最近、「クラウドファンディング」という言葉を耳にしたり、見かけるようになりました。「クラウド=crowd」は「群衆」、「ファンディング=funding」は「資金調達」の意味で、たくさんの人から資金を集める新しい資金調達の仕組みです。

 これまで企業が新規事業を立ち上げるには、金融機関から融資を受けたり(間接金融)、株式を発行して投資家に買ってもらう(直接金融)のが一般的でした。そうした既存の金融システムに頼らず、主にインターネット経由で、不特定多数の人々から幅広く資金を集めるのが、クラウドファンディング最大の特徴です。

「経済の民主化」とも呼ばれるクラウドファンディングですが、昨年12月からは、楽天証券の口座経由でも利用できるようになりました。その受け皿になっているのが、ミュージックセキュリティーズ株式会社の手掛ける投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「セキュリテ」です。1口数万円の少額資金から出資でき、出資した事業の売上に応じて分配金が発生。事業に派生したモノやサービスなどを特典として受け取れるファンドもあるのがその特徴です。

 ミュージックセキュリティーズ社は、20年以上前からクラウドファンディングを手がけている、同分野の先駆者。そこで、代表取締役の小松真実さんに「クラウドファンディングとは何か?」について話を聞きました。

「非金融型」と「金融型」の2タイプにわかれる

――クラウドファンディングには、お金を出し合ってお目当てのモノやサービスの提供を受ける「購入型」や、純粋に困った人を支援するための「寄付型」、投資することで利息や未公開株、分配金が受け取れる「融資型」「株式型」「投資型」といった投資タイプもあります。種類がたくさんあり過ぎて、よくわからない部分もあるのですが、クラウドファンディングっていったい何なのでしょう?

小松 もともと当社では、2000年から音楽の分野でCDの企画、制作、販売を証券化して、その売り上げを分配するビジネスを始めました。まだ「クラウドファンディング」という言葉が生まれていない20年以上前から、クラウドファンディングの仕組みで事業を始めて、今も続けているのは、世界中見渡してみても、当社以外ないと思います。当社が最初に手掛けたCD販売の証券化が投資型クラウドファンディングの原点だと思います。少し詳しくご説明しますね。

 アーティストが作品を企画して、レコーディングやプロモーションを行い、実際に音楽をCDにプレスしてショップで販売するには、500万円、1,000万円、中には1億円という多額のお金がかかります。

 普通、こうした製作費はレコード会社、中でもメジャーレーベルといわれる大企業が出します。この場合、お金の出し手である資本家(レコード会社)がCDを製作するリスクを負うのと同時に、CDから得られる権利もすべて手に入れることになります。

 しかし、大手レコード会社は当然「売れる音楽」を欲しがる傾向が強いため、デビュー前からアーティストを熱心に応援していたファンからすると、「メジャーデビューしたら、急にポップになってしまった」といった感想が漏れることも少なくありません。お金の出し手の都合で、アーティストのクリエイティブがゆがめられてしまう弊害があったわけです。

 そこで、音楽のアーティストが資本の論理に束縛されず、いい音楽を生み出すためには、金融の力でどんなことができるか、ということで考え出したのが、音楽の証券化ビジネスでした。

――その仕組みはどういうものですか?

小松 製作費が1,000万円かかるなら、小口にわけて、1,000人の熱心なファンから幅広く1万円ずつ出資金を募ります。そして、集まったお金でアーティストたちに好きな音楽を作ってもらい、CDが売れたらその販売収入を出資者(ファン)とアーティストで分配します。今でいう「投資型クラウドファンディング」そのものです。

――クラウドファンディングには、みんながお金を出し合って欲しいモノやサービスを出資先に作ってもらう「購入型」もありますが、それとは違うんですね。

小松 現在のクラウドファンディングには購入型や寄付型など、お金を出し合ってモノやサービスを購入する「非金融型」もあります。一方、私たちが手掛けた音楽の投資型ファンドでは、アーティストにとっても、出資したファンにとっても、CDの売上はその後の収益の分け前になるので、CDそのものはプレゼントしませんでした。

