社会を生き抜くためのフィルター「バブル経験の有無」

 2021年4月1日(木)、関東地方の平野部は、晴れ渡った青空に、見ごろを迎えた桜のピンクが映える中、新年度を迎えました。この日、日本各地でウェブ形式などで入社式が行われ、たくさんの2021年度(令和3年度)の新社会人が誕生しました。今回のレポートは、この度社会人になられた皆さんに向けたメッセージの体裁で書きます。

 筆者は、大卒求人倍率“1倍割れ”という記録的な就職氷河期の最中だった2000年に社会人になりました。20余年間、社会人をやってきて感じていることは、年々(というよりも日々に近い)、世代間の感覚のズレが拡大している、ということです。

 例えば、特に金融業界では、バブル期を体験した社会人と体験していない社会人、それぞれの頭の中で響いている通奏低音は異なっていると感じることがあります。過去の常識や強い成功体験を持っている金融マンと、それらを持っていない金融マン、という意味です。

 筆者は過去に、原油価格が下落する趣旨のレポートを書いた際、前者の金融マンに“何を弱気な事を言っているのだ!”とおしかりを受けたことがあります。当の金融マンは、原油価格が下がることが、景気が悪いことの証と考えていたのでしょう。景気が悪くなることを口にしてはならない、景気が良くなる話を書け、と言わんばかりの口ぶりでした。

“多数の投資家の気持ちの渦(思惑。正は期待、負は懸念)”は、昨今の原油相場の重要な変動要因ではあるものの、情報の発信者が強気になれば、他の市場関係者の思惑や需給を無視して原油価格は上昇するのか? そして、原油市場が米国の原油生産量の急増とOPEC(石油輸出国機構)の減産見送りという大きな下落要因を抱えていた当時、なぜ下落する趣旨のレポートがいけないのか? と、疑問を抱きました。

“金融マンは常に強気でなければならない”という考え方が、彼の頭の中を支配しており、それが形成されたのが、バブル期だった、というのが、現段階の筆者の分析です。

 また、各所で原油や銅などの景気動向に敏感と言われているコモディティ(商品)銘柄の動向について尋ねられた際、(根拠を申し上げた上で)下落する趣旨の話をすると、しばしば驚いた表情をされる方がおられます。年齢的にバブルを経験した方、あるいはバブルを経験した方を上司に持っている可能性が高い方が多いように思います。

“金融マンは常に強気でなければならない”、“原油や銅のレポートは常に強気でなければならない”、“原油や銅価格の上昇は景気が良くなっている証拠”、という考え方は、今となっては、時代錯誤と言っても過言ではありません。昨今、原油も銅も、金融緩和が行われていれば、景気が悪くても上昇することがあります。

 社会に出てしばらくすると、過熱感を帯びた景気を好む人や、景気の良かった過去に執着する人、常に強気で大きくて上昇するものを正義と疑わない人に出会うと思いますが、“バブル経験の有無”というフィルターを用いると、そのような人達の思考を理解できるかもしれません。

市場を読み解くためのフィルター「金融緩和の有無」

 新社会人の皆さんは、大学などで“株価は景気の先行指標”と教えられてきたのではないでしょうか。株価が景気の先行指標なのであれば、株価が上昇している時は景気が上向いており、株価が下落している時は景気が下向いていることになります。しかし、“不況時の株高”という言葉もあります。

“不況時の株高”は、景気が下向いている時に、株価が上昇すること意味する言葉です。先ほどの“株価が景気の先行指標”に則れば、景気が下向いているのであれば、株価はそれ以前から下落しているはずです。この点より、“株価は景気の先行指標”と“不況時の株高”は逆の意味を持っていると言えます。

 今は不況でも、いずれ来る景気回復を先取りし、株価が上昇することを“不況時の株高”と言えなくもありませんが、新型コロナが“パンデミック(世界的な流行)”とされた直後の、まだワクチンすらなく、今よりも先が見えなかった昨年3月から目立ち始めた株価の上昇が“不況時の株高”と呼ばれたことを考えれば、“不況時の株高”は、単純に“不況時でも株高は起き得ること”を示す言葉と言ってよさそうです。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済が必ずしも万全な状態と言えない中、国内外の主要株価指数が記録的な高値圏で推移していることを考えれば、“株価は景気の先行指標”と“不況時の株高”、どちらが足元の状況を示しているかと言えば、後者と言えます。つまり、教科書に書かれていた“株価は景気の先行指標”は、現状を示していないことになります。

