「中国恒大不安」は押し目待ちに好機か
今週初に米国株は大幅に下落しました。中国の不動産開発大手「中国恒大集団」(エバーグランデ:3333 HK)の経営不安を発端とする信用危機伝播の懸念が、投資家のリスク回避姿勢を強めました。
約3,000億ドル(約33兆円)の負債総額を抱える中国恒大集団の複数の社債利払い日が迫る中、同社がデフォルト(債務不履行)に陥るリスクを市場は織り込みはじめました。中国の他不動産企業や銀行部門への影響、中国政府当局による介入の有無、世界市場への影響度にいまだ不透明感が強く、株式市場は当面神経質な動きを続けそうです。
図表1は、NYダウ平均と100日移動平均線と200日移動平均線の推移を示したものです。2020年11月以降、ダウ平均は100日移動平均線を下値支持線とした強気相場を維持してきましたが、同移動平均線を先週割り込みました。
今週の下げでは次の「節目」とみられた3万4千ドルも一時下回りました。注目されていた21~22日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、FRB(連邦準備制度理事会)は「資産購入ペースの減速が近く正当化される」と指摘。雇用情勢の進展が続けば、テーパリング(量的緩和の縮小)開始を早ければ11月にも決定する姿勢を示唆しました。
なお、パウエルFRB議長は記者会見で「中国恒大問題は中国特有のものだ」とし、米国企業への直接的な影響は限定的との見解を示しました。
想定されていた範囲内だった政策姿勢とFRB議長発言を受け22日の米国株は反発。米国債券市場の長期金利も1.3%程度で落ち着いており、株式市場の下支え要因となりそうです。
図表1:「中国恒大不安」の影響で米国株は下落した
米国・配当貴族指数のパフォーマンスに注目
株式市場が調整しているなか、米国の「配当貴族指数」の長期的なパフォーマンス優勢に注目したいと思います。配当貴族指数とは、S&P500指数構成銘柄のうち「25年以上連続して配当を増やし続けてきた銘柄群」(現在は67銘柄)で構成されています。
図表2は、2000年初を100とした配当貴族指数、米国市場平均(S&P500指数)、日本市場平均(TOPIX)の総収益指数(配当込みトータルリターンインデックス)の推移を比較したものです。配当貴族指数の総収益指数は954.2となっており、S&P500指数やTOPIXの総収益指数に対し優勢を鮮明にしています。
2000年以降の約21年の間には、米国景気が後退や停滞に陥ったことが幾度かありました。2020年春もパンデミック危機で景気を巡る不透明感が強まった時期でした。
図表2は、「経営環境が一時的に悪化しても毎年(毎期)着実に配当を増やし続けてきた企業群」が市場で相対的に評価されてきたことを示しています。今後も市場は、「配当を切れ目なく増やし続ける企業」を「株主を重視した経営を実践している企業」として評価し続けると考えられます。
図表2:米国・配当貴族指数の長期トータルリターンは優勢
米国の連続増配株は、J&J、ウォルマート、コカ・コーラなど
参考情報として、配当貴族指数の主要構成銘柄(時価総額で上位10銘柄)を図表3に一覧しました。長期連続増配銘柄には、世界でブランド名が知られている安定成長セクター(業種)に属する企業が多いことが分かります。
特に、ジョンソン・エンド・ジョンション(JNJ)、ウォルマート(WMT)、プロクター&ギャンブル(PG)、コカ・コーラ(KO)など「40年以上連続して配当を増やし続けてきた銘柄群」にはブランド力が高い安定成長企業が目立ちます。
現在の米国市場では、長期的なアノマリー(季節性)に沿って「株価調整の秋」を迎えている感があります。市場全体が下落して波乱含みとなっている時にこそ、「いかなる経営環境でも配当を増やし続けてきた実績」を持つ企業群に注目したいと思います。
図表3:米国・配当貴族指数の上位構成銘柄(参考情報)
# | ティッカー | 銘柄名 | 業種 | 連続 増配 年数 |
株価 | 配当 利回り |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | JNJ | ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J) | 薬 品 | 58 | 164.53 | 2.5 |
2 | WMT | ウォルマート | 小売り | 48 | 143.02 | 1.5 |
3 | PG | プロクター・アンド・ギャンブル(P&G) | 日用品 | 64 | 143.11 | 2.4 |
4 | KO | コカ・コーラ | 飲 料 | 58 | 54.05 | 3.1 |
5 | XOM | エクソンモービル | 石油(総合) | 38 | 53.64 | 6.5 |
6 | ABT | アボットラボラトリーズ | 薬 品 | 49 | 125.13 | 1.4 |
7 | PEP | ペプシコ | 飲 料 | 46 | 153.54 | 2.8 |
8 | T | AT&T | 通 信 | 37 | 26.96 | 7.7 |
