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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]三菱商事 最高益・増配予想発表で売られた理由
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2大イベントを無事通過して日経平均上昇

 先週(11月1~5日)の日経平均株価は1週間で718円上昇し、2万9,611円となりました。2大イベントを無事通過したこと、米国株の主要3指数(NYダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数)がそろって史上最高値を更新したことから、日本株にも買い安心感が広がりました。

日経平均とNYダウの動き比較:2020年10月1日~2021年11月5日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 2大イベントと言ったのは、10月31日投開票の衆院選と、11月2~3日に行われた米国FOMC(連邦公開市場委員会)のことです。

 衆院選は、自民党が単独で絶対安定多数を確保し、株式市場にとってポジティブ・サプライズでした。FOMCでは、米FRB(連邦準備理事会)がテーパリング(量的金融緩和縮小)実施を決定しました。ただし、事前予想通りであったこと、パウエルFRB議長が記者会見で利上げを急がないことを強調したことから、波乱要因とはなりませんでした。

 米国株の主要3指数は、景気と企業業績が好調であることに加え、テーパリングが実施されても金融緩和的状況はすぐには変わらないと安心感が広がったことから、そろって最高値を更新しました。

米政策金利(FF金利)、長期金利、NYダウ月次推移:2000年12月~2021年11月(5日)

出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所作成

 日本企業の9月決算発表がピークを迎えつつありますが、9月決算が好調で業績の上方修正が増えていることも、日経平均の上昇に寄与しています。また、国内でコロナ感染が減少していることを受けた「経済再開・消費回復」期待も追い風となっています。

日本株に残る3つの不安

 米国株に比べると日本株の上値が重いことは否めません。日本株を動かしている外国人投資家から見て、以下3点が不安材料となっています。

【不安1】中国恒大の信用不安・中国景気悪化リスク

 中国景気が悪化すれば、米国にもマイナス影響は及びますが、中国経済とのつながりの深さから、日本への影響の方がより大きくなると考えられています。

【不安2】岸田政権が打ち出す政策への不安

 衆院選で自民が絶対安定多数を獲得したことは、政権安定を評価する外国人投資家にとって安心材料となりました。ただし、岸田政権が打ち出している政策への違和感はまだ残っています。

 伝統的な自民党の政策とやや力点が異なり、所得再分配を前面に押し出している点です。資本主義の構造改革や成長戦略を重視してきた、伝統的な自民党と軸足がずれているように見えるところが、外国人投資家の買いを呼び込みにくくなっています。

 これからどれだけ資本主義の構造改革を重視した政策を遂行できるかが、注目されています。特に注目が高いのが、日本が遅れているDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。デジタル庁の活性化でどれだけリーダーシップが発揮されるか、注目されています。

 また、これから内閣支持率がどう推移するかも注目されています。衆院選で勝った勢いを維持して政権基盤を一段と強化していけるか、あるいは2006~2012年のような短命政権時代に逆戻りするか、内閣支持率の推移に注目が集まります。

歴代内閣と、日経平均の動き:2001年4月小泉内閣発足から2021年10月岸田内閣発足まで

出所:各種資料より楽天証券経済研究所が作成

【不安3】日本にオールド企業が多いと思われていること

 9月中間決算の発表時に、利益予想を大幅に引き上げる企業が増えていますが、それでも利益予想を引き上げた企業の株価の動きが良くありません。外国人の目から見て、オールド産業と見られていることから、業績が好調でも株価が買われにくくなっています。

 具体的に言うと、海運・鉄鋼・大手総合商社などが、業績見通しを大幅に引き上げ、PER(株価収益率)や配当利回りから見て、とても割安に見える株価となっていますが、それでも利益確定売りに押されて、株価が上昇しにくくなっています。

 象徴的だったのは、5日(金)14時に9月中間決算を発表した三菱商事(8058)の値動きです。

好決算発表でも売り込まれた三菱商事

 三菱商事は、5日14時に9月中間決算を発表しました。発表と同時に、通期(2022年3月期)の純利益見通しを大幅に上方修正(修正前:3,800億円→修正後:前期比4.3倍の7,400億円)、一気に最高益を更新する見通しとしました。コロナ前(2019年3月期)の最高益5,907億円を大幅に上回る見通しです。

