これは去る7月4日及び10日に東京で大阪で開催された、楽天証券サービス開始11周年セミナーでの講演を要約したものです。今回は四回目(最終回)です。

これまでの米国経済・株式相場の見通しを踏まえて、まずこの先2-3年有効と見られる投資戦略を考えてみたいと思います。

第一に、金への投資です(金への投資(2009年10月9日)参照)。前述の通り、当面資産デフレが続く可能性が高い一方、世界の各国政府は財政政策も金融政策も使い切ってしまった感があります。今後取れる手段というのは非伝統的金融政策、いわゆる量的緩和くらいしかないというのが実情でしょう。金というのは歴史的にインフレ時に上昇する傾向の強い商品でした。しかし今後は、景気が悪くなったり、デフレ圧力が強くなればなるほど各国政府は積極的に量的緩和を実施してくるでしょう。この結果、貨幣の貯蔵手段としての機能が薄れ、投資家は金のような代替資産にシフトしていかざるを得なくなると考えています。このような考えから我々が運用するファンドでも、2009年春からドル建て金ETFに投資しています。

金に関してよく聞かれるのが次の2つの質問です。
1つは金はバブルではないのか、というもの。これに対して私は、「金がバブルなのではなく、(日本を除く)各国の通貨供給量がバブルなのです。金は悪くありませんよ。」とお答えしています。
2つ目は金は実需がないから上昇しないのでは、という質問です。これに対して私は、「金は実需の割合が低いから良いのです。この先景気減速が予想される中、実需の割合が高い商品は、需要減少で価格が下がってしまうではないですか。」とお答えしています。

この先2-3年有効と見られる第二の投資戦略は、空売りです。我々が運用するファンドでは今年初、株価変動率が低下した場面を捉えてアメリカの代表的株価指数であるS&P500指数の中長期プットオプション(売る権利)を購入し、相場全体の下落に備えています。今に限らず、相場というものは上がる時もあれば下がる時もあるものです。「空売りはやった事がない」という方も、当面の相場に備えて、一度空売りの練習をやってみるに越した事はないと思います。

第三の戦略は市場中立ポジションです。最近になって株式相場の変動率が高くなってきた事で、様々な所に株価の歪みが生まれてきています。例えば我々が保有しているポジションの例を申し上げると、某欧州株の買い、某日本株の売りです。この2社は親子関係にあり、欧州の会社が日本の会社の株を保有しているのですが、この保有株の価値が欧州の会社の価値を上回るという、いわゆる「ねじれ」が起こっています。我々はこの2社の株価関係をずっと見てきましたが、ねじれが生じるのは数年ぶりの事です。恐らくギリシャ危機をきっかけにユーロや欧州株が必要以上に売られ、理論値以上に行き過ぎてしまったのが要因と見ています。このポジションは買いと売りを組み合わせているので、株式相場全体がどうなろうと、時間が経てばあるべき理論値にサヤ寄せされていくはずです。このような「ねじれ」を捉えたポジションは我々が得意とする戦略の一つでもあります。

このように、この先2-3年を見据えた時、単なる株の買い以外の戦略を考える必要があると見ています。

しかし、その後はどうでしょう。実は私はこの2-3年内にアメリカ株の格好の買い場が訪れると考えています。その大きな理由は、アメリカは今回、金融危機後初めて問題を先送りしていないからです。私は2009年4月、アメリカ株の上昇を予想しました(「問題先送り」で相場は上昇へ(2009年4月9日)参照)。しかし、これはアメリカが当面の問題を先送りした結果の、人工的な株価上昇と分かった上での事です。根本的な問題(不良債権や資産デフレの問題)を解決しないまま、大規模な財政出動やFRBによる証券買取、時価会計凍結などその場しのぎの政策によって、株価だけが吊り上げられてきた事を忘れてはならないのです。

そして今、その逆が起ころうとしています。オバマ景気対策の効果は今年後半にかけて剥落していきます。新金融規制も導入され、新規住宅購入者が70万円もらえるようなバラ撒きも終了しました。この先時間をかけてアメリカは借り過ぎ、過剰消費体質を改善していく事になるでしょう。その結果、株価も調整を余儀なくされるはずです。時間はかかるかもしれませんが、このような根本的な問題の調整が終わったアメリカはこれまで以上に強くなると見ています。その時まだ株価が調整局面にあれば、それは格好のアメリカ株の買い場になるでしょう。

株式というのは満期のない証券。投資はそもそも長期で考えなければならないはずです。我々の投資スタンスからすれば、2-3年というのはむしろ短期に属します。アメリカのファンダメンタルズが改善し、しかも株価が安い。長期で考える投資家にとっては、この先2-3年内に、アメリカ株を安く拾う格好のチャンスが訪れる事になるでしょう。

(2010年8月25日記)