人気の成長株は割高、割安成長株はないか?

 21世紀は、AI(人工知能)・5G(第5世代移動体通信)・バイオ技術を活用して急成長する企業がたくさん出ると思います。東証マザーズ・JASDAQなどに、有望な成長株候補が多数あります。

 ただ人気の小型成長株には、PER(株価収益率)がかなり高く、株価指標で見て割高な銘柄が多いのが残念です。つまり、将来の成長をかなり織り込んだ価格になっています。そこからさらに株価が上がっていくためには、売上・利益が期待以上に伸びなくてはなりません。市場の期待を下回ると、最高益を更新していても株価が大きく下がることもあります。

 あまり投資家に人気がなくPERで低く評価されている「割安な成長株」があると良いですが、それはなかなかありません。でも、よく探せば候補企業は見つけられます。「世の中の変化に取り残されたオールド企業」と思われているがそれは誤解で、実は「世の中の潮流に乗って成長していく企業」を見つければ良いわけです。

物流産業には「最高益更新でも株価は低評価」が多い

 割安成長株の候補はさまざまな領域にあります。たとえば物流産業がそうです。Eコマース(国内)・越境Eコマース(国際間Eコマース)拡大によって、物流産業は、陸運・海運・航空貨物が超繁忙です。それでも物流産業はオールド産業のイメージを持たれているために、株式市場の評価は低いままで株価は「PERで低評価」に据え置かれています。

 物流産業の足元の利益急拡大を牽引しているのは、海運・航空貨物です。需給ひっ迫による市況高騰で一時的に利益が大きくなり過ぎている可能性があります。需給が正常化した後に、利益の反動減が大きくなることが警戒されているので、海運・航空貨物の利益急拡大はそのまま評価することはできません。

 ただし、そうした一時的要因を除けば、物流産業が全般的に成長していく流れは変わらないと思います。

「人流」は衰退、「物流」は成長

 ワクチンの普及でコロナ禍からの経済復活が顕著になってきました。それに伴い、街に人出が戻りつつあります。ただし、仮にコロナが完全に終息しても、「人流」が完全に元に戻るとは考えられていません。「リモートワーク」「リモート会議」「Eコマース」「食事宅配」「オンラインセミナー」「オンライン学習」「オンライン診療」などが普及し始めていることにより、コロナ終息後も、「通勤」「出張」「買い物」などの「人流」は、構造的に減少すると考えられます。特に、海外出張や国内の長距離出張は、大幅に減ると思われます。ビジネス旅行で収益をあげてきた航空・ホテル業界には厳しい環境が続きそうです。

 このように、コロナが去っても「人流」(人の移動)の衰退は続くと予想されます。一方、ますます拡大すると考えられているのが、「IT活用」と「物流」です。IT活用によって人が移動しないで済むようになります。ところが、人は移動しないで済んでもモノは移動しなければなりません。モノがどんどん移動する時代になると考えられます。

 その物流を担っているのが、陸運・海運・倉庫などの物流産業です。オールド産業と見られている産業です。IT化できない人手に頼らざるを得ない作業が多いことが、オールド産業です。そのイメージは半分正しく、半分は間違えています。ハイテク倉庫では人手を介さずに、仕分けやパッケージングができる部分が少しずつ増えてきています。宅配・トラック輸送はまだまだドライバー不足が深刻です。将来、高速道路などで自動運転が普及していくと考えられていますが、実現までに時間がかかりそうです。

 ただ、オールド産業と思われていることからこそ、最高益を更新していても、PERなどで低い評価のままとなっていることが多いのが、物流産業です。今日は、倉庫産業に焦点を合わせて話しをしますが、その前に、海運業・空運業についてもコメントします。