 筆者の専門であるコモディティ(商品)市場でも、しばしば、教科書に書かれていることが起きないことがあります。有事(未曽有の危機。戦争だけでなく、金融危機や大規模な天災など多岐にわたる)が起きた時に、金(ゴールド)価格は大きく上昇する、株価と金価格、ドルと金価格は逆の動きをする、という話が、いわゆる“教科書的な金相場の説明”なのですが、近年はこれらだけで説明できない動きが頻繁にみられるようになっています。昨年8月に金価格が史上最高値をつけた際、株高が同時進行していました。

 このような“不況時の株高”と“株高・金高”を説明するために有用なのが、金融緩和です。以下のとおり、金融緩和は、全く別の文脈で、双方の上昇要因になり得ます。

図:金融緩和が株高と金高を同時に発生させる仕組み

出所:筆者作成

 また、以下のグラフは、現在と同様、米国で大規模な金融緩和が行われていたリーマンショック後のNYダウと金価格の推移です。ほぼ3年間、“株高・金高”が起きていました。

図:NYダウと金(ドル建て)価格の推移

出所:筆者作成

 株価の推移も、金相場の推移も、教科書に書かれていることだけで説明できなくなっているのは明白です。

 複数の主要国における、銀行の銀行と呼ばれる中央銀行がこぞって金融緩和という景気回復策を実施しています。社会のお金の流れを良くして景気を回復させるべく、国債などを買い入れる方法で社会に資金を供給したり、金利を低水準にしたりしています。

 上記の通り、金融緩和実施時は、不況でも株価が上昇したり、株価と金価格が同時に上昇したりします。つまり、金融緩和は、教科書通りにならない事象を生んでいるのです。

 社会に出てしばらくすると、具体的に人生設計に関心が向かい始めて、資産形成を始めるタイミングが到来すると思います。この時、過去の教科書で学んだことと実態が異なることが起きているかもしれません。その時は、“金融緩和の有無”というフィルターを用いると、なぜそのような事象が発生しているのかを理解できるかもしれません。

変化が激しい時代、人生や市場と向き合うためには、過去と決別し続けることが必要

 社会に出ると、景気の良かった過去に執着する人に出会ったり、株価や金価格が教科書通りに動かない事象を目の当たりにしたりすると思います。これらを理解・説明するためには、2つのフィルターが有用であると書きました。

 これらのフィルターを用いることは、物事を一歩引いて見ること、つまり、物事を俯瞰する(ふかんする。物事を点で見ない。空から見下ろすようにしてさまざまな材料に同時に目を配る)意味を含んでいます。

 現代社会で起きている事象は、昔のように単純ではありません。昔は、AならばB(例えば、株価上昇→好景気、有事→金価格上昇)と、事象を単純な命題で説明することができました。今は違います。景気の良かった過去の感覚・考え方では、今を正しく知り、将来を展望することはできません。

 社会はなぜ、そんなに大きく変化したのでしょうか? 主には2003年ごろからはじまった、コモディティ市場をめぐる複数の環境の変化が要因とみられます。

図:コモディティ市場の常識の変遷

出所:筆者作成

 また、以前の「ルビコン川を渡った人類の行動がもたらす金(ゴールド)市場への影響」で書いたとおり、先進国の債務の増加が社会のゆがみを大きくしたり、世界のネット人口の増加が社会の分断を深めたりしていることも一因に挙げられると、考えられます。

図:世界の人口、米国の債務証券残高、世界のインターネット人口の推移
※2020年を100として指数化

出所:各種資料より筆者作成

 人類の果てしない“富の追求”が、社会を後戻りできない大規模な変化に導き、社会の重要インフラの一つである“市場”が大きく変化した、と考えられます。そして、新型コロナの感染拡大が、変化のスピードを大きく加速させたと考えられます。

 このような変化が激しい時代を生きるために必要なことは何でしょうか? 筆者は、今のところ、過去や誰かに依存する密になってはいけない3つの要素から得られた、以下の“密になるべき3つの要素”がその答えだと考えています。

図:密になるべき3つの要素

出所:筆者作成

 この、“密になるべき3つの要素”は、市場を観察する時だけでなく、人生を歩む上でも、参考になると思います。筆者はまだ43歳ゆえ、まだまだ(まだまだ)発展途上ですが、世界的にも激動といえる変化が生じた20余年間、社会人として生活を送ってきて感じていることは、人生で重要なことは、いかに自分を過去から切り離すか、ということです。過去の失敗にも成功にも、執着してはいけません。重要なことは、今(厳密には、非常に近い将来)を凝視することだと思います。

 過去に執着せず、今を凝視することは、人生、そして市場と向き合うために必要な考え方です。

密になってはいけない商品市場の過去の常識、3連発(金、プラチナ、原油)

