米国市場ではグロース株のリターンがバリュー株を逆転

 米国市場では、7月12日にS&P500指数など主要株価指数が過去最高値を更新した後、上値の重い動きとなりました。

 13日に発表された6月CPI(消費者物価指数)の前年同月比が+5.4%と市場予想を上回ったことで、インフレを不安視した長期金利がやや反発。7月8日に1.2%台に低下していた10年国債利回りは1.4%台に上昇しました(13日)。ただ、経済正常化とペントアップデマンド(繰越需要)に伴う物価上昇率の加速は年央がピークになるとの見方が有力です。

 パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は14日、下院議会で「供給制約や人手不足が解消すればインフレ率は低下に向かうため、現在みられる物価の著しい上昇は一時的」と明言。株式市場の物色変化については、5月初旬以降の長期金利の落ち着きがグロース株優位の要因となってきました。

 図表1は、日米市場の株価指数別に「年初来騰落率」と「3カ月前比騰落率」を比較したものです。米国市場では、「3カ月前比騰落率」でグロース株がバリュー株に対し優勢を強め、「年初来騰落率」でもグロース株がバリュー株を逆転しました。

 GAFAM(ナスダック総合指数やS&P500指数の上位5銘柄)の堅調が寄与し、グロース株の復調(年初来+17.5%)がS&P500指数の堅調(年初来+16.5%)をけん引している状況です。

 米国市場は当面、今後本格化する企業決算とガイダンス(業績見通し)の発表を確認しつつ、目先の物価上昇と金融政策を巡る思惑を受けた長期金利の行方や変異ウイルス(デルタ株)の影響を受けやすい感染再拡大のリスクを見極める動きとなりそうです。

<図表1:米国市場ではグロース株がバリュー株を逆転>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2021年7月14日)

サイバーセキュリティを巡るリスクが社会・経済の脅威に

 世界では、個人や組織(企業や省庁)に対するサイバー攻撃の増加が警戒されています。

 サイバー攻撃とは、PCやサーバー、ウェブサイトなどを狙いネットワーク経由で情報の改ざん、漏えい、データの搾取などを行う犯罪行為です。攻撃対象の不利益や混乱を目的にする行為もあれば、企業情報や個人情報を入手して売買。「身代金」を要求する金銭目的の犯行、機密情報入手を目的としたスパイ活動も含まれます。

 本年5月、米国最大の石油パイプライン企業であるコロニアル・パイプライン社は、ランサムウエア攻撃(身代金を要求するサイバー攻撃)を受け6日間操業停止に追い込まれ、米国中の燃料供給がひっ迫してガソリン価格が上昇。同社は約5億円の身代金を支払ったと報道されました(WSJ紙・ブルームバーグ)。

 度重なる米国企業に対するランサムウエア攻撃に関しては、バイデン大統領が「ロシアに拠点を置くサイバー犯罪集団を取り締まる行動を起こす必要がある」とプーチン・ロシア大統領に要求する事態に至っています。

 こうした事案の他、独立行政法人IPA(情報処理推進機構)による調査「情報セキュリティ10大脅威 2021」によると、社会的・経済的に影響が大きいとされる広範な「サイバーセキュリティの脅威」が挙げられています(図表2)。

 特に今年は、「テレワーク等のニューノーマルな働き方を狙ったサイバー攻撃」が新規の脅威事案として取り挙げられ注目されています。

 今後、内外でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進展するに伴い、こうした潜在的な脅威やリスクに対する戦略的な防護・対処に関わる需要が拡大していくと考えられています。サイバーセキュリティは、DX進展で高い成長が見込まれる分野の一つと言えるでしょう。

<図表2:サイバーセキュリティで警戒すべき「2021年の10大脅威」>

出所: 独立行政法人IPA(情報処理推進機構)の調査より楽天証券経済研究所作成

ETFを活用してサイバーセキュリティ業界に分散投資する

 サイバーセキュリティ関連の需要が拡大するなか、米国を中心に世界各国で関連企業への投資機会が注目されています。

 そこで、米国籍ETF(上場投資信託)の中から、サイバーセキュリティ事業の成長と技術的向上の恩恵を享受すると考えられる企業(株式)に分散投資するファンドに注目したいと思います。

 図表3では、2種類の米国籍ETF(HACKとBUG)を一覧にして比較しました。どちらも、サイバー攻撃に対するセキュリティ技術を有した製品・サービスを提供するテクノロジー関連企業に分散投資を行うファンドです。両ファンドとも一口当たり取引価格の「1年前比騰落率」は堅調です。

 HACK(ピュアファンズISEサイバーセキュリティETF)は、比較的多数の銘柄(67銘柄)に分散投資することでリスク軽減を重視し、BUG(グローバルXサイバーセキュリティETF)は比較的限定された銘柄数(34銘柄)に集中投資して高めのリターンを目指している印象があります。

<図表3:サイバーセキュリティの有力ETFはHACKとBUG>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2021年7月14日)

 どちらのファンドも、独自に選定したベンチマーク(インデックス)に沿った分散投資を実施し、IoT(モノのインターネット化)やクラウド・コンピューティングなどの分野のサイバーセキュリティに関するコンサルティングサービスや製品を提供する企業を投資対象としています。

 BUGを例にとると、クラウドストライク・ホールディングス(CRWD)、ゼットスケーラー(ZS)、フォーティネット(FTNT)、パロアルトネットワークス(PANW)、オクタ(OKTA)、チェックポイント・ソフトウエア・テクノロジーズ(CHKP)などが上位保有銘柄となっています。

 図表4は、両ETFの取引価格の推移を示したチャートです。サイバーセキュリティ関連銘柄は、IT(デジタル)関連が多いため、短期的に変動が大きくなる場面は多々ありますが、個人や組織にとってのサイバーセキュリティ需要拡大と長期利益成長が見込める点で注目されており、同分野への投資妙味は大きいと考えています。

<図表4:HACKとBUGの取引価格推移を比較してみる>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年初~2021年7月14日)

▼著者おすすめのバックナンバー
2021年7月9日:米国でグロース株が復活?ナスダックのリベンジ高と「QQQ」に注目
2021年7月2日:資産形成はシンプルに!バフェットもすすめる米国株投資戦略
2021年6月25日:米国株は調整モードを抜け出るか?マクロ金利見通しで占う投資戦略