米国株式は不況下のなかで「半値戻し」を達成した

 新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン(外出禁止・制限)の影響で世界景気が急速に悪化するなか、日米株式は底堅く推移しています。感染拡大がいったん収束した中国では、発生地だった武漢市(湖北省)のロックダウンを8日に解除。中国政府は徐々に軸足を移しています。感染者数で世界最大の米国では、NY州などで感染増加がピークアウトの兆しをみせ、トランプ政権も経済活動の再開時期を探る姿勢をみせています。

 S&P500指数は年初来安値から約27%上昇(14日)。年初来高値(2月19日の3,386.15)から年初来安値(3月23日の2,237.40)までの下落幅の「半値戻し」の水準(2,811.78)を突破しました。「半値戻しは全値戻し」との相場格言があります。

 図表1は、この戻り相場をGAFAM(米IT大手銘柄群)が主導しており、米国株式に復元力があることを示しています。なお「不況下の株高」との格言もあります。リーマン・ショック(2008年9月)を発端とする金融危機で景気後退入りした米国では、実質GDP(国内総生産)成長率がマイナスを続け景気後退に陥っていた2009年3月に株式市場が底入れした経緯もあります。当時と現在の共通点は、FRB(米連邦準備制度理事会)の積極的な金融緩和が挙げられます。

 とはいえ、実体経済は悪化を続けており、足元で悪化する景気指標や今週から発表が始まった第1四半期の米決算発表とガイダンス(業績見通し)の内容次第で、利益確定売りや戻り売りが先行して短期的に株価が乱高下する可能性もあります。

<図表1>米国市場では「不況下の株高」が鮮明となった

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019/5/1~2020/4/15)

世界が注目する米国NY州の新型コロナ感染動向

 世界市場の注目は、米国の新型コロナウイルス感染動向、なかでもNY(ニューヨーク)州の感染動向に集まっています。米国全体では15日、感染者数(累計)が63万人を超え、ウイルス感染による死者は3万925人と過去最多となりました。

 こうしたなか、NY州のアンドルー・クオモ知事は13日の記者会見で、「NY州内の感染死者が1万人を超えた」とした一方、同州の感染状況が「最悪の状況を脱した」とも述べました。

 図表2は、NY州の感染者数(累計)と、5日前比の増加ペースを示したものです。感染者数はいまだ増加していますが、そのペース(5日前比増加数)にピークアウトの兆しがみられます。クオモ知事は、ニュージャージー州など東部の計7州が、経済活動再開に向けた取り組みで協力していくと発表しました。感染動向はいまだ予断を許さない状況ですが、市場は徐々にロックダウンの解除・緩和による状況改善を視野に入れる可能性はあります。

<図表2>世界が注目する米国NY州の新型コロナ感染動向

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2020/3/2~2020/4/15)

 トランプ大統領も、感染拡大でほぼ停止状態となっている米国の経済活動を5月1日に一部から解除したい意志を表明しました(14日)。ただ、NIH(米国立衛生研究所)国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長は、「やや楽観的過ぎる」との認識を示しておりいまだ流動的です。

 先読み(Forward Looking)しがちな株式市場は、「政策に売りなし」と呼ばれる「過去最大の金融緩和策や景気対策」(企業や失業者の救済策)がもたらす総悲観の後退を経て、ロックダウン解除(緩和)後の景気回復を期待しようとする動きもみられます。

 実際FRBは9日、信用市場の混乱を安定化させるため約2.3兆ドル(約240兆円)の追加金融緩和策を発表。感染拡大や原油相場急落で資金繰りが困難となった企業の社債が今後「非投資適格(ジャンク)級」に格下げになると見込まれる中、FRBは社債購入プログラムの拡充策としてハイイールド債の一部もバランスシートに受け入れる方針を示しました。

 こうした当局の積極的な支援策で、ハイイールド債市場は先週1998年以来最大の値上がりをみせました。「戦時対応」とも呼べる景気対策を受け、社債市場の信用スプレッド縮小(金融ストレス低下)を介し、株式などリスク資産の戻りを支える展開となりました。

バイオテクノロジーはディフェンシブでグロース?

