念願のFIRE成功へ!取り崩しを前提とすると目標を下げることもできる

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 リタイアの年齢と、公的年金受給開始年齢の期間を想定し、その間、暮らしていけるだけの資産形成を実現したと確信できたなら、1億円の資産にはこだわらず、FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立と早期リタイア)を実行に移すことができます。

 ひとまず65歳を公的年金受給開始年齢とし、55歳で早期リタイアをするのであれば、10年分の生活費と「老後に2,000万円」分があればいいわけです。

 もちろん、1億円を目指して資産形成するほうがより安心したFIRE実行となりますが、いつまでもゴールに到達できないまま50歳代後半に達するくらいなら、どこかで「見切り」をつけるのも現実的です。

 これはつまり「取り崩し」を容認するということです。

 一般的なFIREモデルでは、運用収益を取り崩し額と均衡するようにすれば資産は一切目減りしないと説明されますが、そのためには25年分の生活費を貯めて、かつ年4%の収益を上げ続けなければなりません(収益率をこれ以上低くすると、準備額がさらに高まり現実性が低くなるので、年率4%リターンと25年というのは、落としどころになっています)。

 仮に年4%の収益率をFIRE実行後も維持し、65歳時点で3,000万円(2,000万円ぴったりでは不安もあるでしょうから上積みしておく)を残すというモデルを考えたとき、下記の資産があれば、リタイアは可能です。

60歳時点 4,267万円
55歳時点 5,305万円
50歳時点 6,154万円
45歳時点 6,851万円
40歳時点 7,421万円

 その代わり、「65歳時点では3,000万円の財産のみ」ということになります。40歳FIREでは少々リスキーですが、55歳ないし60歳でのリタイアを考えるなら、ブレる期間も少ないので、十分に考慮できる計画だと思います。

 ただし、これも「年4%の収益率」を目指すポートフォリオを65歳まで維持するという前提に立っています。

 実のところ、FIRE実行者が、FIREチャレンジ中と同じポートフォリオを継続することが正しいものでしょうか。

FIRE前と後、リスクテイクを同一にする人が多いが、本質的にはおかしい

 自分がどれくらいリスクを取ってもいいか、判断することは投資計画においては重要な要素です。リスクを過剰に取ったものの、下振れが大きく発生した場合、回復の余地がないというのでは困るからです。

 企業年金運用(確定給付企業年金など)では、一般に成熟度という概念をリスク許容度の判断指標として用います。企業全体としては活動が継続していくものの、年金受給者の数が増えていくと「現役社員8,000人:年金受給者300人」のようなところから「現役社員1万人:年金受給者5,000人」「現役社員1万人:年金受給者1万2,000人」のように逆転していきます。

 これは「確実な支出(年金支払い)」が生じることを意識する必要があるわけで、一般的には運用のリスクを高く取ることを控えるようになります。

 よく個人の運用でも「若いうちはリスクが取れる」といいますが、似たようなことを企業年金でもやっているわけです。

 さて、個人のFIRE実行「後」の運用は新規の追加拠出はストップし、取り崩しのみを行うことになります。下落相場でも取り崩しは必要で、下落相場に新規投資資金を追加することはできなくなります。

 普通に考えれば、FIRE「後」はリスク許容度が低くなり、投資のリスクを落としていくべきといえます。

 わが国におけるFIRE達成者の多くは「リスクが好き」というタイプだと思われます。積極的なリスク資産運用を行い、高利回りを獲得し早期リタイア生活に入ってきた経験がありますし、むしろリタイアすると自由な時間は増大しますから、ますます投資を継続したくなります。

 ある意味、リタイア後の趣味や生きがいの一部として資産運用が継続される感じです。これはこれで悪い話ではないのですが、これからFIREを目指していく「普通の人」にとっては高すぎるリスクであることを、FIREチャレンジャーは意識しておくべきだと思います。

一方でリスクを取らない資産管理は期待リターンを下げる

 さて、自分のリスク許容度が低いことを謙虚に受け止め、投資比率を一定割合に抑える決断をしたとき、期待リターンがダウンすることを受け入れる必要があります。

 仮に分散投資をしたリスク資産に年4%のリターンを期待し、これと年0.02%の定期預金と組み合わせるポートフォリオを構成するとします。

 シンプルに「投資5:定期預金5」とすれば、期待リターンは、年2.01%です。この場合、いわゆる「4%ルール」(25年分の生活費を資産形成し、年4%の収益確保をすれば、資産は目減りしない)は維持できません。

 しかし、過剰なリスクテイクを避けていることは賢明な判断でもあり、この場合は取り崩しを前提としたマネープランニングを検討することになります。

 先ほどの取り崩しを考慮し「65歳時3,000万円」のシミュレーションを「年2.01%」に下げると、それぞれの年齢時点での目標額は下記のとおり上方修正されます。

60歳時点 4,615万円
55歳時点 6,076万円
50歳時点 7,396万円
45歳時点 8,591万円
40歳時点 9,671万円

「1億円貯めて40歳でFIRE」は期待リターンを下げても実行可能とするために、必要な資金額だとみなすこともできる、と考えることもできるわけです。

 また、60歳時点あるいは55歳時点での早期リタイアであれば、年利4%でも年利2.01%でもあまり準備額の差が出ないことも分かります。取り崩し時間を短くすれば、リスクを高くとらなくても、FIRE実行ができるわけです。

FIRE「後」は運用以外の人生の楽しみを見つけよう

 FIRE実行後は、あなたの時間的リソースを投資に割くのではなく、もっと他のことに使ってほしいと私は思います。

 FIREに向けてチャレンジしている人は、仕事に全集中をしていて自由時間をあまり持たないかもしれません。趣味もなく、仕事と運用にほとんどの時間的リソースを割き続けます。

 これはこれで夢の実現には大切なことですが、FIREチャレンジ中もほんの少しでもいいので、趣味、生きがいにも時間を割くことをオススメします。

 アニメ、ゲーム、旅行、歴史、観劇、スポーツ観戦など、「興味あるから、いつかやってみよう」ということをたくさん見つけておきましょう。

 タブレットで読書をしたり、サブスクでアニメや映画を見ること、あるいは年に一度は骨休めの旅行をするようなことに、ちょっとだけ時間とお金を割き、「FIRE後」にもやりたいことを見つけておくのです。

 FIREを実行に移せば、朝8時から夜の12時まで、毎日16時間があなたの自由時間になります。40歳でリタイアをすれば、90歳までとしても29.2万時間もの「自由」を持て余すことになります。

 FIRE達成者がブログを書いたり、投資を続けるのも、実はこの「自由時間」の使い道であるわけですが、まじめにFIREチャレンジしてきた人ほど、「投資以外に趣味がない」状態になり、途方に暮れてしまうことがあるようです。

「何もやることがない……ヒマだ」と朝の10時からつぶやきながら、つまらないことを承知の上でワイドショーをダラダラ見ているようなFIREライフはつまらないものです。

 投資への負担を軽減させつつ、「投資以外」の夢中になれることを見つけるのもまたFIREチャレンジの大切なテーマなのです。

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