 過去に執着しないことは、人生、そして市場と向き合うために必要だと書きました。ここからは、密になってはいけない、具体的なコモディティ(商品)市場の過去の常識について書きます。

 過去の常識の共通点は、A→Bのように、材料を点で見ることです。以下の、金、プラチナ、原油、いずれもAが起きればBという価格推移になる、というものでしたが、先述のとおり、市場を含む社会全体は、大きく変化したため(しているため)、現在のこれらの市場は、単一の事象で価格推移を説明できるような、単純なものではなくなっています。

図:金・プラチナ・原油市場の過去の常識と現在

出所:筆者作成

 本格的に資産形成を始めてみようと思った時、さまざまな情報を集め始めると思いますが、金(ゴールド)に関する情報を見た時、仮に“有事で金価格が上昇している”という解説を見たとしても、それ(有事)が金相場の全てではない、それ(有事)だけで金相場は動いていない、と認識できるようになればしめたものです。

 金相場には、少なくとも6つ、テーマがあると考えられます。有事はその中の一つに過ぎません。株との関係も、ドルとの関係も、そうです。短中期的(数秒から数カ月)には(1)から(3)の3つが、長期的(数カ月から数十年間)には(4)から(6)の3つが影響し、金価格が決まっていると考えてよいと思います。

図:金相場の6つのテーマ

出所:筆者作成

新社会人の皆さんにお勧めしたいコモディティ(商品)関連の投資手法は“純金積立”

 社会人になりたての皆さん。ぜひ、純金積立に注目してください。筆者の専門がコモディティ(商品)だから、という点もありますが、純金積立は、これから資産形成を本格的に検討する人にとってうってつけの投資手法だと思います。

 金(ゴールド)は、“世界のお金”という側面を持っています。このため、金(ゴールド)のことを考えることは、世界情勢を考えることにつながります。大学院や大学、高校など、学びの庭から抜け出して目の当たりにしている社会が、何でできているのか、何がどう影響して動いているのか、わたしたちが住む、極東の島国日本の情勢ももちろん重要ですが、世界情勢を知ることは、自分を客観視できる機会にもなり、非常に重要です。金(ゴールド)へ関心を寄せることは、必ずや世界情勢を知るきっかけになると思います。

 また、以前の「アドラー心理学に学ぶ、純金積立で成功するための秘訣[1]」と「アドラー心理学に学ぶ、純金積立で成功するための秘訣[2]」で述べたとおり、投資対象が、上がる(騰がる)ことが正義とみなされやすい株式ではない、複数のテーマ起因の一定の上限と下限が存在し得る金(ゴールド)であり、累積保有数量を効率的に増加させる価格下落も、最終取引価格を有利にする価格上昇も発生し得るため、純金積立(金+積立)は効率的な投資手法だと、考えられます。

 以下の図のとおり、超長期的に見て、長期的な3つのテーマが作用して、金相場には一定の上限と一定の下限があると筆者は考えています。その意味では、純金積立にあたり、際限なく上値を追い続けるケース(最終取引価格の反発の難易度が上がるケース)や、急落して価格が戻らないケース(最終取引価格が有利にならないケース)が起きる可能性は、超長期的に見て、低いのではないかと、考えています。

図:6つのテーマが与える金相場への影響(イメージ)

出所:筆者作成

 また、上記に加えて、純金積立が、これから資産形成を本格的に検討する人にとってうってつけの投資手法だと考える理由は、取引の仕組みそのものや取引画面がシンプルだという点です。純金積立の仕組みの説明や取引画面上に、難解なカタカナや熟語、アルファベットはほとんど出てきません。世の中のさまざまな金融商品において、シンプルさは、純金積立が群を抜いていると、筆者は感じています。

 今回は、新社会人の皆様へのメッセージという体裁で、書きました。社会とは、摩訶不思議だったり、単純だったり、さまざまな側面がありますが、ひとまずは、変化するものだという認識を持つことが非常に重要です。変化する、すなわち、常識が変化する、ということです。社会の常識が変化すれば、市場の常識も変化します。感覚的には、早ければ1年もたたないうちに、市場に存在した常識が過去の常識になってしまうケースすら、あるような気がします。

 本レポートで述べた、“3つの密になるべき要素”を、ぜひ意識してみてください。現代社会の変化の激しさに飲まれることなく、多くの人が気が付かないことに気が付けるようになると思います。新社会人の皆さんの活躍をお祈りしています。

図:密になるべき3つの要素

出所:筆者作成

[参考]楽天証券の純金積立の紹介

楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)