最近は株式市場でも環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した企業へのESG投資や、貧困や飢餓、福祉、教育など17の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)達成を目指す企業を選別するSDGs投資に注目が集まっています。

 クラウドファンディングにも、ESG、SDGs投資と同様、社会をよりよくするために投資する、という側面があります。世の中の問題解決に役立つ投資は、社会にポジティブなインパクトを与えるという意味で「インパクト投資」と呼ばれています。楽天証券でも投資できる「セキュリテ」は志ある事業者と個人をつなぎ、お金と仲間を集めるインパクト投資のプラットフォームでもあるのです。

「セキュリテ」の運営会社であるミュージックセキュリティーズ代表取締役・小松真実さんへのインタビュー最終回は、社会的な問題を解決するためにクラウドファンディングに投資する意義、そして具体的な出資先について、です。

経済的リターンだけでなく社会的課題解決にも役立つ投資とは?

――「セキュリテ」は、社会的課題の解決に役立つインパクト投資をスローガンに掲げています。「セキュリテ」が提供する事業ファンドの魅力を教えてください。

小松 これまで当社は個人投資家の方々に共感してもらい、「応援したい」という気持ちで投資していただく枠組みを作ってきました。では「共感とは何だろう」と考えたとき、それは単に「おいしいお酒や食事」「快適な宿」「かっこいい音楽」だけが対象ではありません。

 やはり、「自分の大切なお金を、社会的な問題の解決に役立てたい」という思いも共感につながるはずです。私たちがファンドづくりで一番大切にしてきた「共感」を、社会的に定義し直すと、今でいうところのSDGsへの貢献になるでしょう。自分が大切なお金を出して投資したことで、社会的な課題をどれぐらい解決できたのかを数値化していく「インパクト投資」に対するニーズも非常に高くなっています。

 たとえば、2011年の東日本大震災では、被災した東北の企業を応援したい、といった思いを抱いた方も多かったと思います。被災した地域の酒蔵が地域のお米を使って、もっとおいしいお酒を造りたい、という事業に投資すれば、被災した地域の課題解決にもつながりますよね。

――クラウドファンディングでは、投資することで社会全体が豊かになっていくという「理想」の部分も大きいということですね。

小松 投資は通常、経済的なリターンを得るために行うものです。100万円を投資して、何%プラスになって返ってくるかが投資の成果。

 それに対して、社会的リターンは、投資した人だけではなく、社会全体に返ってくるもの。今、当社の「セキュリテ」で出資者を募集している「しなの鉄道 車両更新応援ファンド」であれば、車両を更新してCo2の排出量を減らすことで、地域の活性化だけでなく、地球温暖化の防止にも役立ちます。

 日本には鎌倉時代の昔から、参加した会員が一定の金額を出し合って、会員全員を相互扶助する「頼母子構(たのもしこう)」や「無尽」と呼ばれる金融制度がありました。当社のクラウドファンディングはある意味、「頼母子講」のフィンテックだと思っています。

地球温暖化対策から食を通じた地域振興までファンドもさまざま

――社会的な課題に対するインパクトやSDGsに貢献するような事業に投資できる「セキュリテ」のファンドには、具体的にどのようなものがありますか?

小松 まず一つは気候変動に対応していくことを目標に、再生可能エネルギーのファンドには力を入れています。しなの鉄道さんのCO2排出量の少ない新車両導入ファンドもその一つですが、過去には熊本の地熱発電や日本各地の太陽光発電事業を支援するものもありました。

 基本的には、大きな会社が利益を追求するプロジェクトではなく、地域の方々にも参加していただいて、地域のために行うような事業を厳選しています。

 あとは、ミャンマーやペルーなど途上国の貧困支援や生産者事業拡大など、「マイクロファイナンス」と呼ばれる領域でのファンドも作っています。

 日本の個人資産は1,900兆円超といわれており、世界で貧困などに苦しむ国々の人々に対しても世界最大級の資金供給元になれるはずです。ファンドの趣旨に共感していただき、国際的な社会問題の解決に日本の個人マネーが向かえば、世界的なインパクト効果も大きいと思います。

