預金の取り崩しには税金はかからない
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前回「リタイア生活の収入にかかる所得税・住民税は?」は、FIRE (Financial Independence、Retire Early:経済的自立と早期退職)生活をする際の生活費の工面として、「新たな収入を得る」際に生じる税金についてご説明しました。
今回は生活費の工面方法として、「保有する資産を売却したり、取り崩して充てる」際に生じる税金を取り上げます。
まず、最もよく行われるのが預金の取り崩しでしょう。実際に預金を引き出したり、口座振替をしたり、クレジットカードの引き落としなど、さまざまな場面で預金が取り崩されて、支払いに充てられます。
預金の利息を受け取る時点で、「所得税15.315%+住民税5%=20.315%」の源泉徴収がなされ、課税が完了しています。
したがって、その後、預金をいくら引き出したり取り崩したりしても、その行為に課税されることはありません。
株式や投資信託の売却・解約は?
保有する株式や投資信託の株価・価格が大きく値上がりしたため、それらを売却・換金して生活費に充当するケースもあるでしょう。
株式や投資信託を売却・解約した場合、値上がり益に対して「所得税15.315%+住民税5%=20.315%の税金(譲渡所得)」がかかります。
1年間トータルで計算した譲渡所得について、一般口座や源泉徴収なしの特定口座であれば、原則として確定申告が必要となります。
源泉徴収ありの特定口座の場合は、源泉徴収により課税が完了しているので確定申告は不要ですが、確定申告した方が有利な場合は確定申告することもできます。
この確定申告した方が有利な場合とは、例えば前年以前から繰り越している譲渡損失と本年の譲渡所得(譲渡益)を相殺するとき、他の所得を合わせても基礎控除を下回るときなどです。
1年間トータルで譲渡損失となった場合は、税金はかかりません。ただ、譲渡損失を翌年以降に繰り越すためには確定申告をする必要がありますので、忘れないようにしましょう。
所有する不動産の売却の場合はどうなる?
FIRE生活を送る方の多くは、不動産の賃料収入を生活費に充てるものと思います。株式の売却益を見込むのはかなり不確定ですが、賃料収入であればかなり安定しており、FIRE生活のプランニングが立てやすいからです。
それでも、時には所有する不動産を売却するケースもあり得るでしょう。
特に都心部の不動産を保有しているような場合、価格高騰により大きな売却益を見込めるのであれば売却し、別の物件に投資したり、不動産市況が落ち着いて価格が低下するのを待つ、という戦術も考えられます。
不動産の売却益(譲渡所得)に対する税金は、不動産の所有期間により異なります。具体的には、売却する年の1月1日時点で所有期間が5年超か5年以下かにより変わります。
所有期間 | 不動産の売却益(譲渡所得)に対する税金 |
---|---|
5年超 | 長期譲渡所得として、所得税15.315%+住民税5%=20.315% |
5年以下 | 短期譲渡所得として、所得税30.63%+住民税9%=39.63% |
令和3年中に売却するのであれば、平成27年12月31日以前に取得したものは長期譲渡所得、平成28年1月1日以後に取得したものは短期譲渡所得となります。
所有期間に応じて税率が2倍近く異なるといった点も考慮して、手取り収入がどのくらいになるか事前にシミュレーションした上で、売却するか検討するようにしましょう。
なお、売却により損失が生じた場合は、税金はかかりませんが、上場株式や投資信託のように、損失を翌年以降繰り越すことはできません。
暗号資産を売却するときは十分な注意が必要!
FIRE生活を送る方の中には、暗号資産を保有している方も多いのではないでしょうか。何年も前から暗号資産を保有していれば、それだけで資産1億円を軽く上回る…ということもあるでしょう。
この暗号資産の売却は、上記の株式・投資信託や不動産の売却と大きく異なりますので、十分な注意が必要です。
それは、暗号資産の売却益は雑所得に分類され総合課税になるという点です。つまり、所得の多寡により税率が異なってくるということです。
例えば、暗号資産の売却益に、他の総合課税の所得(給与所得、事業所得、不動産所得など)を加えた課税所得が300万円の場合、税金は約51万円、税率にすると約17%です。
しかし、課税所得が1,500万円の場合の税金は約499万円となり、税率は33%にはね上がります。
課税所得が5,000万円であれば、税金は約2,308万円、税率46%にも上ります。
したがって、暗号資産を売却する場合、必要以上に売却して売却益がふくらむと、思わぬ多額の税金が課税されることになってしまうため、十分な注意が必要です。
もちろん、税負担を過度に意識して、売却すべきタイミングを逸するということは避けたいですが、例えば売却しようとしているのが年末であれば、「その年に売却したい数量の半分、翌年に残り半分」とすれば一度に全額を売却するより税負担は減らせる可能性があります。
なお、暗号資産の売却により損失が生じた場合は、課税はされません。
ただ、損失は雑所得の損失に該当し、給与所得や事業所得、不動産所得などと損益通算することはできません。翌年以降に繰り越すこともできず、切り捨てになってしまいます。
売却により国民健康保険料・介護保険料の負担増となる可能性も
手持ち資産売却により、税負担のみならず、国民健康保険料や介護保険料の負担増となる可能性も考慮しておく必要があります。
不動産売却や、暗号資産売却により所得が増加したなら、国民健康保険料や介護保険料も増額となります。
なお、上場株式や投資信託の譲渡所得については、源泉徴収ありの特定口座、かつ住民税においては確定申告しないと選択した場合は、国民健康保険料や介護保険料の計算上影響を与えずに済みます。
筆者としてはこうした点からも、上場株式や投資信託については源泉徴収ありの特定口座にて取引することをお勧めしたいと思います。
将来の収入の変動や税制面の変化にどのようにして備えておくべきか
3回にわたり、FIRE生活の税金についてお話ししてきました。ただし、この内容はあくまでも現在の税制におけるものです。
将来的に税制が変更となり、税負担が今までよりも増加するかもしれません。それにより、想定していたよりも手取り収入が減少する可能性もあります。
そして、そもそも収入そのものが現時点での想定から変動するという可能性も大いに考えられます。
このように、将来は不確実なものですから、それに対応するためにはある程度のバッファーを設けておくべきだと筆者は思います。
筆者であれば、例えば年間600万円の手取り収入が見込める、と計画したとしても、それが半分の300万円に減っても生活ができるかどうかを想定し、それが難しいとなればFIRE生活には踏み切りません。
将来は何が起こるか分かりません。ギリギリの見切り発車でFIRE生活をスタートすると、想定外の出来事が起こったときに破たんしてしまいます。
激震が起こっても対応できるほどの余裕を持てた段階で満を持してスタートさせるのが、成功の秘けつだと思います。
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