 増配も発表しました。今期1株当たり配当金(会社予想)を134円から142円に引き上げました。その結果、11月5日終値ベースで、同社はPER・配当利回りから見て、極めて割安と言ってよい株価となりました。

三菱商事の株価バリュエーション:2021年11月5日

出所:同社決算資料より作成

 それだけの好決算を発表したにもかかわらず、三菱商事の株価は決算発表直後に下落し、5日は前日比108円安の3,530円となりました。

三菱商事の株価11月5日の日中の動き

出所:QUICKより作成

 私は三菱商事の投資判断は、これまでと変わりません。「買い」と判断しています。今回の決算内容を見て、さらに確信を強めました。

 なぜ三菱商事は、決算発表後に売り込まれたのでしょう。決算内容を見て失望したわけでは、当然ですがないと思います。

 好決算を発表することが予想されていたので、「好決算が出て株価が上がったところで利益確定しよう」と待ち構えていた投資家が多かったと推定されます。決算を見て買ってくる投資家があまりいない中で、利益確定売りが出たために、決算発表直後に下落幅が大きくなりました。

 三菱商事を売った投資家の「売った理由」は、以下2点だと思います。

【1】三菱商事の好業績は一時的(と考えている)

 天然ガス・鉄鉱石・石炭・原油・銅などの資源価格が大きく上昇したことが、今回の利益大幅増額の主因です。資源高は一時的で、来年になると資源価格が下落すると考えている投資家もいます。そういう投資家は、資源高で好業績を発表した三菱商事を売ると思います。

【2】化石燃料ビジネスで高収益をあげる三菱商事を、ESG投資の観点から売り

 三菱商事が化石燃料、なかでも豪州産の石炭で高い利益をあげていることが、ESG投資の観点からネガティブと考えている投資家もいます。そう考える投資家は、石炭事業の利益が大きく拡大したタイミングで三菱商事を売却した可能性があります。

 以上まとめると、三菱商事を売ってきた投資家は、三菱商事を「脱炭素の流れに反する古い化石燃料ビジネスで稼ぐオールド企業」と見ているのだと思います。

 私の見方は異なります。私は、三菱商事の好業績は一時的ではないと考えています。資源高には構造要因もあり、簡単には解消しないと思います。多くの投資家が考えているよりは、資源高は長期化し、三菱商事が資源で稼ぐ利益は、これからさらに拡大すると思います。

 仮に資源価格が反落しても、三菱商事は、幅広い非資源事業で高収益を稼いでいくと予想しています。確かに三菱商事は資源ビジネスで高い収益をあげています。

 でも、それだけではありません。自動車、機械、コンシューマー(消費者関連)、食品、産業インフラ、都市開発、海外電力事業など幅広いビジネスで稼いでいます。人口が減少する日本を飛び出し、人口が増加する世界の新興国で幅広くビジネスを展開する企業です。

 そう考えると、三菱商事の株価バリュエーションが極端な低水準に置かれている今は、投資の好機と判断しています。

 次に、三菱商事は、脱炭素の流れに反する古い化石燃料企業でしょうか? 私はそうは思いません。確かに、石炭で高い収益をあげているところは、批判されるリスクがあります。ただし、世界で幅広くLNG(液化天然ガス)事業を展開していることは、環境経営企業として高く評価されるべきだと考えています。

 油田で無駄に焼却処理される天然ガスをもれなくLNGにして使用することは、地球環境にとって重要です。また、これから世界中で出力の安定しない自然エネルギー発電を拡大する際に、調整電源としてガス火力発電の重要性は、今後さらに高まっていくと思います。

 現在の世界のESG基準では、天然ガス事業もLNG事業も化石燃料ビジネスとして批判しています。ただし、現実問題として、出力不安定な自然エネルギー発電がどんどん増大していく中、調整電源としてのガス火力の重要性がどんどん高まっていくことは、必然です。私は、現在のESG基準は、地球環境を守るために重要なLNGビジネスを不当に低く評価していると思います。

日本株は割安、長期的に買い場の判断を継続

 2大イベントを無事通過しても、中国恒大の不安、米長期金利上昇への不安は残ります。日経平均がすんなり高値を取っていくとは考えられません。

 ただし、私は、日本株は割安で長期投資で上値余地が大きいと考えています。時間分散しながら割安な日本株を買い増ししていくことが長期的な資産形成に寄与すると判断しています。

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