今日は、読者から質問の多い「PERの見方」を解説します。最初に、PER(株価収益率)の意味をきちんと理解していただくために基礎的な説明から始めます。

 PERは、株価割安度をはかる最も代表的な指標である

 PERは、「ピーイーアール」または「パー」と読みます。日本だけでなく、世界中の投資家が見る重要指標なので、PERの見方をきちんと理解しておくことは、株式投資をやる上で重要です。

 PERは以下のように計算します。

(1)PER=【株価】÷【1株当たり利益】

 株価を、1株当たり利益で割って計算します。言い換えると、PERは、「1株当たり利益の何倍まで株価が買われているか」を示しています。一般的に、倍率が高いほうが株価は「割高」、低い方が「割安」と判断されます。
 以下【参考1】は、さらに詳しい説明が必要な方だけ、お読みください。

【参考1】PERの別の計算方法

(2) PER=【株式時価総額】÷【純利益】

 PERは上の式(2)でも計算できます。PERは、株式時価総額が純利益の何倍かを表しています。この式の分子(株式時価総額)と分母(純利益)をそれぞれ発行済み株式総数で割ると1株当たりの数値になります。
 株式時価総額を発行済み株式総数で割ると株価になります。純利益を発行済み株式総数で割ると、1株あたり利益となります。つまり、上の式(1)と(2)は、同じ意味だということがわかります。

「何年で元が取れるか」という考え方から、PER評価が出てきた

「PER10倍は、PER20倍より割安」といっても、どういう意味か、少しわかりにくいですね。そこが、わかるように説明します。

 PER10倍は、「もし毎年同じ純利益が得られるならば、10年で元が取れる」という意味です。
株価が1,000円で、1株当たり利益が100円ならば、PERは10倍です。毎年100円の純利益を10年間得られれば、10年で1,000円の利益が得られます。投資元本(1,000円)と同額の利益を回収できるわけです。

 同様に、PER20倍は、「同じ利益を上げ続ければ、20年で元本を回収」という意味です。PER40倍は、「同じ利益を上げ続ければ、40年で元本を回収」という意味です。

 他の条件が同じならば、PER10倍が一番割安で、20倍が次に割安で、40倍が一番割高となります。

 以下【参考2】は、PERという評価方法が出てきた背景をさらに詳しく知りたい方のみ、お読みください。

【参考2】PERという評価方法が出てきた背景

 会社には、倒産リスクがあります。近年、上場企業の倒産は稀ですが、昔は、もっとたくさん倒産がありました。「何年で元が取れるか」という評価は、いつ破綻するかわからないリスクの高いビジネスに投資する際に重要です。PERは、投資元本を回収するのに必要な年数の目安を示しているわけです。
 株式会社は、16~17世紀のイギリスで誕生しました。イギリスからインドまで貿易船を出すのは、きわめてリスクの高いビジネスでした。途中で、船が難破する、あるいは海賊に襲われると、投資したお金がゼロになることもあります。その代わり、無事、航海を終えると、莫大な利益がもたらされました。
 そういうハイリスクのビジネスへの投資を、たくさんの投資家で分担する仕組みが、株式会社だったのです。そのようなハイリスク投資で、貿易船が何回無事に帰ると投資元本が回収できるかは、投資のうまみを知るのに重要な指標でした。
その延長線上に、現代の株式会社の評価もあります。したがって、欧米では、PER何倍かで、株価の割安度をはかるのが、普通となっています。

PERだけ見て、割安割高を判断することはできない

 PERだけ見て、割安・割高を判断するのは、適切ではありません。だからと言って、「PERなんか見ても仕方がない」わけではありません。PERの意味をよく理解した上で、PERをしっかり見て投資判断する必要があります。

 それを説明するために、まず、個別銘柄のPERを、具体例に見てみましょう。

PERの低い銘柄群:2021年11月24日時点

大分類 業種分類 コード 銘柄名 PER:倍
金融 銀行 8306 三菱UFJ FG 7.8
保険 8766 東京海上HD 12.1
資源関連 商社 8031 三井物産 6.1
商社 8058 三菱商事 7.1
海運 9101 日本郵船 1.8
製造業 鉄鋼 5401 日本製鉄 3.3
化学 4188 三菱ケミカルHD 7.0
非鉄 5713 住友金属鉱山 5.8
石油 5020 ENEOS HD 5.0
自動車 7203 トヨタ自動車 11.9
出所:PERは、2021年11月24日の株価を、今期予想1株当たり利益(会社予想または目標)で割って計算。今期とは2022年3月期

