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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]日経平均29年ぶり高値、為替は1ドル103円台。
円高でも日本株が強い2つの理由

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日経平均急騰、29年ぶりの高値更新

 先週の日経平均は、1週間で1,348円(5.9%)上昇し、2万4,325円となりました。コロナ・ショック前の高値(1月20日の2万4,083円)を超え、29年ぶりの高値を更新しました。

 米大統領選前に株の保有を落としていた投機筋が、イベント(大統領選)通過で不透明感が低下したと判断して株を買い戻したと考えられます。公式にはまだ米大統領選の勝者は決まっていませんが、民主党バイデン氏が事実上の勝利宣言を出しており、バイデン勝利でほぼ決まったと考えられることから、既に選挙後を見据えた株式投資が動き始めたもようです。つまり、来年にかけて世界景気が回復に向かうとのメインシナリオに基づいた、上昇軌道に戻ったと考えられます。

日経平均週足:2019年10月1日~2020年11月6日

 日経平均の過去1年の動きを簡単に振り返ります。

【1】2019年10~12月:米中通商協議の合意期待で上昇

 2019年は、米中貿易戦争の激化で、製造業中心に世界景気が悪化しつつありました。ただ、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和を続けていた効果に加え、米中協議が合意に向かうとの期待があって、世界的な株高となりました。その流れから、日経平均も上昇しました。

【2】2020年1~3月:コロナショックで暴落

 1月15日、米中「第一段階合意」が成立。米中対立が緩和すれば世界景気に好影響と期待されているところで、コロナ禍が世界に拡散しました。1月中は中国およびアジアだけの問題と軽く考えられていましたが、欧米でも感染が急拡大していることがわかった2月から、世界中の株が急落しました。

【3】2020年4~10月:世界中で株が急反発

 4~6月、世界中で巨額の金融緩和・財政出動が行われた効果で、世界的に株価は急反発しました。7~8月は、さらに経済再開にともなう景気の底打ちを好感、またワクチン開発によって来年にはコロナが収束に向かう期待も加わって、上昇が続きました。

 9月以降、11月3日の米大統領選に絡む不透明感や、欧米でのコロナ感染再拡大を嫌気して、欧米株が調整した流れを受け、日経平均も上値が重くなりました。ただし11月に入り、イベント通過で欧米株式が急反発した流れを受けて、日経平均は、29年ぶり高値に上昇しました。

NYダウ・ナスダック、急反発

 先週は、NYダウ平均株価・ナスダック総合指数ともに急反落しました。イベント(大統領選)通過で、不透明感が低下したと判断されました。

NYダウ週足:2019年10月1日~2020年11月6日

 NYダウは、過去1年、ほぼ日経平均と同じリズムで動いてきました。ただ、日経平均が先週コロナ前高値を更新したのに、NYダウはまだ更新していません。

ナスダック総合指数週足:2019年10月1日~2020年11月6日

 ナスダック総合指数は、GAFAM(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル・マイクロソフト)と言われる大型ハイテク株の構成比が高いため、6月に早々とコロナ前の史上最高値を更新し、8月まで世界中の投資マネーを集めて、連日のように最高値を更新していました。コロナ禍でリモートワーク、リモート会議などITを使った技術革新が世界中に広がったため、成長期待がさらに高まりました。

 ただし、7~8月は、上昇ピッチが速過ぎることに警戒感が広がり、調整しました。GAFAMによる独占を問題視し、分轄論まで考えている米民主党が、11月3日に実施される米大統領選・議会選で優勢と見られていることも、ナスダックの不安材料となっていました。

 大統領選が終わり、民主党バイデン氏の勝利がほぼ決まりましたが、大統領選と同時に行われた議会選の上院で、共和党が過半数を確保したことが、ナスダック急反発につながりました。

 当初、バイデン氏が大統領になり、下院も上院も民主党が抑える、完全な民主党支配が実現するとの予想もありました。そうならなかったことを、ナスダック総合指数は好感した形です。 

 民主党が圧勝すると、GAFAなど、大型ハイテクの分割や規制導入の議論が進むと考えられていましたが、議会で、共和党が一定の勢力を保つことで、ハイテク規制に一定の抑制がかかると考えられました。それが、ナスダック大幅高につながりました。

米長期金利の低下を受け、円高が進む

 米大統領選と同時に行われた議会選で共和党が過半数を維持したことから、米国の長期金利が低下しました。民主党が強すぎると、大型の財政出動をやるため、長期金利が上昇すると考えられていました。議会で共和党が一定の力を持てば、それも抑えられるとの思惑から、長期金利が低下しました。長期金利低下が、米国株の急反発につながりました。同時に、ドル安にもつながりました。

 ドル円為替は、米金利の低下を受け、以下の通り、1ドル103円台へ円高が進みました。

ドル円為替レートの動き:2018年1月2日~2020年11月6日

円高が進む中、日経平均が29年ぶり高値となった理由

 円高は、日本の景気・企業業績にマイナス影響を及ぼします。したがって、これまで、円高が進むと日経平均が売られ、円安が進むと日経平均が買われる相関関係が、かなり深く定着していました。

 ところが、先週は、円高が進む中、日経平均が急伸しました。これはかなり珍しいことです。私は、以下、2つの要因が円高下の日経平均上昇につながったと考えています。

【1】世界景気が回復に向かう期待が高まった

 4~6月が世界景気の底で、7~9月以降、世界景気の底打ちがはっきりしてきています。来年にかけて、さらに回復が加速する期待が出てきました。

 回復が一番早いのは、中国です。コロナ禍で中国景気が落ち込んだのは1~3月でした。4~6月から前年比でプラス成長に復帰し、7~9月は前年比4.9%増と回復が加速しています。その恩恵が日本の企業業績にも表れ始めています。トヨタ自動車は6日、今期(2021年3月期)の純利益見通しを、7,300億円(前期比▲64%)から1兆4,200億円(同▲30%)へ、6,900億円の上方修正をしました。中国をはじめ、世界で自動車販売が回復に向かっていることが貢献しました。

 中国に次いで米国景気も7~9月から回復に向かっています。米大統領選をめぐる混乱から米景気が失速する懸念もありますが、大統領選の結果がほぼ見えてきていることから、不透明感がやや低下しています。いずれ米議会はコロナ対策の財政追加を可決し、来年、ワクチンが利用可能になるまで、コロナ禍の回復が続くとの見方につながっています。

 大統領選前、共和党が提案していたコロナ対策財政追加を、民主党が受け入れなかったため、「対策の期限切れで米景気が失速する」不安が高まっていました。ただ、民主党が対策を受けいれなかったのは、「大統領選前に対策が決まると共和党トランプ大統領の手柄になる」と恐れていたからと考えられます。大統領選の結果がほぼ固まった今、コロナ対策の財政追加をかたくなに拒むことは民主党も共和党もできないと、私は予想しています。

 日本の景気・企業業績に円高はマイナス影響を及ぼしますが、円高以上に、日本に大きな影響を及ぼすのが米国景気・中国景気です。米中景気の回復が続くと見られるようになったことから、円高でも日経平均は上昇しやすくなったと考えられます。

【2】イベント(米大統領選)通過で、世界的に「リスク・オンの株高」が広がった

 大統領選前に、世界的に広がった「リスク・オフ」の巻き戻しが起こっています。大統領選がネガティブサプライズとならなかったことで、株の買い戻しが起こっています。その流れから、日経平均も買われました。

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