あの日から20年の節目。「過去の常識」を捨てなければならないと、改めて認識

 2001年9月11日(火)の朝(日本時間同日夜)、米国東部の複数の主要空港から同国西海岸に向けて飛び立った4機の旅客機が、合計20名弱のイスラム過激派組織「アルカイダ」のメンバーによってハイジャックされました。

 アメリカン航空11便はニューヨークのワールドトレードセンターの北棟に、ユナイテッド航空175便は同南棟に、アメリカン航空77便はバージニア州の米国防総省に激突し、ユナイテッド航空93便はペンシルベニア州のピッツバーグ郊外に墜落しました。

 死者およそ3,000名、負傷者2万5,000名以上、物的被害100億ドル超。米国史上最悪となったテロ事件は、アフガン紛争、イラク戦争のきっかけになりました。あの日から20年を迎え、わたしたちは何を感じ、何を考えればよいのでしょうか。

 市場および投資関連情報を扱う筆者としては、この20年の間に、市場で起きたことを振り返るべく、コモディティ(商品)市場の全体像を示す代表的な指数であるCRB指数に注目しました。明るいニュースも暗いニュースも、ありました。こうしたニュースを消化しながら、市場は動いてきました。

※CRB指数の詳細は、以前の「コモディティ(商品)だけで分散投資はできるのか?」で触れていますので、興味がある方はご参照ください。

図:2001年以降の商品(コモディティ)価格と主要株価指数の値動き(ともに月足 終値)
2001年9月を100として指数化

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 ご覧のとおり、2012年ごろから、株価とコモディティ(商品)価格の連動性が低下しています。欧州の債務危機や北アフリカ情勢が悪化しても、逆オイルショックが発生しても、株価は下がることが許されなくなっているかのように、ほとんど下落せずに、上昇し続けています。

 なぜ、株価とコモディティ(商品)価格の連動性が低下したのでしょうか。なぜ、株価のようにコモディティ価格は大暴騰していないのでしょうか。景気は本当に良いのでしょうか(株価は景況感を正しく反映しているのでしょうか)。さまざまな疑問がわいてきます。

 もはや、市場環境が「複雑化した」と認識せざるを得ないでしょう。20年間の値動きを振り返り、改めて認識させられたのは、市場が「複雑化」したこと、そして、分析の際は「過去の常識」を捨てなければならないこと、でした。

投資家を含め市場関係者は、投資脳を一度、リセットしなければならない

 例えば、この20年間で起きた大きな変化を挙げると、以下のようになるでしょう。市場はこれらを飲み込みながら、推移してきたわけです。

図:この20年間で起きた大きな変化(例)

出所:筆者作成

 この20年間に起きた変化を考えた時、筆者の頭にある問いが浮かびました。こんなにも多くのことが起き、こんなにも世の中が変化する中で、「定石」「定説」「常識」が変わらないことなど、あるのだろうか? 20年前の常識を今、そのまま用いることが有効か? という問いです。

 価格の上昇は、「景気がよい」「需要が旺盛である」ことを示す。このことは、経済学的には「常識」であるわけですが、この20年の間、景気が悪くても、需要が落ち込んでも、価格が上昇する場面を、筆者は何度も見てきました。

 価格上昇が、必ずしも人類が(特に市場関係者が)期待する、景気の良さや需要の旺盛さを示さない事例が増えたのは、この20年間に、上記のような多数の大規模な変化が絶え間なく起き、市場を含む世の中全体を取り巻く環境が変化したからだと、筆者はみています。

 心の奥底で「よりどころ」「すがるもの」を欲する人という生き物が持つ、「期待の前借り」の特性が、特に近年、市場に反映していると思えてなりません。

 価格が足元の実態と激しく乖離(かいり)している今こそ、20年間の変化を直視した上で、「投資脳」を一度再構築し、市場分析にあたることが、必要だと考えます。

 こうした取り組みは、多少の煩雑さを伴うものですが、20年間の激動と言える変化を経て市場が「複雑化」してきたことを考えれば、市場関係者や投資家も、そうした市場の変化に合わせて、考え方を変えていかなければならないでしょう。

なぜ、SDGsは複雑なのか?

