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1.TSMCの9月売上高は前年比24.9%増。過去最高を更新した。

1)ファーウェイ向け消失への心配は、少なくともTSMCに対しては杞憂だった

 今回の特集は、半導体製造装置株のフォローアップです。TSMCの9月売上高、サムスンの2020年12月期3Q(2020年7-9月期)決算速報、SMICに対するアメリカ政府の規制を分析します。

 2020年10月8日公表された2020年9月のTSMCの月次売上高は、1,275億8,500万台湾ドル(1台湾ドル=3.70円、0.03USドル)(前年比24.9%増、前月比3.8%増)となりました。8月の前年比15.8%増から前年比が再び回復しました。9月売上高は8月に続き過去最高を更新しました。

 また2020年7-9月期売上高は、今2Q決算発表時の会社側ガイダンスである3,304~3,392億台湾ドルを上回る3,564.3億台湾ドル(前年比21.6%増)となりました。

 アメリカ政府の対中輸出規制の骨子は以下の通りです。

  1. アメリカ製の技術を用いたサービスをファーウェイに提供するには、商務省の許可を必要とする。
  2. アメリカ以外の国の企業であっても、アメリカ製部品の割合が25%以上の製品の場合は規制対象となる。
  3. アメリカ国外において、ファーウェイや関連企業の設計に基づいてアメリカ製の製造装置を用いて生産された半導体製品の輸出も許可制とする。

 この結果、2020年9月15日からアメリカ製の半導体とアメリカ国外の国の半導体はファーウェイに出荷できなくなりました。9月14日までは駆け込み需要があったと思われますが、9月15日からは一部許可を受けた半導体を除いては(インテル、AMD製のパソコン用CPUの中で、高度なものでないものがアメリカ政府の輸出許可を受けたと思われる)、輸出できなくなりました。TSMCのファーウェイ向けも9月15日からは出荷停止です。

 そのため、9月の売上高がどの程度になっているのかが注目されてきました。実際には、9月には最先端の5ナノラインにおいてアップルの新型iPhone向けチップセット(スマホのCPUの周辺半導体を組み合わせたモジュール)の生産をすでに開始していると思われます。人気の7ナノラインでは、中国スマホ大手向けの5Gスマホ用チップセットだけでなく、AMD向けのパソコン、サーバー向けCPU、GPU、エヌビディアの最新型サーバー用GPU、そしてソニー、マイクロソフトの新型ゲーム機(PS5、Xbox Series X/S)向けCPU、GPUなどの大型製品の量産でフル生産になっていると思われます。

 過去の報道ではTSMCの売上高の約15%がファーウェイ向けだったもようです。これが欠けた分は埋め合わせられると思われてきましたが、一方で株式市場では実際に9月売上高を見なければ安心できないという見方もあったと思われます。

 蓋を開けてみれば、心配は杞憂でした。ファーウェイ向けがなくなった穴は埋め合わせがついて、おつりがくる状況でした。

グラフ1 TSMCの月次売上高:前年比

単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ2 TSMCの月次売上高

単位:100万台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

表1 TSMCの業績

株価    453.00台湾ドル (2020年10月8日)
時価総額    117,463億台湾ドル(2020年10月8日)
発行済株数    25,930百万株    
単位:億台湾ドル(1台湾ドル=3.70円、0.03ドル)、台湾ドル、%、倍            
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:発行済株数は完全希薄化後。
注2:TSMCは台湾市場、ニューヨーク市場の両方に株式を上場しているが、ここでは台湾市場の株価を記載した。