――ふるさと納税や株主優待にも共通する地域振興がテーマのファンドも多いので、そういったものから始めるのもいいかもしれませんね。

小松 「セキュリテ」で特に人気が高いお酒系のファンドでは、地域の食文化を守ることに貢献できるような事業を選んでいます。

 酒造りは地域の食文化の中で、重要な役割を果たしているんです。地方の酒蔵さんの中には、「今はからっとして口あたりのいい純米大吟醸が人気だけど、本当はこういう酒造りを大切にしたい」という思いを伺うことがあります。

 大資本や銀行であれば、「やっぱり売れるものを作ろうよ」という話になってしまいますが、「いや、そうじゃない。うちの地域は甘い食べ物が多いから、そういった食べ物に合うような味わいのお酒を3年間熟成して丹精込めてつくりたい」「機械で絞るのではなく手で絞ることで独特の風味を大切にしたい」といったこだわりがあるものです。

 そういう酒蔵さんのこだわりを実現するためには、そこに共感していただき、応援してくれる投資家の存在が必要。3年熟成して作ればいいお酒ができる、ということなら「3年待ちましょう」という投資家の応援が不可欠なんです。

――地域活性化のためにはプロスポーツファンドも大切ということで、Jリーグのサガン鳥栖の選手育成事業応援ファンドなども手掛けてられていますね。

小松 当社には、かつてJリーグの東京ヴェルディが日本テレビの資本傘下から離れるとき、ファンドを立ち上げ、川崎を中心にした地域で支えていく事業を手がけた原体験があります。

 スポーツ振興に関しても、これまでのような大手スポンサー企業主導ではなく、その地域の住民の方々のサポートが大切な時代です。地域住民の方々に「個人投資家」になっていただき、スポーツ振興事業に出資していただく事業にも力を入れています。

――新型コロナウイルスの影響はいかがでしょうか?

小松 飲食業も酒蔵も、そこに食材を提供している農家の皆さんもコロナによる悪影響を受けておられると思います。それらがファンドの成績に表面化してくるのは今後のことになります。

 コロナ以降、どこかのタイミングで国内旅行が正常化して、消費が戻ってくるようになったら、業績回復を応援できるようなファンドをプロモーションしていきたいと考えています。コロナで打撃を受け、これまでの店舗営業からテイクアウト専門に業態転換するための設備投資をしたい、といったニーズもあります。

 コロナからの事業回復に向けた新しい資金調達の需要は非常に高いので、そうした需要に応えるファンドも今後は準備していきたいと思っています。

 東日本大震災や相次ぐ台風被害、そして新型コロナウイルス感染症など、これまで盤石だと思われてきた「社会基盤」を揺るがすような出来事が続いています。

 ほころびができた社会や地域、さらには世界の人々を苦しませる課題解決のためには既存の金融システムだけでは不十分。インターネットで少額資金をたくさんの人から集めて投資する新しい金融の仕組み、クラウドファンディングの重要や役割、存在感はこれからも、ますます高まっていきそうです。

■クラウドファンディング入門
前編:クラウドファンディングって?自分の「共感」に直接投資できる!
中編:投資型クラウドファンディングの選び方:株と値動きが違う「分散投資効果」も
後編:社会をみんなで守るインパクト投資。ローカル鉄道、酒造、貧困国支援まで

プロフィール

この方に聞きました

小松 真実さん
ミュージックセキュリティーズ
代表取締役

早稲田大学大学院修了。2000年12月ミュージックセキュリティーズ合資会社設立、2001年11月ミュージックセキュリティーズ有限会社設立、2002年5月株式会社化し代表取締役就任。2013年ダボス会議で知られる世界経済フォーラムよりYoung Global Leadersに選出。2014年一般社団法人 第二種金融商品取引業協会理事に就任。