信用残高からみえてくる「浮かぶ株」「沈む株」(その2)個別銘柄の事例研究編はこちら

信用残高が将来の株価の動きを左右する?

皆さんは株式投資をしていて「私の持ち株、全然上がらないなあ」とか、「なぜあの銘柄の株価は最近ずっと強いのだろうか」などと、疑問に思うことはありませんでしょうか。

株価の動きは個別銘柄によりまちまちです。日本株全般が堅調にもかかわらず全く株価が上昇しない「弱い株」がある一方、逆に日本株全般が軟調にもかかわらず株価の上昇が続く「強い株」も存在します。

なぜこのように銘柄ごとに株価の動きが異なるのか、その理由の1つにあげられるのが「信用残高」です。

「私は信用取引をしないから関係ない」などと他人事のように言ってはいられません。信用取引をする人もそうでない人も、信用残高が株価に与える影響を知っているかどうかが、投資成績に直結するといっても過言ではありません。

そこで今回と次回の2回にわたり、信用残高やそれを用いた指標の基本的な意味や使い方を説明するとともに、個別銘柄の信用残高の動向と株価の関係についての事例研究を行っていきたいと思います。

信用買い残高と信用売り残高の意味と将来の株価への影響

信用残高とは、信用取引の未決済残高のことです。「信用買い残高(略称:買い残)」と「信用売り残高(略称:売り残)」の2つがあります。

「信用買い残高」は、信用買いを実行し、まだ返済売りが行われずに残っている株数を表します。「信用売り残高」はその逆で、信用売り(=空売り)を実行し、まだ返済の買戻しが行われずに残っている株数を表しています。

制度信用取引の場合、6カ月以内に反対売買により決済する必要があります。つまり、現時点での信用買い残高は、将来の売り要因となります。逆に、現時点での信用売り残高は、将来の買い要因となります。

つまり、信用買い残高が多く積み上がるほど、将来の売り圧力が高まるため、株価の上値を抑える原因となります。一方、信用売り残高が膨らむと、将来の買い戻し圧力が高まるので、株価の下支えや上昇の原因となります。

「信用倍率」とはなにか?

もう1つ「信用倍率」という言葉も押さえておきましょう。これは、「信用買い残高÷信用売り残高」によって計算され、信用買い残高が信用売り残高の何倍の水準かを表すものです。例えば、信用買い残高が20万株、信用売り残高が5万株の場合、信用倍率は20万株÷5万株=4倍です。逆に信用買い残高が5万株、信用売り残高が20万株の場合の信用倍率は5万株÷20万株=0.25倍となります。

信用売り残高に比べて信用買い残高の方が多いほど信用倍率は上昇します。一方、信用倍率が1倍を切っている場合は、信用売り残高の方が信用買い残高より多い(このことを「売り長(うりなが)」といいます)ことを表します。

信用倍率は現時点での信用取引による需給動向を表すだけでなく、時系列的にその推移を追うことにより、信用取引に伴う需給が改善傾向にあるのか、それとも悪化傾向にあるのかを判断することができます。一般に、信用倍率が上昇傾向にあれば需給悪化、低下傾向にあれば需給改善となります。

なお、単に信用倍率の数値だけみても信用取引による需給を正確に知ることはできません。なぜなら、信用倍率は、信用買い残高と信用売り残高の「割合」を示すのみであり、それぞれの「残高」自体は考慮されていないからです。

信用倍率はそれ単独でみるのではなく、信用買い残高や信用売り残高と合わせてみるようにしましょう。

日々の売買高と信用買い残高との比較も重要

さらに言えば、信用買い残高や信用売り残高の絶対値だけをみてもあまり意味がありません。例えば、信用買い残高が同じ20万株のA株とB株があるとしましょう。A株の日々の平均売買高は200万株、B株の日々の平均売買高が2万株だとすると、この20万株の信用買い残高が与える影響はそれぞれどうなるでしょうか。

A株の信用買い残高は、日々の売買高の10分の1に過ぎませんから、信用買いの決済による将来の売り圧力は無視してよいレベルです。一方、B株の信用買い残高は日々の売買高の10倍に達していますから、信用買いの決済に伴う売り圧力により、将来かなり需給面での重石になることが想定されます。

一概にはいえませんが、信用買い残高が日々の平均売買高の3倍以上に積み上がってくると、かなり需給に悪影響を与えることになると思います。

なお、信用買い残高と売買高を比較する際は、信用買い残高から信用売り残高を差し引いたネットの信用買い残高を用いるのがよいでしょう。

 

株価上昇中の信用買い残高増加はあまり心配いらない

信用買い残高は、時系列に並べ、増加傾向にあるか減少傾向にあるかを調べるのが有用です。

信用買い残高が減少傾向にあれば、将来の売り圧力が解消に向かっていることを表しますからプラス材料です。

一方、信用買い残高が増加傾向であっても、株価が上昇している間は心配ありません。信用取引の回転が効いている(つまり、信用買いにより利益が出ている)ためです。また、株価上昇に伴って信用買い残高も増加していくのが通常です。

ただし、信用買い残高が大量に残ったまま株価が下落に転じたり、株価下落中に信用買い残高が増加を続ける場合は、含み損の発生により信用買いがしこってしまうため需給にマイナスの影響を及ぼします。

信用買い残高が高水準であっても株価が大きく上昇することもある

なお、信用買い残高が高水準だからといって、株価の大幅な上昇が全く期待できないわけではありません。信用買い残高の決済に伴う売り圧力を吸収できるだけの大量の現物買いが発生した場合は、信用買い残高の整理が進んで売り圧力が弱まるため、株価は大きく上昇することもあります。

信用買い残高の減少を伴いながら株価が上昇している場合、大口の投資家による現物買いなど、強い買い需要が生じている可能性が高まります。こうしたケースでは、株価の大幅な上昇も大いに期待できますから要注目です。さらに、信用買い残高の減少とともに信用売り残高が増加しているようであれば、信用売りの踏み上げ(損失覚悟の買戻し)により株価上昇が加速する可能性もあります。

各個別銘柄の信用買い残高や信用売り残高は、口座を持っている証券会社にログインすれば確認することができます。

また、ヤフーファイナンスでは、個別銘柄ごとに信用買い残高・売り残高・信用倍率などの時系列データをみることができるので便利です。

個別銘柄の株価は長期的には業績をはじめファンダメンタルにより動くといわれていますが、短期・中期的には信用取引の動向をはじめとした需給要因も大きく株価に影響します。「自分の買った銘柄の株価は日経平均株価やTOPIXが上昇してもちっとも上がらない」とお悩みの方は、ぜひ信用残高の動向にも目を配ってみるようにしてください。

次回は、個別銘柄の株価チャートと信用残高をみながら事例研究をしていきます。

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