「どうか出資した人も店頭でCDを買ってください、それがCD売上の増加、ひいては投資の果実である分配金の原資になりますから」というスタンスです。

 代わりに、アーティストのライブに無料で招待する、一曲だけの非売品のサンプルCDを提供する、といった特典をつけたりしたんです。そして、当初はCD1枚3,000円で売れたら、その50%の1,500円分を投資家に還元。分配金の額が出資した金額と損益トントンになったら、そこから先はアーティストの頑張りを評価して、アーティスト側の取り分を増やし、投資家の分配率は50%から5%に減らす、などといった仕組みにしたんです。

 楽天証券からアクセスできる投資型クラウドファンディング「セキュリテ」も、収益分配の考え方は基本的に同じです。

――好きなアーティストのCD製作を応援することで、売れたら出資金以上の分配金がもらえ、応援しているアーティストにも成功報酬がある。Win-Winの関係ですね。

小松 考え方はアーティストの音楽に共感した人々がその作品の製作段階から金銭的に応援して、CD販売がうまくいったら、その利益を分け合うという「相互扶助」の発想です。

 金融型のクラウドファンディングは、「原始的な資本主義の再発明」のようなもの。中世のヨーロッパの大航海時代には、インドなど東方へ航海するための資金を商人たちが小口の資金を出し合って集め、送り出した船が無事、こしょうなどの香辛料を買い込んで戻ってくれば、出資した資金が何十倍にもなって返ってくるという「匿名組合」の原点といえる制度がありました。

 多くの人々から広く資金を集めて事業を起業し、事業が失敗するリスクを分散しつつ、成功したら出資比率に応じて分け前を得るという資本主義の始まりであり、金融型クラウドファンディングの原点といっていいでしょう。

株式や投資信託への投資との違いは「共感」。経済的リターンだけでなく社会問題の解決を狙う!

――世の中には上場株式や投資信託など、さまざまな投資対象がありますが、それと投資型クラウドファンディングの違いはなんでしょう?

小松 一番大きな違いは「株式市場を通すか通さないか」だと思います。株を買うことは企業の資金調達に巡り巡って貢献しているのは確かですが、市場ですでに流通している株を買う場合、投資したお金が直接、企業に行くわけではありません。

 例えば、上場している音楽会社に10万円を投資してその会社の株主になったからといって、その10万円が音楽会社に所属する自分の好きなアーティストのレコーディング費用になるとは限りません。だったら、直接、そのアーティストのCD製作に限定して投資したいとファンなら思うかもしれませんよね。

 少額ずつ資金を集めていく、という点では投資信託とも似ていますが、運用をプロに任せるのではなく、「自分がどんな事業に共感して投資するのかを自分自身で決める」のがクラウドファンディングのいいところだと私は思います。

 既存の金融市場をあえて通さないことで、自分の「好き」「理想」「共感」にダイレクトにお金を使える、それがクラウドファンディングに投資することの「特権」といえるかもしれません。

――2020年から今にいたる新型コロナウイルス感染症のまん延では、PCR検査を誰でもすぐに受けられる体制の構築やオンライン診療の普及、感染の有無を追跡できるアプリの開発、重症患者の病院受け入れ態勢の拡充などを求める声が広がりました。

 ある意味、そうした「社会的ニーズ」を解決するために自らのお金を投資してみる、という発想が投資型クラウドファンディングの新しい試みといえるのかもしれません。単に「投資してお金が増えた」というだけでなく、「自分がお金を投資することで社会全体が少しでもよくなる」ことを目指したいなら、「投資型クラウドファンディング」なのかもしれません。

■クラウドファンディング入門
前編:クラウドファンディングって?自分の「共感」に直接投資できる!
中編:投資型クラウドファンディングの選び方:株と値動きが違う「分散投資効果」も
後編:社会をみんなで守るインパクト投資。ローカル鉄道、酒造、貧困国支援まで

プロフィール

この方に聞きました

小松 真実さん
ミュージックセキュリティーズ
代表取締役


早稲田大学大学院修了。2000年12月ミュージックセキュリティーズ合資会社設立、2001年11月ミュージックセキュリティーズ有限会社設立、2002年5月株式会社化し代表取締役就任。2013年ダボス会議で知られる世界経済フォーラムよりYoung Global Leadersに選出。2014年一般社団法人 第二種金融商品取引業協会理事に就任。