金利低下で売られる金融株を見直し

 金融株【注】は割安株の宝庫と考えています。PER(株価収益率)・PBR(株価資産倍率)が低く、配当利回りが高い株が、多いからです。

【注】ここで言う金融株には、銀行・信託・保険・リース・カード・消費者金融など、金融セクターに含まれるあらゆる業態が含まれます。

 金融株が株価指標で見て割安に据え置かれているのは、日本だけではありません。欧米でも同じです。なぜでしょう?

 世界中で金利の「日本化」が進んでいることが、原因です。日本と同じように、長期金利がゼロに近づく国が増えています。こうなると、金融業で利益があげられなくなる恐怖が募り、世界中で金融株が売られてきました。

米・英・独・豪の長期金利(10年国債利回り)年次推移:2010年~2020年(5月27日)

 ただ、ここに少し誤解があります。確かに、長短金利スプレッド(長期金利と短期金利の差)が縮小すると、金融機関の重要な収益源の1つが失われます。業態にもよりますが、金融業には、「短期金利で調達して長期金利で運用」し、長短金利スプレッドで収益を稼いできたところが多いからです。

 ただし、長短金利スプレッドだけが、金融機関の収益源ではありません。信用スプレッドも重要な収益源です。信用力の高い金融機関が低い金利で調達した資金を、信用力が相対的に低い中小企業や個人に貸し出すことで、スプレッド(利ザヤ)を得ています。例えば、消費者金融で高い金利が取れるのは、ほとんど信用スプレッドによるものです。

 さまざまな金融サービスで、金融機関は収益を得ています。リース業では、近年オペレーティング・リースという、各種サービス(メンテナンスなど)を伴うリースが収益となり、低金利でも安定的に高収益を稼いでいます。信託業でも、カストディ、土地信託、遺言信託など、さまざまなサービスで収益を得られます。

 損害保険は、そもそも長短金利スプレッドを収益源としてはいません。さまざまな損害に備える保険を提供することで利益を得ています。そう考えると、金利低下で、金融業が軒並み、低い株価バリュエーションに据え置かれるのは、理に合わないと、私は考えています。

 金融業の利益がすぐに無くなるわけではないのに、日本でも世界でも、金利が下がるにつれて金融株は売られていくため、結果的に金融株には株価指標で見て、割安な銘柄が増えているわけです。割安株として投資していって良い銘柄が多いと考えています。

株価指標で見て割安でも、収益先細りが懸念される金融株は避ける

 割安株に投資する際、気をつけなければならないことは、「安かろう悪かろう」銘柄をつかまないことです。見かけ上の株価バリュエーションが低くても、将来、利益がなくなっていく金融株には投資すべきでありません。

 将来にわたって収益基盤がしっかりしていると考えられるのに、売られている金融株を探さなければなりません。

 長期金利低下で、「長短金利スプレッド」が無くなっていくので、国内商業銀行業務への依存度が高い地方銀行には投資すべきでないと思います。特に、預貸比率(預金のうち貸金にまわしている比率)が低く、預金を集めて国債を買うことで収益を稼いできた銀行は、今後、収益が厳しくなります。ゆうちょ銀行も国債での運用益に依存してきたため、今、収益構造の転換をはかっていますが、まだ充分な成果が出ていないため、先行き、収益先細りが懸念されます。

 生命保険業も、収益の先細りが懸念されます。終身保険への依存が大きく、収益の多様化が十分にできていない日本の生命保険会社は、金利低下で利ザヤが低下するので、積極的には投資できません。

ゼロ金利でも収益を稼ぐ金融業に注目

 長短金利スプレッドだけが金融業の収益源ではありません。「信用スプレッド」「金融に付帯するサービス」など、金利低下でも無くならない収益原はたくさんあります。そこでしっかり利益を稼いでいける候補として、損害保険、リース、カード、消費者金融、信託などあります。

 リース業は、航空機リースの収益悪化が懸念材料です。コロナ危機でレンタカーの利用が減っていることも逆風です。ただし、それを除けば、金利低下が続く中でも、最高益を更新する力がある銘柄が多いことから注目されます。「オペレーティング・リース」の構成比が高いリース会社が好調です。

 損害保険業も、金利低下のマイナス影響をほとんど受けない業種と考えられます。株価が割安な東京海上HDなどに注目しています。コロナショックで、保有している株が値下がりしているため損保株も下がっていますが、本業そのものはディフェンシブと考えられます。

 カード、個人向け金融事業も、金利低下のマイナス影響をあまり受けない業種です。これらの事業では、利ザヤ(調達金利と貸出金利の差)は、長短金利スプレッドではなく、主に信用スプレッドから成り立っているからです。長期金利がゼロになっても、このスプレッドは残ります。

 イオンFSは、世界景気悪化の影響から海外(特にメコン圏)で貸し倒れが増えていること、新型コロナ感染の影響でイオン・ショッピングセンターの一部が休業している影響が懸念され、株価が大きく下がっています。貸し倒れ関連費用の収益に占める比率が、国内は7%前後で安定していますが、海外では2018年度22.9%から19年度28.5%と悪化したことが懸念材料となっています。20年度の海外貸し倒れは引き続き高水準となる可能性があります。

 それでも、私は、中長期の成長性は変わらないと考えています。したがって、現在は、中長期投資の好機と判断しています。キャッシュレス決済が国内外で拡大することがイオンFSにとって、追い風になります。新型コロナの感染拡大が懸念される中で、現金をやり取りすることが衛生上望ましくないと考える人が国内で増えていることから、今後、キャッシュレス決済が一段と拡大すると考えられます。その中で、流通系カード会社は、優位な位置にあると考えています。

 最後に、多くの方が投資判断に悩むのが、メガ銀行です。私は、配当利回りが5~6%台に達している割安株として積極的に投資したいと判断しています。

 国内商業銀行業務は長期的に収益低下が避けられませんが、海外収益の拡大と、ユニバーサルバンク経営(証券・信託・リース・投資銀行業務などへの多角化)によって、高収益を保っていくと判断しています。それは、3メガ銀行グループ(三菱UFJおよび、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)すべてに共通です。

低金利でも高収益を維持していけると筆者が判断している金融株の株価・配当利回り・PER・PBR:2020年5月27日時点

コード 銘柄名 業 態 株価:円
8766 東京海上HD 損害保険 4,685.0
8570 イオンFS カード 1,219.0
8306 三菱UFJ FG メガ銀行 444.5
8316 三井住友FG メガ銀行 3,076.0
8411 みずほFG メガ銀行 130.9
銘柄名 配当利回り PER:倍 PBR:倍
東京海上HD 4.3% 10.0 1.0
イオンFS 5.7% 8.0 0.7
三菱UFJ FG 5.6% 10.4 0.4
三井住友FG 6.2% 10.5 0.4
みずほFG 5.7% 10.4 0.4
出所:各社決算資料より作成。配当利回りは今期(2021年3月期)1株当たり配当金(会社予想)から計算。ただし、今期の配当予想を発表していないイオンFSは日経QUICKコンセンサス予想から計算。PERは今期1株当たり利益(会社予想)から計算。今期の業績予想を発表していない東京海上とイオンFSは、日経QUICKコンセンサス予想から計算

 

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