PERの高い銘柄群:2021年11月24日時点

大分類 業種分類 コード 銘柄名 PER
情報通信 ITサービス 6098 リクルートHD 45.8
サービス ネット販売 3064 MONOTARO 66.8
中古品流通 4385 メルカリ 250.0
サイト作成 4477 BASE NA(赤字)
AI分析 2158 FRONTEO 158.5
ITシステム 4307 野村総合研究所 42.4
消費成長 製造小売 9983 ファーストリテイリング 42.5
食料品 2801 キッコーマン 48.2
バイオ 医薬品 4568 第一三共 89.8
EV関連 モーター 6594 日本電産 51.5
出所:PERは、2021年11月24日の株価を、今期予想1株当たり利益(会社予想)で割って計算。今期とはキッコーマンは2021年12月期、メルカリは2022年6月期、ファーストリテイリングは2022年8月期、他は2022年3月期

 上の表を見るとわかりますが、PERは、銘柄ごとにかなり開きがあります。三菱UFJ FGのPERは、わずか7.8倍です。東証一部全銘柄の平均PER(加重平均)が、約16倍であることを考えると、PERで見て、株価はかなり割安と言えます。

 一方、リクルートHDのPERは45.8倍です。東証一部の平均と比較して、割高に見えます。
ただし、PERを単純に比較して、割安割高を判断するのには問題があります。PERは、あくまでも、今期予想利益に対して、株価が何倍まで買われているか示しているだけです。

今期と同じ利益が、今後ずっと得られるわけではない

 今期と同じ利益が、これから毎年ずっと得られるならば、PERだけで割安割高を判断して問題ありません。ただし、現実には、今期と同じ利益が将来も続くわけではありません。

 将来の利益がどうなるか、増えていくのか減ってしまうのか? そのイメージによって、今期PERで高い水準まで株価が買われるか、低い水準に放置されるか、決まります。

PERの低い銘柄群には、一般的に以下の特色があります。

  1. 利益の成長性が低いと考えられている銘柄
  2. 利益が不安定と思われている銘柄(金融株・資源関連株など)
  3. 一時的に利益水準が高くなっていると思われている銘柄

PERの高い銘柄群には、一般的に以下の特色があります。

  1. 利益の成長性が高いと考えられている銘柄
  2. 利益が安定的と思われている銘柄(ディフェンシブ株。景気悪化の影響が小さい)
  3. 一時的に利益水準が低くなっていると思われている銘柄

不当に低PERの銘柄は「買い」、過剰な期待で高PERの銘柄は「売り」

 さて、PER何倍だったら、株価は割安と言えるのでしょうか?一般的には、東証1部の平均PER16倍より、低ければ割安、高ければ割高と言えます。

 ただし、そういう画一的な見方には問題があります。利益の成長性や安定性が考慮されていないからです。

「PER何倍なら割安」という問いへの私の答えは、以下の通りです。

  • PERだけでは、割安割高の判断はできない
  • 利益の成長性・安定性を総合的に考慮したうえで、割安割高を判断すべき
  • 利益の成長性や安定性を考慮すると、PER10倍でも割高、PER40倍でも割安な銘柄もある

 PERが低いということは、株式市場の評価が低いことを意味します。中には、不当に低い評価を受けている銘柄もあります。私は、三菱UFJ FG(8306)・三井物産(8031)などは、高配当利回りの割安株として「買い」と判断しています。

 逆に、PERの高い銘柄で、株式市場の評価が高すぎる銘柄は、「売り」判断となります。PERの高い銘柄に入っているメルカリ(4385)BASE(4477)FRONTEO(2158)は、10月30日の株式投資アカデミーでの私の講演「日経平均4万円への道のり、ディープ・バリュー&ハイ・グロース投資戦略」の中で、ハイ・グロース株候補としてご紹介した3銘柄です。

 その後1カ月で、メルカリは株価が13%上昇、BASEは18%下落、FRONTEOは71%上昇しました。FRONTEOは、AI分析で成長する有望企業だと思っていますが、それにしても短期的に株価が上昇し過ぎたので、そろそろ売った方が良いと思います。

▼著者おすすめのバックナンバー

2021年11月24日:日本株に投資するなら「グロース」「バリュー」どちらが良い?
2021年11月18日:陸運・海運・空運・倉庫業の投資判断:人流衰退・物流成長、倉庫業に成長株候補
2021年11月17日:利回り4.3~5.4%!3メガ銀行、好決算発表でも株価がさえないのはなぜ?