中国の「規制ラッシュ」が止まりません。

 今回の対象はゲーム業界。政府がオンラインゲームを提供する企業に対し、18歳未満の未成年者には、週末、休日、祝日にかぎり、1日1時間しか提供してはならないとする新たな指針を発表し、関連株は下落しました。

 この動きの背景には何があるのか、指針が意味するものは何なのか、今回は読み解いていきます。

未成年者のオンラインゲーム使用を週末・祝日各1時間に規制強化

 8月30日、メディアや出版を管轄する中国国家新聞出版署が『未成年者のオンラインゲーム依存を切実に防ぎ、より一層厳格に管理するための通知』を発表しました。

『通知』によれば、オンラインゲームを提供するすべての企業は、金曜日、土曜日、日曜日、法で定められた祝日(年間計11日)の20時から21時という1時間に限ってサービスを提供でき、ほかの時間はいかなる形式でも提供してはならないと規定しました。要するに「週3時間+アルファ」ということです。

 また、オンラインゲームを使用するすべてのユーザーに、実名での登録とログインを要求しました。これによって、未成年者のオンラインゲーム使用が大きく制限されることになりますが、『通知』が主に対象にしているのはサプライサイド、すなわち企業側。ユーザー側は、例えば両親の氏名や身分証番号などを借りて、身分を偽って長時間使用するといった「抜け道」を見いだすことは必至であり、故に企業側の行為を厳格に管理しようというわけです。

 企業側は今後、当局からより厳しい監視を受けるのは必至であり、違反した場合の処罰もその分、厳しくなると警告しています。

『通知』を受けて、31日の騰訊控股(テンセント・ホールディングス、0700:香港)株は3.6%安、米上場の網易(ネットイーズ、NTES:ナスダック)はオーバーナイトで3.4%安、31日の香港上場株(09999:香港)も同程度値を下げました。

『通知』は文末を次のように結んでいます。

「家庭、学校など社会における各方面による共同管理、共同統治を積極的に引導し、未成年者を守る責任を法に基づいて履行することで、未成年者の健康的な成長のために良好な環境をつくっていかなければならない」

未成年者へのオンラインゲーム規制はアルコール、喫煙禁止と一緒?

『通知』を読みながら、私は中国本土の大学で教べんを執っているときのことを思い出しました。学部生、大学院生を含め、学生(主に男の子)が勉学に集中しない、宿題や試験準備がおろそかになっている最大の原因がオンラインゲームに対する中毒的、熱狂的ともいえる依存だったからです。これは、彼らが未成年の頃から蓄積してきた生活習慣でした。

 中国の大学は全寮制ですから、ルームメイトへの影響は必至で、授業時間以外は4人一部屋の空間に閉じこもり、ずっとゲームをしている。また、週末以外は22時消灯、門限もあるので、その前に外出し、オンラインゲームを提供するマンガ喫茶のような場所で朝まで過ごす学生もいました。

 これでは何をしに大学に来ているのか分からないし、何より心身の健康上よくないと判断した私は、仲のいい教え子たちに声をかけ、一緒にランニングする習慣を身に付けさせたこともあるほどです。

 私自身はオンラインゲームをしたことがありませんし、中国と日本を含めた海外の間で、ユーザーののめり込み具合、社会的影響という意味で、どのような相違性が見いだせるのかも定かではありませんが、少なくとも中国の若者たちの「ゲーム依存症」を眺めながら、異常性の一端は垣間見た思いです。親御さんたちもとても苦労されていました。

『通知』からは、このような現状にメスを入れようという当局側の意志が如実に反映されています。

「週3時間+アルファ」を適当な時間と受けとるか、短すぎると受けとるかは人それぞれでしょう。そもそも、当局が主導してこのような規定を設けること自体「人権侵害」だという意見も大いにあるでしょう。この点を中国政府の知人と話をしていると、次の答えが返ってきました。

「日本は未成年者のアルコール飲酒や喫煙を禁止している。アルコールやたばこを提供する側に未成年者に売らないように求めている。未成年者の中には未熟で、社会の道理や規則を守らない人間も多い。だからこそ、大人側に要請する。中国が未成年者のオンラインゲーム使用に制限を加える、そのために企業に対する監視を厳しくするのも同じ考え方、論理だ」

 この中国官僚の比較は的を外したものではないと思いますし、「依存症」や健康的成長の阻害という意味では、当事者だけでなく、社会全体の問題にも発展しかねない、故に政府として法制度・ルールを強化するということなのでしょう。

 実際に、今回の「新規制」は新しいものでは決してありません。

 市場や世論であまり議論されていませんが、今年6月1日から施行されている『中華人民共和国未成年者保護法』は、「オンラインゲームサービスの提供者は、対未成年者へのサービス提供に時間的制限を設けるべきであり、毎日の22時から翌朝8時の間、サービスを提供してはならない」と規定しています。

 また、2019年、今回と同じ国家新聞出版署が発表した『未成年者のオンラインゲーム依存を防ぐための通知』は、オンラインゲーム企業は未成年者に対して、休日は1日3時間、他の日は1日1.5時間を超えてはならないと規定しています。

 これに対して、「多くの親御さんたちは、我々が規定した基準は依然として甘く、より厳しく短縮してほしいという意見を反映してきた」(国家新聞出版署責任者、8月30日)経緯があり、今回の措置に踏み切ったということでしょう。

 2年前と今回の『通知』タイトルを比較すると、後者に「切実に」「より一層厳格に」という文言が入っているのはそのためです。繰り返しになりますが、昨今になって突然降ってきた「新規制」などでは決してないのです。8月30日というタイミングで公表した理由は、新学期直前という時期的要因以上でも以下でもないでしょう。

オンラインゲーム規制は習近平政権の特徴を反映している

 ここからは、『通知』が何を意味、示唆しているのかを考えていきます。

 結論から言えば、習近平新時代の方針や特徴を如実に体現しているというものです。これまでも、IT企業教育産業などを扱ったレポートで検証してきましたが、習近平(シー・ジンピン)総書記率いる中国共産党指導部には、中国経済を持続的、安定的に発展させるためには、市場の規則や秩序を構築し、企業側にしかるべきルールや基準を要求することで、労働者、消費者、有権者としての人民、特に中低所得者層の権利と利益を保護するという意識が非常に強いです。

 ゲーム業界に関する今回の『通知』に関しても、規制強化の対象は企業側ですが、当局が究極的に保護したいのは人民側の権利・利益なのです。もちろん、企業とて人民から成り立っているのであり、企業の業績が悪化すれば、人民の権利・利益を損ない、経済成長にヒビが入ることで、中国共産党自身の正統性も危うくなるリスクをはらんでいます。

 党・政府指導部は、このリスクを百も承知の上で、それでも、義務教育段階の学習塾を非営利化したときのように、当局として何らかの措置を講じなければ、子供たちの健全な成長に危害が及び、深刻な社会問題と化す、結果的に中国経済の持続的、安定的成長を阻害する根源的な脅威になり得ると考えて、今回の措置に踏み切ったというのが私の分析です。

 とはいえ、教育産業の回でも言及したように、中国では「上に政策あれば、下に対策あり」。上記の「親の身分を借り、成人として“実名登録”する未成年者」の例にも見られるように、サービス提供側も利用側も、あの手この手を使って、暗黙の了解で互いの欲求を満たそうとするのは必至です。

 中国では「抜け道」「灰色地帯」が常態化しています。当局はそれを分かっているからこそ、多くの機関投資家が「やり過ぎ」「常軌を逸している」と嘆くほど驚嘆な規制強化を施しているのだと私は考えます。