2)2020年10-12月期以降は7-9月期以上の売上高になる可能性がある

 10-12月期もTSMCの売上高は増え続けると思われます。重要なポイントは以下の通りです。

  1. 新型iPhone向けチップセット:Apple Eventが10月14日(水)午前2時(日本時間)に開催されます(アップルのウェブサイトからオンライン配信されます)。おそらく、新型iPhoneの発売日、機種別の詳細と価格、仕様、テクノロジーの中身、新しいサービス等が発表されると思われます。iPhoneは過去3年間売上が振るわなかったため、逆に新型iPhoneは更新需要が多くなるという観測がでています。もしそうなら、10-12月期、2021年1-3月期にTSMCのiPhone向けが計画以上に盛り上がる可能性があります。
  2. 新型ゲーム機(PS5、Xbox Series X/S)向けCPU、GPU:TSMCが7ナノラインで新型ゲーム機向けCPU、GPUをどの程度まで生産できるかが今後の焦点です。特にPS5は今期から来々期ぐらいまでTSMCのCPU、GPU生産数量がそのままPS5の販売台数となる状況(即ちTSMCがチップを作れば作っただけ売れる状況)が続く可能性があります。想定される需要層は、まず約1億人いるPS4ユーザー、eSportの競技人口1億人以上と視聴者4億人以上、巣ごもり特需(楽天証券の推定で最低8,000万台、最大2.5億台。2020年3月期の家庭用ゲーム機販売台数は推定約4,000万台強。楽天証券投資WEEKLY2020年8月28日号参照)の中でも昔ゲームに熱中したことがあるが、しばらくゲームから遠ざかっていた人たちでPS5の美麗で動きの速い画面と価格の安さに関心をもった人たち、などです。
  3. 高性能パソコン向け、高性能サーバー向け:AMDのパソコン向け、サーバー向け7ナノCPU、GPU、エヌビディアのサーバー向けGPU(例えば、今年5月発売の最新鋭の高性能GPU「A100」。TSMC7ナノラインで製造)が注目されます。
  4. 5Gスマホ向けチップセット:後述のサムスンの5Gスマホの好調が、市場の好調にもよるものならば、(スマホビジネスを失いつつあるファーウェイを除いて)、サムスンだけでなく、アップル、シャオミ、オッポなど他のスマホ大手にビジネスチャンスがあるはずです。TSMCのスマホ向けチップセットビジネスには引き続き注目したいと思います。

3)TSMCの2020年12月期3Q決算に注目したい

 TSMCは、10月15日(木)に2020年12月期3Q(2020年7-9月期)の決算発表を行います。焦点は、10-12月期以降の生産販売をどうみているのか、特に5ナノ、7ナノの最先端品の動きと、設備投資の動きです。

 5Gスマホだけでなく、高性能パソコン、データセンター向けサーバー、新型ゲーム機向けのCPU、GPUの需要が活発で、かつ、企業間競争、ゲーミングPC対高性能ゲーム機の競争など企業間、製品間にまたがる重層的な競争が激しくなっているため、生産ラインの増強を続ける必要があると思われます。ビッグノード(生産能力の大きな微細化世代)と言われる5ナノだけでなく、新型ゲーム機、廉価版5Gスマホ用、ゲーミングPC用、データセンター用CPU、GPU用に大きな需要が予想される7ナノ、差別化のためにひたすら最先端を目指すニーズを満たすための3ナノ(2022年稼働開始予定)も大きな生産能力が必要になる可能性があります。

 例えば、3ナノについては、需要が大きいと予想されるのが5Gスマホの完全フルスペック版(高速送受信、低遅延、同時多接続)向けチップセットですが、これだけではなく、例えばPS5が大成功すれば、3年後に3ナノCPU、GPUを搭載したPS5の「Pro」バージョンが発売される可能性があると私は考えています。もしそうなれば、ゲーミングPCも3ナノCPUを搭載して追随するでしょう。

グラフ3 TSMC:四半期設備投資

単位:億米ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ4 TSMCの年間設備投資額

単位:億米ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

2.サムスンが2020年12月期3Q決算速報を発表した。大幅増益。

 2020年10月8日、サムスンは2020年12月期3Q(2020年7-9月期)の決算速報を公表しました。

 それによれば、2020年12月期3Qは、売上高66兆ウォン(前年比6.5%増)、営業利益12.3兆ウォン(同58.1%増)となりました(1ウォン=0.09円、1ドル=1,150.99ウォン)。今2Qの売上高52.97兆ウォン、営業利益8.15兆ウォンと比較しても大幅増収増益となりました。

 また、会社側のガイダンスによれば、今4Qは売上高65~67兆ウォン、営業利益12.2~12.4兆ウォンとなる見込みです。今3Qと同水準であり、前4Qの売上高59.88ウォン、営業利益7.16ウォンと比較して大幅増収増益となる見込みです。

 半導体等の各事業部門の詳細は、10月29日に予定されている正式な2020年12月期3Q決算発表を待つ必要があります。今回の速報は今3Qの売上高と営業利益、今4Qの会社見通しだけで、各事業部門の決算の詳細は公表されていません。

