先週の日経平均は、原油先物暴落を嫌気して下落
先週の日経平均株価は、1週間で635円下がり、1万9,262円となりました。週初、原油先物の暴落を嫌気し、NYダウ・日経平均とも急落したものの、週末にかけて原油先物が反発すると、NYダウ・日経平均とも持ち直しました。
20日、WTI原油先物(5月限)は1バレル▲37.63ドルと、史上初のマイナス価格で引けました。原油暴落により「逆オイルショック」【注】が起こる不安が高まり、NYダウ平均株価が大幅下落すると、22日に日経平均は一時1万8,858円まで売られました。
【注】逆オイルショック
「オイルショック」とは、原油急騰により世界景気が悪化すること。これに対し、原油急落で世界景気が悪化することを「逆オイルショック」と呼ぶ。原油の急落スピードがあまりに速いと、資源国だけでなく、原油の輸入国まで景気・企業業績の悪化に見舞われ、世界全体の景気が悪化する。
ただし、その後、原油先物が反発すると、NYダウ・日経平均ともに持ち直し、週末には日経平均は1万9,262円まで戻りました。
日経平均日足:2020年1月4日~4月24日
WTI原油先物(期近)日次推移:2020年1月4日~4月24日
リーマン危機を超える世界景気悪化、米経済再開への期待が相場を支える
欧米で発表される経済指標は、いずれも過去に類を見ない急激な景気の悪化を示しています。24日には、米国で、新規失業保険申請件数(4月13日の週)が発表されました。
米国の新規失業保険申請件数
米国では、コロナ感染防止のための経済封鎖によって、5週間で2,600万人を超える雇用が失われたことが分かります。これで、過去10年以上かけて創出してきた雇用がすべて失われました。急激な経済悪化を受け、CBO(米議会予算局)は24日、4-6月の米GDP(国内総生産)が前期比▲40%(年率換算)のマイナスとなり、失業率が14%に達するとの見通しを発表しました。これは、2008年のリーマン危機を上回る悪化です。
このままでは、金融危機が避けられなくなるため、トランプ米大統領は、感染鈍化を確認しつつ、経済再開を急いでいます。CBOは、経済再開を前提に、7-9月の米GDPは、前期比年率23.5%と、急回復を予想しています。思惑通り、米経済再開は、予定通り、進むでしょうか?
欧州でも、同様に、リーマン危機を上回る悪化が見られます。
コロナ克服には、集団免疫かワクチンの開発成功しかない
米国は、早期に経済を再開しないと、金融危機を招きかねない危機的状況にあります。過去に例のない巨額の財政出動で、企業の連鎖破綻をなんとか回避していますが、危機が長引けば、いずれ財政が持たなくなるのが明白です。
そこで、トランプ大統領は、経済再開を急いでいます。経済再開の条件として、3つの条件を挙げています。(1)感染拡大鈍化、(2)検査体制の充実、(3)医療体制の整備の3つです。
私は、1つ重要な条件が抜けていると思います。(4)ワクチン・治療薬の早期開発に成功という条件です。これがないと、経済再開後に、感染が再び拡大するリスクが残ります。
人類が最終的に新型コロナを克服する方法は、現時点で2つしかないと思います。集団免疫か、予防用ワクチンの大量普及です。
どちらもできていない状況で、拙速に経済を再開すると、感染の二次拡大を招くリスクが生じます。
集団免疫はいつ実現するか?
一般に、感染症は、一度かかると二度はかからない傾向があります。感染して回復すると、体内に免疫(病原ウイルスを排除する抗体)ができるからです。
感染症が大流行し、生き残った人が免疫を持つことで感染が終息に向かうことを、「集団免疫」と言います。人口の6~7割が免疫を持てば、感染は終息します。
医学が未発達だった時代、致死率の高い感染症が大流行して、終息するには長い年月がかかりました。回復して免疫を持つ人が、人口の6~7割を占めるまで、感染に歯止めがかかりませんでした。
たとえば、1918年(第一次世界大戦末期)、世界的に大流行したスペイン風邪(当時は風邪と考えられていたが実際はインフルエンザ)がそうです。世界中で、何百万という死者を出しましたが、生き残った人々が免疫を持つことで、やっと終息に向かいました。
新型コロナでも、一度かかって回復したヒトには、抗体ができているので、二度はかからないと考えられています。ただし、これは厳密に証明されたわけではないので、現時点ではWHO(世界保健機構)は「免疫の保証なし」と警告しています。抗体の形成が不十分なまま回復し、二度感染する事例が出ているからです。それでも、十分な抗体が形成されて免疫を獲得した人が増えていることは事実と考えられます。
新型コロナでは、感染者の8割は軽症のまま回復すると考えられています。その回復者の血中には、抗体が形成されているはずです。それを調べるための、「抗体検査」が、米国や欧州などで一斉に始まっています。
米国ニューヨーク州のクオモ知事は23日の記者会見で、無作為に抽出した3,000人を対象とした抗体検査で13.9%が抗体を持っていたと発表しました。州全体の人口(1,950万人)の13.9%が抗体を持っていると仮定すると271万人がすでに抗体を持っていることになります。これは、公表されている同州の感染者数(25万人)の10倍を超える人数です。
感染者の正確な把握は今でもできておらず、実際の感染者数は報告されている数よりも、はるかに多い可能性があります。軽症で、ほとんど自覚症状がないままに回復しているために、感染者に数えられていない人が、たくさんいると考えられます。米国だけでなく、欧州の抗体検査でも、抗体保持者が増えていることが観測されており、実際の感染者数は、報告より10倍以上多いとの予測が出ています。
ところで、クオモ知事の発表では、ニューヨーク州の中でも感染が深刻だったニューヨーク市だけに絞ると、あくまでも標本調査の結果では、約20%が抗体を持っていたとの結果が出ています。人口の6割以上が免疫を持つ、集団免疫にはまだ遠いものの、少しずつ、免疫保持者が増えてきていることが分かります。
予防ワクチンが利用可能になるのは、いつか?
集団免疫が自然に実現するには、長い年月が必要です。それよりも早く、予防ワクチンが実現して、たくさんの人が利用可能となることが望まれます。感染して回復するだけでなく、ワクチン投与によって免疫を獲得する人が、早く人口の6割を超えさせる必要があります。
日本は出遅れていますが、欧米では新型コロナワクチンの開発ラッシュとなっています。通常だと5年以上かかるワクチン開発を、1~2年以内に実現するペースで開発が進んでいます。それでも遅すぎるとの見方もありますが、安全性に配慮し、副反応(ワクチン投与による体調悪化など)が起こりにくいワクチンを開発するには、ある程度の時間がかかります。
集団免疫を待つことなく、早期にワクチンが利用可能になることが望まれます。
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