用にかかる手数料が差し引かれています。

 日経平均株価のような参考指数に投資する「インデックスファンド」なら手数料が低い商品を選べば問題ないでしょうが、特定のテーマや独自の手法などで運用する「アクティブファンド」の場合には、よくよく考えて商品を選ぶ必要があります。

 販売用資料やレポートで投資先を確認して、類似商品と比較することはもちろんですが、ベンチマークとたいして変わらない運用をしている商品、運用方法がよく分からない商品、期待リターンに対して手数料が高すぎる商品などは論外です。

 もちろん、運用中の手数料を自分で調べる労力などを考慮して、手数料を払っても良いと思える水準は、人それぞれだと思います。

 手数料は、高く払ったから良い商品というわけではありません。むしろ手数料をかけない運用を中心に考えること(費用の削減=収益の増加)で運用成果に良い結果をもたらしてくれるでしょう。

金融商品の見分け方5:「実績」は過去3年以上をみて評価する

 過去の値動きが良かったからといって将来の値動きが約束されるわけではないことは、当然なので参考にはなりませんが、逆のパターンはとても参考になります。つまり、過去の値動きが良くなかった場合です。

 例えば、ベンチマークと同じような値動きをしているのに、運用コスト分負けている。投資対象の近いインデックスと比較しても負けている。想定される値動きをしていない。想定していたよりもリスク(価格の変動幅)が大きいなど。

 特に投資信託などは、新規設定されたとしても本当に想定した運用がされるのかどうか、また運用方針通りの運用であっても自分の想定と合っているかどうかは分かりません。債券は満期保有すれば額面金額が返ってきますが、満期のない株式やREITも上場したばかりの時は様子を見た方が良いでしょう。

 実績のない商品をあなたが試してみる必要はありません。過去の実績は自分の投資目的や方針にマッチするかどうか評価するための指標になります。

まずは「今の自分」にあった金融商品を探してみよう!

金融商品の良しあしは投資する「人」によっても変化する

 当たり前ですが、最適な金融商品は人によってそれぞれ違います。ただし、今回の5つのポイントをしっかりおさえることで、あなたにとって悪い金融商品のほとんどが対象外となり、結果的に良い金融商品を選ぶことができると思います。

 投資経験や知識、金額が増えたとしても基本は変わりません。頻繁に商品を変えることは推奨しませんが、あなた自身や周囲の環境が変化した時には、継続するべきかどうか、見直ししながら考えていけば良いでしょう。

■著者・西崎努氏の新刊『老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門』(アスコム刊)が大好評発売中です!

【要チェック】
 楽天証券「トウシルの公式YouTubeチャンネル」では、本連載「やってはいけない資産形成」を筆者が解説する動画が視聴可能!

 また、リーファス社の公式YouTubeチャンネル『ニーサ教授のお金と投資の実践講座』では、同コラムの他にも動画でお金と投資の知識を学ぶことができます。