自分が「応援したい!」と共感する事業に出資して、その事業から得られる収益の一部を分配金の形で受け取れる投資型クラウドファンディング。楽天証券でも「セキュリテ」を使って、さまざまなファンドへ投資できるようになりました。

 その特徴は、1口数万円の少額資金から出資できること。事業の売上に応じて分配金が発生し、事業計画が無事達成されれば出資金以上のリターンを得られること。そして、ファンドによっては、事業に関連したモノやサービスなどの特典を受け取れること。株主優待制度にも似た仕組みですが、出資した元本が保証されない点は株や投資信託など他の金融商品と同じです。

 株、投資信託、FXなどさまざまな投資対象がある中で、「あえて、今、クラウドファンディングに投資する意味は何か、そして、どういった投資法で臨めばいいのか?」を、「セキュリテ」の運営会社、ミュージックセキュリティーズ代表取締役・小松真実さんに聞きました。

ファンド選びの基準は「事業計画」「共感」「特典」の3つ

――「セキュリテ」が取り扱っているファンドには「しなの鉄道 車両更新応援ファンド」「食の未来を守る有機野菜ファンド」「京都 家族と泊まれる京町家の宿ファンド」など、ふるさと納税に似た地方色が豊かなファンドが多数ラインアップされています。どれに投資するか、ファンド選びの基準を教えてください。

小松 ファンド選びには3つの選別基準があると思います。1つは「事業計画が有望と思えるか」、2つ目は「その事業に共感して応援したいと思えるか」、そして3つ目は事業に出資することで「得られる特典に魅力を感じるか」どうかです。

「セキュリテ」のファンドについては、事業の詳しい紹介や営業者のプロフィールのほか、事業計画の期間、計画されている累計売上金額、年額平均の売上金額などの「ファンド情報」が見られます。

 ファンドに出資した場合、売上金額がいくらに達すると出資金が100%償還され、損益がトントンになるかを示した「金銭による分配金額のシミュレーション」もあります。その表には計画された累計売上金額に対して損益分岐点がどれぐらいのレベルにあるのかも示されているので、まずはそれを見ていただきたいですね。

 損益分岐点の設定は保守的に行っているケースが多く、計画の約半分程度の売上到達で利益が出るファンドもあります。「計画された年間売上金額がここで、損益分岐点になる売上金額がここだから、利益がちゃんと出るかも」というように、ファンドの事業内容や売上計画を「楽しんで」分析していただくのが、クラウドファンディング選びのひとつの醍醐味(だいごみ)だと思います。

――ファンドの事業紹介や営業者のプロフィールは、写真や動画入りでわかりやすく、事業内容がすっと頭に入る工夫がこらされていますね。

小松「自分が応援したいものに出資する」のがクラウドファンディングの原点です。そのため、その事業に共感できるかどうかを決めるうえで重要になる事業の詳細は、なるべく詳しく紹介するようにしています。

 結局、クラウドファンディングへの出資が従来の株式投資や投資信託の購入と違うのは、単に投資で利益を得るだけでなく、その事業を「応援したいかどうか」。食材やレストランなどに関するファンドなら「食べたいか」、宿や鉄道に関するものなら「泊まりたいか、電車に乗りたいか」です。

「共感できないけど、利益が上がりそうだから投資してみようかな」という発想でも当然構いませんが、そういう入り方だと、元本を割れてしまうリスクに対して敏感になってしまうかもしれません。

 単に元手を増やしたいだけなら、株や投資信託など、たくさんの金融商品があります。当社が提供しているのは「普通の証券会社では売っていないもの。みなさんが共感できる事業がありますよ」という投資対象なんです。

――株式投資の世界では応援した企業に投資するとその見返りに株主優待品がもらえるケースもありますが、「セキュリテ」のファンドにも特典付きのものが多いですね。

小松 事業に付随して生まれるモノやサービスを出資した方にお届けする特典があるものが大半を占めています。鉄道ファンドならその鉄道を利用した乗車特典、お酒ファンドならお酒、宿系のファンドなら宿泊割引券などが贈呈される点は株主優待と非常に似ています。

償還率100%以上が6割超。株とは違う値動きで分散投資効果も

――株式投資同様、クラウドファンディングには出資した資金に元本保証はありませんが、リスクについてはどう考えたらいいのでしょうか?

小松 出資した事業が想定通りの成果を出すことができなければ、出資して戻ってくるお金が元本を割り込むことはあります。

 当社の原点である音楽CDの証券化の例でいうと、1万枚売れたら損益分岐点に到達し、1万5,000枚ぐらい売れて利益が出るだろうと予想していたCDの売上が、残念ながら1万枚に届かなかったりすると、元本割れになります。

 当社としては過去の売上実績なども精査して、今年度まではこれぐらいの売上だから、今後はこれぐらいの売上を達成できるという事業計画を事業主に立ててもらい、それを審査して、有望と思えるものしかファンドとして組成していません。

 しかし、事業計画に甘さがあったり、出資金というニューマネーが入ることで売上がさらに増えるだろうという目算が外れる場合もあります。

 最近は予期せぬ地震や台風などの自然災害もリスク要因ですし、当然ながら2020年以降は新型コロナウイルス感染症のまん延が、観光や地方活性化を目指すファンドにとっては逆風になっています。

 2020年9月現在で、すでに566本のファンドが償還されていますが、償還率が100%以上、すなわち利益が出たファンドは356本で62.9%。これを高いとするか、低いとするか、特典も考えれば満足できるか、というのは、投資する側のリスク許容度や、共感度に寄ることになると思います。

――それぞれのファンドは、国内の景気や株式市場の動向と、成績が連動するということはあるのでしょうか。

小松 当社のファンドは確かにコロナショックなど景気とは連動性がありますが、日経平均株価など株式市場自体とはさしたる相関性はありません。

 やはり1事業ごとにファンドを形成しているため、その成績は、株式市場の全体動向にはあまり関係ない点が、上場株式を投資対象にした通常の投資信託などとは違うところです。そういう意味では、資産のポートフォリオの一部として取り入れて、リスクを分散させる効果はあると思います。

――株式投資では「どの企業が今後、有望か」を基準に投資先を選びます。その点は同じですが、それに加えて「その事業に共感できるか」「その事業を応援したいか」という視点があることが、投資型クラウドファンディング最大の特徴です。

小松 事業に付随して特典がもらえるところは、個人投資家にはおなじみの株主優待株投資と同様の楽しみ。「その事業がうまくいくことで、投資家や出資先だけでなく、事業が行われる地域全体が活性化する」という意味ではふるさと納税と似ている面もあります。

 株主優待株投資とふるさと納税を足して2で割って、そこに事業への共感や地域や地球環境をよくしたいという思いをプラスしたもの、それが投資型クラウドファンディングといえるかもしれません。

■クラウドファンディング入門
前編:クラウドファンディングって?自分の「共感」に直接投資できる!
中編:投資型クラウドファンディングの選び方:株と値動きが違う「分散投資効果」も
後編:社会をみんなで守るインパクト投資。ローカル鉄道、酒造、貧困国支援まで

プロフィール

この方に聞きました

小松 真実さん
ミュージックセキュリティーズ
代表取締役

早稲田大学大学院修了。2000年12月ミュージックセキュリティーズ合資会社設立、2001年11月ミュージックセキュリティーズ有限会社設立、2002年5月株式会社化し代表取締役就任。2013年ダボス会議で知られる世界経済フォーラムよりYoung Global Leadersに選出。2014年一般社団法人 第二種金融商品取引業協会理事に就任。