 米国株式が反発したなか、相対的に優勢となっているのがナスダック・バイオテクノロジー指数です。バイオテクノロジーとは、バイオ(生物の持っている働き)を生かしたテクノロジー(技術)を総称します。

 近年は、バイオテクノロジーを活用した新薬の開発が行われており、癌(がん)治療やアルツハイマー型認知症などについて、従来の放射線や抗がん剤と比べて高い治療効果が期待される薬品も生まれています。

 景気循環に比較的左右されない「ディフェンシブ」(安定成長)と呼ばれるヘルスケアセクターのなかで、長期的視野で高い成長が期待できる「グロース」とも言えそうです。図表3で示す通り、ナスダック・バイオテクノロジー指数は、3月は市場平均(S&P500指数)と同様急落しましたが、年初来高値(2月19日)からの下げ幅の3分の2以上を取り戻し、再び高値をうかがう動きをみせています。

<図表3>ナスダック・バイオテクノロジー指数の相対推移

注:上記は2019年5月1日を100とした株価指数の推移を比較したものです。
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019/5/1~2020/4/15)

 こうしたバイオテクノロジー分野の個別銘柄投資は、専門性が高い上に銘柄リスク(商品化の実現性やその時期の不確実性など)も高いと言われます。そこでご紹介したいのが、投資成果がナスダック・バイオテクノロジー指数に連動するように運用されている米国上場ETF(上場投資信託)「iシェアーズ NASDAQ バイオテクノロジーETF」(IBB)です。

 図表4は、同ETFの上位組入銘柄を組入ウエイト(比率)の降順で一覧したものです。興味深いのは、株価が年初来14.9%上昇しているギリアド・サイエンシズ(GILD)、年初来36.3%上昇しているリジェネロン・ファーマシューティカルズ(REGN)、年初来90.4%上昇しているモデルナ(MRNA)などが「新型コロナウイルスの治療薬やワクチン開発」で注目されている銘柄ということです。

 まさに人類が現在向き合い、今後も警戒し続けるべき「生物学的な脅威」への対抗薬だけでなく、様々な病気の予防・治療、健康増進や健康年齢の長寿化に貢献する企業の集合体に分散投資するETFと言えるでしょう。

 銘柄によっては、創薬開発プロセスへの先行投資で利益が赤字、あるいはEPS(1株当たり利益)の水準が低く、予想PER(株価収益率)が比較的高い銘柄も散見されるのも特徴です。IT(情報技術)分野と同様、絶え間なくイノベーション(技術革新)を生み出し、世界の先端分野をリードする米国。こうしたイノベーションの原動力を維持・継続できる環境こそが、米国経済の競争力の源泉であり最大の強みと言えるでしょう。バイオテクノロジー分野を「コロナ危機後の成長分野」として注目したいと思います。

iシェアーズNASDAQバイオテクノロジーETF(IBB)の上位組入銘柄

ティッカー 銘柄名 直近
株価 
年初来
騰落率
2020年
予想
PER
GILD ギリアド・サイエンシズ 74.63 14.9 11.9
VRTX バーテックス・ファーマシューティカルズ 255.23 16.6 33.7
AMGN アムジェン 221.80 -8.0 14.3
BIIB バイオジェン 326.94 10.2 10.2
REGN リジェネロン・ファーマシューティカルズ 511.69 36.3 19.4
ILMN イルミナ 294.29 -11.3 44.1
ALXN アレクシオン・ファーマシューティカルズ 96.94 -10.4 8.9
SGEN シアトル・ジェネティクス 125.04 9.4 -41.4
INCY インサイト 90.95 4.2 30.3
BMRN バイオマリン・ファーマシューティカル 82.36 -2.6 57.9
ALNY アルナイラム・ファーマシューティカルズ 121.50 5.5 -19.1
MRNA モデルナ 37.25 90.4 -23.8
※単位 直近株価:ドル  年初来騰落率:%  2020年予想PER:倍
※米国籍ETF(IBB)の上位組入銘柄であり、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2020/4/15)

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