※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]いいタイミングで株を売るには 初心者でも真似できるルール
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 GW5連休の間、「3分でわかる!今日の投資戦略」では、株式投資の基礎レッスン1から5をお届けしてきました。今日は、最終回、レッスン5をお届けします。

安値で買い、高値で売るのは「健全なひねくれ者」?

 株は、安値で買い、高値で売ると利益が得られます。これは言うのは簡単でも、実際にやるのは難しいことです。なぜか? 日経平均に連動するインデックスファンドで考えてみましょう。

 日経平均が安くなっている時に買うということは、不安材料が増え、悲観を言う人が増えている時に、買うということです。高くなっている時に売るということは、好材料が増え、楽観を言う人が増えている時に、売るということです。世の中のムードに流されない「健全なひねくれ者」でないと、安値で買い、高値で売ることはできません。

 世の中が明るくなると株を買いたくなり、世の中が暗くなると株を売りたくなる「素直な人」は、どのように売り買いのタイミングを判断したら良いのでしょうか。

 ひとつ、オススメは「つみたて投資」です。給与天引きで、毎月一定額(たとえば1万円)を、コツコツと投資していけば、ムードに流されずに、安いところでも買い続けられます。ただし、「つみたて投資」は、買い方として優れていますが、この方法では、売り方はわかりません。

 もうひとつ、オススメの売買方法があります。買いだけでなく、売りのタイミングを考えるのにも参考になる方法です。退職金などで、一定のまとまったお金が手に入ったときに使ったらいい方法です。

 それは、私が、過去25年間、日本株のファンドマネージャーをやってきたときに、実際にやってきた売買方法です。とても簡単な方法なので、まねしようと思えば、誰でもできます。

ファンドマネージャー時代に実際にやってきたシンプルな売買のルール

 今回、ご紹介するのは、私が運用を担当していたある公的年金ファンドで実際にやっていたアセットアロケーション(資産配分)のリバランス(変更)ルールです。

 まず、そのファンドが、どこで日本株を売り、どこで日本株を買ったか、見てください。

<日経平均月足:2005年1月~2013年12月>

 このファンドでは、青矢印をつけたところ(2007年4~6月)、日経平均が1万8,000円をつけた時、日本株を売り、国債を買いました。当時は世界的に景気が良く、私は、「日経平均はまだまだ上がりそうなのに、ルールだから仕方ない」と渋々、日本株を売ったのを覚えています。

 赤矢印をつけたところ(2008年10月)、日経平均が1万円から8,000円割れまで下がった時は、複数回にわたり、国債を売却し、日本株を買い増ししました。この時、私は、「日本株は下がり過ぎ」と考えていましたので、株を買っていくことに違和感はありませんでした。ただし、ルールがなければ、あそこまで大胆に買い増しを続けることはできなかったと思います。

 それでは、そのファンドに定められていたリバランスのルールを、説明します。そのファンドは、国内株と国内債券に投資するファンドでした。投資比率は時価ベースで、国内株40%・国内債券60%と決められていました。このファンドには、以下のようなリバランスのルールが定められていました。「時価ベースで組入比率が、5%以上基準から離れた時、組み入れを基準の方向に戻す」というものです。それだけです。

 どういうことか、具体的に説明しましょう。仮に100億円のファンドの運用を、国内株式40億円・国内債券60億円でスタートしたとします。スタート時点で、株の組み入れ比率は40%、債券の組み入れ比率は60%です。

 その後、国内株式で+25%、国内債券で+1%のリターンが得られたとします。すると、国内株式は50億円、国内債券は60.6億円に時価が増加しています。合計すると、ファンドの時価総額は、110.6億円に増えています。ここで、時価ベースで組入比率をはかり直すと、国内株式は45%に上昇、国内債券は55%に下がっています。基準となる組入比率(株40%・債券60%)より5%かい離したことになります。

 ここで、リバランス・ルールが発動されます。ファンドマネージャーは株を売り、債券を買わなければなりません。実際、2007年4~6月に、このルールが発動され、私は日本株を売り、国債を買いました。当時、日本株に強気だった私が、日本株を売ることができたのは、リスク管理のためのリバランス・ルールに従ったからです。

 逆に、日本株が大きく下落し、日本株の組入比率が35%以下になると、リバランス・ルールによって、日本株を買い増ししなければなりません。2008年10月、リーマンショック後に日経平均が急落する局面で、このルールは複数回にわたって発動されました。

 私がそのファンドを運用していたのは、2003年から2013年までですが、日本株組み入れ比率の引き下げ・引き上げについて、大きな間違いをしないで済んだのは、リスクをコントロールするための適切なリバランス・ルールがあったからです。私が日経平均の先行きを予見する能力があったからではありません。

個人投資家はどうやったら良いか?

 この簡単なリバランス・ルールは個人投資家でもまねしようと思えば、まねできます。どうすればいいのでしょう?

 簡易にするため、運用対象とするリスク資産を日経平均インデックスファンドだけで説明します。次の(1)から(4)の手順でリバランスを行います。

(1)投資金額を決める

 まず、日経平均インデックスファンドを長期的にいくら持つか、基準となる投資額を決めてください。仮に100万円として、説明します。次に、日経平均インデックスファンドの時価ベースの保有額の下限と上限を決めます。基準となる投資額のプラスマイナス20%くらいがいいと思いますので、下限を80万円、上限を120万円とします。

(2)投資を開始

 まず、日経平均インデックスファンドを100万円買います。

(3)大きく下がった時のリバランス

 日経平均が20%下がると、投資金額は時価ベースで80万円となります。さらに下がると、時価評価額が80万円を下回ります。保有額の下限は80万円と決めていますので、ここでリバランスルールが発動されます。日経平均インデックスファンドを20万円買い増しして、投資額を100万円に戻します。

(4)大きく上がった時のリバランス

 逆に、日経平均が20%以上、上昇し、時価ベースで120万円を超えてくるときは、売る必要があります。保有上限を120万円と決めているからです。日経平均インデックスファンドを20万円売って、保有金額を100万円に戻します。

 リバランスは、一気に20万円やらないでも、とりあえず10万円だけやるというルールでも構いません。自分にとって、やりやすいルールを決めていただければ良いと思います。

 以上(1)から(4)のシンプルなルールに従うだけで、私が実際に年金の運用で行っていたようないいタイミングでの売買ができるようになります。

 個人投資家にとって、むずかしいことは、自分にとって長期的に保有すべきコアとなる投資金額がいくらか決めることだと思います。今まで、そのような考えがなかった人は、今日から、決めてみたら、いかがでしょうか。

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