 ここからは、世の中が「複雑化」したことを示唆する2つの例を挙げ、市場分析を行う際の考え方をリセットしなければならない理由を補足します。1つ目は「SDGs」、2つ目は「大学入試改革」です。

「SDGs」は、国際連合(国連)が定めた2030年までに世界の人々が達成しなければならない目標です。Sustainable(持続可能な) 、Development(開発)、 Goals(目標)の略で、17の目標、169のターゲットで構成されています。

「leave no one behind(地球上の誰一人取り残さない)」ことを誓っています。つまり、地球上の誰もが、自分事と考えて取り組まなければならないのです。

 目標が設定されたということは、そこに問題が存在していることを意味します。世界には、マイナスをゼロにする「改善」や、プラスをさらに拡大させる「向上」を実施しなければならない、さまざまな問題が存在します。

「SDGs」はそれらへの対策として、17の目標とそれらの目標を具体化した169のターゲットを有しています。

 実は、このSDGsには原型があります。「MDGs(Millennium Development Goals)」です。2000年9月に採択された「国連ミレニアム宣言」をもとにまとめられた、2015年までに達成すべき国際社会共通の目標です。

 この「MDGs」の目標の数は8つで、達成できなかった目標はSDGsに引き継がれました。

図:MDGs(2000年)とSDGs(2015年)

出所:外務省のウェブサイトより筆者作成

 国際社会共通の目標の数が、8(2000年)から17(2015年)に増えました。このことは、世界全体で取り組まなければならない課題が増えたこと、つまり、世界を取り巻く環境が、より複雑化したこと、あるいは複雑化していることを認識し始めたことを示唆していると言えます。

「SDGsは、豊かな先進国が貧しい途上国を助けるという、単純なものではない」という指摘があります。

 この指摘は、SDGsが採択された2015年が、先進国を含むすべての国が、さまざまな問題解決に取り組まなければならないくらい、国際社会が「複雑化」していることを、国際社会が同意した年だったことを示していると、言えるでしょう。

なぜ、大学入試改革が行われているのか?

 世の中が「複雑化」したことを示す例をもう1つ挙げます。「大学入試改革」です。日本における「大学入試改革」をめぐる動きは、2012年ごろから活発化しはじめました。

 今般の「大学入試改革」は、「学力の3要素」を多面的・総合的に評価することを旨としています。従来のいわゆる「詰込み型」は、知識の習得には有効であるものの、現代社会で求められる人物を育てることを念頭におけば、不十分との認識です。

 文部科学省の資料には、「詰込み型」から脱却することを決め、大学入試改革を進めるに至った背景について、以下のように書かれています。

図:日本における「大学入試改革」をめぐる動き

出所:文部科学省の資料より筆者作成

「国際化、情報化の急速な進展、社会構造も急速に、かつ大きく変革」「新たな価値を創造していく力を育てることが必要」などと、力強い文言が盛り込まれていることから、文部科学省が「世の中が変わった」ことを強く認識していることが伺えます。

 日本において、こうした議論が活発になったのは先述のとおり、2012年ごろからです。

 また、高校が大学に提出する調査書を電子化することの研究では、「多様性」への評価を拡充することについて、言及されています。「多様性」は大学入試改革に関わらず、近年、頻繁に耳にするようになりました。「ダイバーシティ」です。

「多様性」を評価項目として重視する背景には、世の中で多様化が進行したこと、多様化が今後さらに進行する可能性があることが、挙げられます。物事を点で見る、見えているものだけを見る、見たいもの信じたいもの聞きたいもの感じたいものだけを取り入れる、などの姿勢は、多様性を重視する考え方に反します。