9 | ABBV | アッヴィ | 薬 品 | 48 | 107.15 | 4.8 |
10 | CVX | シェブロン | 石油(総合) | 33 | 94.85 | 5.6 |
*配当貴族指数の時価総額上位10銘柄のみを表示。単位は株価はドル、配当利回りは%。配当利回りは予想。 出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2021年9月22日) |
連続増配銘柄に分散投資する米国上場ETF(VIG)
前ページで紹介した連続増配で実績のある個別銘柄に投資する以外に、「連続増配銘柄に広く分散投資するETF(上場投信)」に投資する方法もあります。
米国籍ETFの「バンガード米国増配株ETF」(ティッカーシンボル:VIG)は、米国市場で「10年以上連続増配実績のある大型・中型株で構成されている株価指数」(S&P US Dividend Growers Index)に連動する投資成果を目指して運用されているETFです。
図表4は、過去10年(2011年以降)における同ETFの取引価格と1年(12カ月)累計実績分配金の推移を示したものです。長期目線で振り返ると、取引価格が上昇してきた一方、分配金も増配基調を辿ってきたことがわかります。
同ETFの取引価格は現在156ドル台ですから、「比較的少額(約1万7千円程度)から米国の増配株ポートフォリオに投資することができる」と言えるでしょう。なお、同ETFは経費率(信託報酬の年率換算)が0.06%と比較的低い点にも注目です。
図表4: 連続増配ETFのパフォーマンスと1年累計分配金
図表5では、同ETFを構成する上位10銘柄を挙げてみました。マイクロソフト(MSFT)、JP モルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPM)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)、ウォルマート(WMT)、ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)、ビザ(V)、ホーム・デポ(HD)、プロクター・アンド・ギャンブル(PG)、コムキャスト(CMCSA)、オラクル(ORCL)となっています。
同ETFの取引価格の1年前比騰落率は+25.5%となっており、直近の1年配当実績は約1.8%となっています。運用純資産は約618億ドル(約6兆78,00億円)と比較的大きく、運用コスト(経費率)が低い良質なETFとして相対的に人気を集めていることを示しています。
長期投資の視野に立った「値上がり」、「配当」、「増配(配当の連続増配)」の3つを期待できるETFとして注目したいと思います。
図表5:連続増配ETFの上位組み入れ銘柄と増配予想
# | 銘柄名 | 株価 | 年初来 騰落率 |
配当 利回り |
前期 配当 |
今期 配当 |
来期 配当 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | マイクロソフト | 298.58 | 34.2 | 0.8 | 2.24 | 2.36 | 2.56 |
2 | JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー | 155.91 | 22.7 | 2.4 | 3.60 | 3.80 | 4.12 |
3 | ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J) | 163.93 | 4.2 | 2.6 | 3.98 | 4.18 | 4.45 |
4 | ウォルマート | 142.69 | -1.0 | 1.5 | 2.16 | 2.16 | 2.29 |
5 | ユナイテッドヘルス・グループ | 408.70 | 16.5 | 1.3 | 4.83 | 5.48 | 6.09 |
6 | ビザ | 222.75 | 1.8 | 0.6 | 1.22 | 1.24 | 1.35 |
7 | ホーム・デポ | 335.93 | 26.5 | 2.0 | 6.00 | 6.63 | 7.06 |
8 | プロクター・アンド・ギャンブル(P&G) | 143.60 | 3.2 | 2.4 | 3.24 | 3.51 | 3.68 |
9 | コムキャスト | 56.02 | 6.9 | 1.8 | 0.92 | 1.00 | 1.08 |
10 | オラクル | 88.44 | 36.7 | 1.4 | 1.04 | 1.25 | 1.34 |
上位10銘柄平均 | 15.18 | 1.7 | |||||
*予想配当(DPS)はBloomberg集計による市場予想平均。単位は、株価と配当はドル、年初来騰落率と配当利回りは%。配当利回りは今期予想。配当は、前期は実績、今期と来期は予想。 出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2021年9月22日) |
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