 ただし報道によれば、スマートフォン事業(IT&モバイルコミュニケーション(IM)部門)と家電事業(コンシューマエレクトロニクス(CE)部門)が大きく貢献したもようです。4-6月期に新型コロナの影響で抑えられた販売が7-9月期になって急回復したもようです。特にスマートフォン事業において、従来の店舗販売からネット販売の強化が奏功したもようです。

 サムスンのスマホ事業回復が、企業努力だけでなく、スマホ市場の回復や、ファーウェイの市場シェアが低下したことが競合他社に良い影響を与えたことによるのであれば、アップル、シャオミ、オッポなどサムスン以外の大手スマホメーカーの販売増加も期待できます。このことは、ロジック(CPU、GPU)とメモリ(DRAM、NAND)の両方の半導体需要にも好影響を与えると思われます。

 また、半導体部門の営業利益は今2Q並かやや高い水準になるという観測が出ています。CPU、GPUが増えれば、メモリとストレージ容量の増加を通じてDRAMとNAND需要も増えると思われます。ただし、7月からDRAM、NANDの大口価格が緩やかに下落しているため、これがマイナス要因になっています。

 いずれにせよ、サムスンの今3Q大幅増益の中身がスマホの好調によるものであれば、これは半導体需要の増加と半導体設備投資の増加に結び付くと思われます。

 今3Q決算の内容、特にスマホ事業だけでなく、半導体部門の業績の中身が注目されます。

表2 サムスンの業績

株価    59,700.00ウォン(2020年10月8日)
時価総額    406兆ウォン(2020年10月8日)
発行済株数    6,795百万株
単位:兆ウォン(1ウォン=0.09円、1ドル=1,150.99ウォン)、ウォン、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:発行済株数は完全希薄化後。
注2:サムスンは韓国市場、ニューヨーク市場の両方に株式を上場しているが、ここでは韓国市場の株価を記載した。

表3 サムスン電子:半導体部門の業績と設備投資

単位:兆ウォン
出所:会社資料、報道より楽天証券作成
注:1ウォン=0.09円

3.SMICに対してアメリカ政府の規制が実施されはじめたもよう

 10月4日付けで中国の半導体メーカー、SMIC(中国で1位、世界では5位の半導体受託生産業者(ファウンドリ))は、香港証券取引所において、プレスリリースを発表しました。

 それによれば、アメリカの半導体製造装置メーカー、素材メーカーの一部が半導体製造装置や半導体の原材料をSMICに供給する際、アメリカ商務省の事前の輸出許可が必要になったということです。SMICによれば、一部の設備や原材料の供給が遅れることによって、将来の生産や経営にマイナス影響が生じる可能性があります。

 これはエンティティ・リストへの掲載ではないため、アメリカ由来の技術が使われた製品がほぼ全面的に禁輸になるわけではありません。ただし、SMICにとって打撃になるのは確かであります。SMICの技術(最先端は14ナノで、次が28ナノ、40ナノ、65/55ナノと続く)も最先端の14ナノから揺らいでいく可能性があり、顧客離れが起こる可能性、少なくとも万が一に備えて代替のファウンドリを探す動きが出てくる可能性もあります。

 日本の半導体製造装置メーカーに対する考え方は、楽天証券投資WEEKLY2020年9月25日号と変わりません。SMICに対するアメリカ政府の輸出規制は、日本の半導体製造装置メーカーがSMIC向けに輸出する時に、慎重にならざるを得ないという意味で、短期的には日本の製造装置メーカーにとってマイナスになると思われます。ただし、中長期的にはTSMC、サムスン、グローバルファウンドリ、UMCといった西側のファウンドリに顧客が移り、設備投資が増える可能性があります。これは日本の半導体製造装置メーカーにとってはプラスです。

4.日本の半導体製造装置メーカー5社に対する評価には変更なし

 楽天証券がカバーしている日本の半導体製造装置メーカー5社の業績予想と今後6~12カ月間の目標株価は変更しません。引き続き投資妙味を感じます。(個々の企業の業績予想については、楽天証券投資WEEKLY2020年9月25日号を参照してください。)

今後6~12カ月間の目標株価
東京エレクトロン       3万7,000円
アドバンテスト             8,000円
レーザーテック        1万3,000円
ディスコ           3万5,000円
SCREENホールディングス      6,500円

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)SCREENホールディングス(7735)