「多様性」を意識する時のコツは、頭の中をニュートラル(中立)にすることだと、筆者は考えています。さまざまなことが身の回りで起きていますが、それらを認識する上で、偏らない、まんべんなく見る、俯瞰する、などの姿勢が、現代人に求められているのだと思います。

 日本のみならず、「多様性」を追求する、こうした改革が世界各地で進んでいることは、世の中が「複雑化」していることの証と言えるでしょう。

「思考の格差拡大」は、度重なる「ショック」が要因

 SDGsや日本の大学入試改革の例を用い、世の中が2000年ごろから「複雑化」してきたことについて述べました。これらは世の中の仕組みが複雑化したことを示す例でした。

 人類が作り出した「市場」という機能は、世の中を構成する1つの要素です。このため、世の中の「複雑化」とともに、市場も「複雑化」してきたと考えられます。投資家を含む市場関係者においては、「複雑化」した市場と対峙(たいじ)するために、自らの思考を「複雑化」させる必要があるでしょう。

 もし、市場が複雑化していなければ(過去の常識で説明できる環境が継続していれば)、株価とコモディティ価格の推移は、あれほどまでに大きく乖離することはなかったでしょう。

 思考の複雑化について考える際、個人間の「思考の格差」が拡大傾向にあることに留意しなければなりません。以下は、災害が発生した時に起き得る、人々の思考の段階を示したものです。

 危機発生時、人は5段階のプロセスを経て乗り越える、という考え方です。無関心→混乱→不安→受容→再出発の5段階です。

 新型コロナウイルスがパンデミック(世界的な大流行)となり、日本で初めて緊急事態宣言が発令されたころ、著名な精神科医が、市民のメンタルヘルスを整えるための一つの考え方として、この5段階を提唱しました。

図:危機を乗り越える際の5段階のプロセス

出所:各種資料より筆者作成

 コロナ禍などの危機時、自分が5段階のどこにいるのかを認識することで、現状分析が進み、自分が置かれている状況を自分の言葉で説明できるようになり、精神安定を実現しやすくなると、この精神科医は述べています。

「言語化」は何事においても非常に重要なテーマですが、言語化を精神安定に用いることを体系化したものが、この5段階のプロセスだと言えます。

 今どの段階にいるのか、今いる段階に時間的にどの程度滞在するか(次の段階に移るまでにどの程度時間がかかるのか)は、人それぞれ、まちまちです。コロナ禍にあり、すべての人が同じ段階にあり、同じタイミングで次の段階に進む、などということは、ありえません。

 ここで留意したいのは、不安や過去に回帰したい思いが強くなり、特定の段階にとどまり続ける人(思考が止まる人・変わらない人)と、不安を言語化ながら、どんどんと先に進む人(思考する人・変わる人)の段階の差が、時間の経過とともに大きくなることです。

 この点が、個人間の思考の格差を拡大させる要因です。

 世界規模の「ショック」(コロナに限らず)は、前向きな思考停止の主因となる「大きすぎる成功体験」と同様、「変わらない人」を生む大きな要因の一つです。ショック発生→時間の経過とともに思考の格差拡大、という流れはこの20年間で何度も繰り返されてきました。

 その度に、変わらない人と変わる人の思考の格差が拡大し、世の中全体として、「思考の複雑化」が進行してきたと言えます。この点は、世の中の「複雑化」を助長していると言えます。

「複雑さ」を愛せ。もはや市場分析から複雑さを切り離せない

 ここまで、株価指数とコモディティ(商品)価格の連動性が低下していること、世の中が「複雑化」したことがその主因とみられること、この20年間で起きたさまざまな変化が「複雑化」の原因とみられること、「複雑化」は身近な例で示すことができること、個人間の思考の格差拡大が「複雑化」を助長しているとみられることについて、書いてきました。

 今や、「複雑化」は、「市場」を含む今の世の中を説明する上で、必要不可欠な存在であると言えるでしょう。「単純さ」が魅力的に見えることもありますが、現在の市場や世の中は、それだけでは語りつくせなくなったのも事実です。

