日経平均が再び急落、再び3万円割れ

 9月29日の日経平均株価は前日比639円安の2万9,544円となり、3万円を割れました。28日に米国株が大きく下落(ナスダック2.8%安・NYダウ平均株価1.6%安)した影響を受けました。

 8月中旬から始まった日経平均の上昇がこれで終わってしまったのか、不安を持つ人もいると思います。私はそうは考えていません。長期的に日本株が買い場との判断は変わりません。

 日経平均は639円安でしたが、この日は配当落ち日で、配当落ち【注】が約180円ありますので実質的には460円くらいのマイナスだったことになります。

【注】配当落ち
 前日(9月28日)は9月末基準の配当金を受け取る最終売買日でした。前日までに株を買えば、9月中間決算の配当金を受け取る権利が得られました。

 ところが、昨日(9月29日)は権利落ち日でした。つまり、29日に株を買っても9月末の配当金は得られません。9月中間配当金が得られる銘柄の予想配当金を計算すると、日経平均で約180円相当と推定されています。

 28日まではついていた約180円相当の配当金を受け取る権利が、29日には無くなっています。これを「配当落ち」と言います。

 日経平均は29日に配当落ち分で180円下がることになります。29日の日経平均639円安のうち、180円が配当落ち分、残り約460円がマーケット要因の下げと考えられます。

 日本株が買い場と考える理由を説明する前に、簡単に昨年10月以降の日経平均の動きを振り返ります。

日経平均週足:2020年1月6日~2021年9月29日

出所:楽天証券MSⅡより楽天証券経済研究所が作成

【1】2020年1月~3月

 コロナ・ショックで急落。

【2】2020年4~6月

 世界的に株が急反発。日経平均も急反発。戦後最悪の景気落ち込みが続いたが、先行きの景気回復の織り込みが始まっていた。

【3】2020年7月~2021年2月

 世界的に株の上昇加速。日経平均も上昇。世界景気・企業業績回復を好感。

【4】 2021年3月~8月中旬

 欧米株の上昇が続く中、日経平均は下落。政局への不安(菅首相のもとで自民党が衆院選大敗して政権が弱体化する不安)・経済への不安(ワクチン接種遅れから緊急事態宣言がいつまでも解除できない不安)から、外国人が日本株を売る。

【5】2021年8月中旬~9月17日

 欧米株が調整する中で、日経平均が急反発。日本の政局への期待(後述)・ワクチン接種率上昇から内需回復への期待を受けて、外国人が日本株を買う。

【6】2021年9月21日~29日

 恒大ショックで日経平均急落。恒大不安がやや低下して反発。ところが、28日に米国のインフレ懸念の高まりを嫌気して米国株が下落した影響から、29日に日経平均は再び急落。

日本株「買い場」と判断する理由

 9月17日以降の日経平均急落には2つの背景があります。1つは、中国「恒大集団」の信用不安。もう1つは、米国のインフレ・長期金利上昇への不安です。この2つの不安が、日本株の上値を抑える状況がしばらく続くと考えています。

 ただし、2つの不安とも、来年の世界景気を失速させる要因にはならないと考えているので、日本株は買い場と判断しています。

【1】恒大不安

 中国の不動産バブルへの不安は根が深く、簡単には解決しないと考えています。この問題は長期化し、恒大だけでなく他の中国大手不動産にも不安が広がる可能性があります。それが中国景気を抑える要因となりそうです。

 ただし、問題が海外の金融市場に大きく波及するとは考えていません。中国景気の成長率を押し下げる要因になりそうですが、そのマイナス影響を織り込んでも、米景気・世界景気は巡航速度の成長が続くと予想しています。

【2】米国インフレ不安

 天然ガス市況高騰を受けて、米国のインフレが長期化するリスクが意識されました。

 FRB(米連邦準備制度理事会)が「11月にもテーパリング(金融緩和の縮小)を開始する」と示唆している不安もあり、米長期金利が一時1.55%まで上昇しました。これを嫌気して、ハイテク株比率の高いナスダックの下落率が高くなりました。

 私は、米国のインフレ率が低下するのにしばらく時間がかかると思います。一方、米景気は、リベンジ消費が一巡しつつあることから減速が見込まれています。景気が減速する中でも、 インフレが鎮静化しないことに、不安が高まった形です。

 ただし、私は来年にかけて米国のインフレ率が低下する見通しは変わりません。米景気は減速するものの、景気後退や失速には至らず、巡航速度での成長(GDP[国内総生産]で2%台半ばの成長)が来年も続くと予想しています。

 米国株はしばらくスピード調整が必要ですが、来年、再び上昇トレンドを取り戻すと予想しています。

【3】国内消費は回復へ

 ワクチン接種率の上昇、経口治療薬の開発、感染減少を受けて、来年にかけて日本でも消費回復が見られると予想しています。

岸田新総裁をマーケットはどう見るか?

 29日に投開票された自民党総裁選で、岸田文雄氏が新総裁に選出されました。1回目の投票では1票差でトップでした。ただし、過半数に達していなかったことから2位の河野太郎氏と決戦投票となりましたが、決戦投票でも勝って新総裁に決まりました。

 新総裁を、株式市場はどう見るでしょうか。日本株を動かしているのは外国人投資家ですから、外国人にどう見えるかが鍵となります。

 私は、新総裁が自民党を結束させ、河野・高市陣営も含めた挙党体制を組めるならば株式市場にとって(外国人投資家の目から見て)ポジティブと考えます。

 岸田新総裁は、総裁候補者であった4人のうちで、もっともバランス感のすぐれた総裁と考えられています。したがって、河野・高市・野田陣営も取り込んで挙党体制を組みやすいと言えます。今後の組閣人事が重要な決め手となります。

 投資家の多くは、高市氏が打ち出していたリフレ策に期待していました。岸田新総裁も「年末までに数十兆円の経済対策を策定する」と表明しており、同様の期待が寄せられます。

 投資家は、河野氏が進める構造改革・デジタル庁活用にも期待していました。岸田新総裁の組閣人事によって、その期待も続く可能性があります。

 まだ、具体的な政策や組閣が発表されていないので、これ以上わかりませんが、とりあえず政局への期待はまだ続くと考えています。

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