海運業は短期的に良いが中長期的な収益力に不安

 海運業は今、定期船の好調で、業績が急拡大しています。定期船、特に北米航路の需給ひっ迫が長期化しています。貨物量増加と市況上昇の恩恵の両方を受けて、利益が急拡大しています。ただ、この需給ひっ迫が何年も続くとは考えられません。北米で港湾作業やトラック輸送の遅れが常態化していることが需給ひっ迫長期化の要因です。ただし、時間はかかってもいずれ異常状態は解消に向かうでしょう。好況と不況の落差が大きい海運業なので、需給解消が進めば、定期船市況が急落する可能性もあります。

 また、不定期船については、まだ船腹過剰が完全には解消されていません。海運業界の過当競争体質は変わっていないので、短期的に好調が続く海運業界ですが、中長期的な収益力には依然として不安があります。

 海運業の好調は想定以上に長引く可能性があるので短期トレーディングベースでの投資は可能と思います。ただし、「BUY&HOLD(買って放っておく)」の長期投資対象とするのは適切でないと思います。海運市況が急落する時には、利益確定・損切りにかかわらず、売却する用意が必要と思います。

空運業への投資は避けるべきと判断

 空運業界は、「旅客輸送」と「航空貨物」で明暗を分けています。「人流」減少で大ダメージを受けつつ、「物流」増加で大きな恩恵を受けています。旅客輸送では巨額の赤字を計上し、航空貨物で空前の好況を謳歌しています。定期船の貨物輸送が滞っていることから、代替輸送手段として高価でも航空便を使う荷主が増えているからです。輸出入貨物を運ぶ貨物便が好調です。
ただし、日本航空(9201)ANAホールディングス(9202)の主力事業は、旅客輸送です。コロナ禍で人の移動制限が続いているため、厳しい業績が続いています。今後、国内の旅客需要は回復が見込まれますが、国際便の本格回復までには相当長くかかる見通しです。

 コロナが完全に終息しても、業績の戻りは鈍いと考えられます。リモート会議の普及でビジネス客の戻りが鈍いと予想されるからです。従来から続いている、LCC(低コスト航空会社)との競争もあり、収益は伸び悩むと考えられます。したがって、短期的にも中長期にも日本航空とANAの投資魅力は乏しいと考えています。

宅配便大手:成長性を評価できるが株価は必ずしも割安でない

 Eコマース拡大で、国内物流のラストワンマイルを担う宅配便の拡大が続いています。以下の通り、年々取り扱い個数が増え続けています。コロナ禍に見舞われた2020年度に伸びが加速しています。

宅配便取り扱い個数:1992年度~2020年度

出所:国土交通省

 宅配便大手、ヤマトHD(9064)(ヤマト運輸の持ち株会社)・SGホールディングス(9143)(佐川急便の持ち株会社)が、その恩恵を受けています。ただし、両社が宅配便成長の恩恵を受けていることは、株式市場に知れ渡っており、両社とも株価は既に上昇し、PERなどで必ずしも割安とは言えない水準にあります。

倉庫業:物流事業の利益拡大で最高益更新が増加

 倉庫業にまだオールド産業の印象を持ったままの投資家が多いので、物流事業で最高益を更新していても、倉庫株はPERやPBRなどの株価指標で見て割安なままです。

 私は、割安な成長株の候補として、三井倉庫HD(9302)住友倉庫(9303)安田倉庫(9324)の3社に注目しています。

倉庫業3社の株価指標:2021年11月17日時点

コード 銘柄名 株価:円 配当利回り PER:倍 PBR:倍
9302 三井倉庫HD 2,328 3.0% 4.9 0.83
9303 住友倉庫 1,884 4.6% 8.8 0.76
9324 安田倉庫 950 2.5% 10.6 0.35
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。配当利回りは、2022年3月期の1株当たり配当金(会社予想)を11月17日株価で割って算出。1株当たり配当金は、三井倉70円、住友倉86円、安田倉24円。PERは、株価を今期会社予想ベース1株当たり利益で割って算出