図:同時多発テロから20年経過した現在の相場分析の要点

出所:筆者作成

「過去の常識」はシンプルさが売りでしたが、状況が大きく変化したため、相場分析においては、それだけでは不十分と言わざるを得ません。

「過去の常識に頼らない、柔軟で強靭(きょうじん)な、状況を俯瞰する考える力を備える」。このことは、米国で起きた未曽有のテロが発生してから今までの20年間に起きた変化を認識することで得られた、個人投資家を含むすべての市場関係者が今すぐにしなければならないことだと、筆者は考えています。

不可逆的テーマは複雑化に強い。「脱炭素」関連銘柄、銀、プラチナ、排出権に注目

 この20年間で、市場は、単純さを旨とする「過去の常識」では分析しきれない状態に変化した、市場やそれを含む世の中全体の「複雑化」がその原因とみられる、と書きました。こうした状況で、どのような銘柄選択のアイデアがあるでしょうか。

「市場や世の中が複雑化しても変わりにくいもの」に着目することが、一つの方法であると考えられます。変わりにくいもの=不可逆的テーマ(後戻りしないテーマ)と、考えれば、まさに今、そして向こう数十年間、人類が維持し続けるだろう「脱炭素」に、直接的に(間接的ではなく)関わる銘柄です。

 太陽電池の普及に貢献する可能性がある「銀」(目下、当該需要は増加中)、クリーン水素(温室効果ガスを発生させずに得られた水素)の普及に貢献する可能性がある「プラチナ(白金)」、そして、温室効果ガスの排出権を融通し合う際に役立つ「温室効果ガスの排出権」です。

 銀と太陽電池の関係は「太陽電池と中国株と銀(シルバー)の関係に注目」、プラチナとクリーン水素の関係は「なぜ下がらないプラチナ価格!?将来、「水素社会」の必需品になる可能性も」をご参照ください。

 現時点で、個人投資家の皆さまが容易にアクセスできる銘柄は、銀とプラチナでしょう。世の中が複雑化しても、人類が「脱炭素」を諦めない限り、当該テーマに関連する需要は増加する可能性があり、それにともない、これらの銘柄の価格は、超長期的に上昇する可能性があると、筆者は考えています。

「複雑化」した市場・世の中であるからこそ、こうした不可逆的テーマに直接的に関わる銘柄は、超長期的に見て強い、と考えます。

図:「複雑化」に強いとみられる、不可逆的テーマ「脱炭素」に直接的に関わる銘柄

出所:筆者作成

 あのテロから20年の間に、大きく変貌を遂げた市場や世の中の情勢を確認し、今後の市場を展望する上での留意点に触れ、筆者が考える超長期的に注目できそうな銘柄を紹介しました。本レポートが、皆さまの参考になれば、幸いです。

[参考]銀関連の具体的な投資商品

銘柄名 ティッカー 概要
ジンコソーラー・ホールディング JKS 中国の太陽電池関連企業
隆基绿能科技 (ロンジ・グリーン・エナジー) 601012
ファースト・マジェスティック・シルバー AG カナダの銀などの生産会社
メキシコなどの鉱山の採掘権を持つ
エンデバー・シルバー EXK
フォルトゥナ・シルバー・マインズ FSM
パン・アメリカン・シルバー PAAS
ガトス・シルバー GATO 米国の銀などの生産会社
iシェアーズ・シルバー・トラスト SLV 銀価格に連動する設計の
ETF(上場投資信託)
純銀上場信託(現物国内保管型) 1542
WisdomTree 銀上場投資信託 1673
銀積立価格   銀の現物価格
銀先物価格(国内)   OSEで売買される銀先物の価格
銀先物価格(海外)   CMEで売買される銀先物の価格
出所:楽天証券のウェブサイトをもとに筆者作成

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)