 3社の業績推移を見てみましょう。3社とも、コロナ前に経常最高益を更新していました。

三井倉・住友倉・安田倉のコロナ前の連結経常利益:2019年3月期・2020年3月期

出所:各社決算資料より作成

 コロナ後の業績は明暗が分かれています。三井倉と住友倉が大幅に最高益を更新しているのに対し、安田倉は利益が伸び悩んでいます。

3社のコロナ後の連結経常利益:2021年3月期実績・2022年3月期予想

出所:各社決算資料より作成

 三井倉と住友倉は、航空貨物・海運の利益が大きく拡大しています。安田倉は、その貢献が無い中で、将来の成長に向けた先行投資の負担が拡大しているために、減益となっています。

 3社とも、PERで非常に低い評価となっています。投資家の倉庫業に対するイメージが古いままだからだと思います。倉庫業の古いイメージは「ただ、モノを保管するだけ」ですが、近年の倉庫業は違います。モノを保管、配送するだけではなく、さまざまな流通加工作業を行い、そこから高い付加価値を得ています。さらに、国際物流も手掛けています。

【1】三井倉庫HD・住友倉庫は来期の利益反動減に注意

 国際物流で手掛ける航空・海運業の利益が急拡大しています。輸出入貨物の増加・運賃の増加の恩恵を受けています。航空・海運の利益拡大によって今期(2022年3月期)、経常最高益を大幅に更新する見通しです。

 ただし、海運・航空貨物の利益は、需給ひっ迫で一時的に急拡大しているものの、需給が正常化すると考えられる来期(2023年3月期)は、反動で利益が大きく減る可能性があります。三井倉庫HD株・住友倉庫株が、好業績にもかかわらず最近軟調なのは、来期の利益反動減が警戒されているからです。

 そうした一時的な利益の急拡大・反動減の要因を除けば、両社とも着実に物流産業の世界的な拡大の恩恵を受けて、成長していく軌道に入ったと思います。来期の利益の反動減がきついことが懸念されるものの、それを織り込んでPER評価は既にかなり低い水準にあることを考えると、ここから少し投資してみても良いと考えています。

【2】安田倉庫は、来期以降に最高益更新を見込む

 三井倉・住友倉に比べて、今期の利益見通しがさえないのが、安田倉です。前期(2021年3月期)は、コロナ禍の影響で国内の産業物流が停滞した影響を受けて、2%の増収・2%の経常減益でした。コロナの影響が低下して国内物流が回復する今期(2022年3月期)は、会社予想で7.9%の増収を見込むのに、8.3%の経常減益見通しです。

 三井倉・住友倉と比べて、まったく冴えない業績見通しとなっている理由は、2つあります。
まず、両社のように、国際市況上昇の恩恵を受ける海運・航空貨物で大きく稼いでいないということがあります。次に、将来の成長のための先行投資コストが膨らんでいるという要因があります。

 安田倉庫は、メディカル物流(医療機器や医療品の物流)やIT機器の物流で、差別化された競争力を有します。その分野で成長投資を拡大させています。昨年~今年にかけて東京湾岸で、東雲・辰巳にメディカル物流倉庫を稼働させたことに加え、これから羽田空港エリアでもさらに投資を拡大させます。東京湾岸の有利な立地と、取り扱いのための専門スキルを活用して、業績拡大を目指します。

 古い倉庫をリニューアルしハイテク倉庫に変えていくこと、さらに需要拡大が見込まれるメディカル倉庫への投資を拡大することなどで、先行投資コストが膨らんでいます。さらに将来的には、DX推進・オペレーション自動化などにも先行投資コストがかかります。

 利益拡大には時間がかかりますが、着実に成長のだめの地固めが進捗していると考えられます。今期業績が減益予想なので、短期的には冴えない株価展開が続くと考えられますが、長期的に最高益を更新し、成長していくポテンシャルが高まっていくことを考えると、今から投資してじっくり長期に保有していく価値があると判断しています。

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