予想以上のピッチで感染拡大、世界景気に悪影響を及ぼす懸念が強まる

 先週の日経平均株価は1週間で622円下落し、2万3,205円となりました。1月31日のシカゴ日経平均先物(3月限)は、2万2,710円まで下がっています。週明けの日経平均は、大幅続落が予想されます。

日経平均日足:2019年10月1日~2020年1月31日

出所:楽天証券経済研究所作成

 中国の武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染が予想以上のピッチで世界に広がり、世界景気に悪影響が及ぶ懸念が強まったことから、世界株安が続いています。

 2月2日朝の発表では、中国国内で報告された感染者は1万4,380人、死者304人に達しています。中国以外の26の国・地域でも、合わせて160人以上の感染者が出ています。日本でも、17人の感染が報告されています。

 中国政府は、武漢の交通遮断・団体旅行禁止など政策を総動員して感染拡大を封じ込める構えです。一部の地方政府や企業に、春節の休暇(1月24日~2月2日)をさらに延長して、感染拡大を抑える動きも出ています。そのために、中国では人の行き来が制限され、景気が悪化する懸念が強まっています。1~2月は、中国の消費が落ち込む見込みです。さらに、春節(旧正月の休暇)明けの工場再開が遅れれば、中国だけでなく、サプライチェーンでつながった世界中の製造業に悪影響が及びます。

 米中貿易戦争の影響で悪化しつつあった中国景気は、米中第一段階合意の成立を受けた対立緩和で、持ち直す期待が出ていましたが、新型肺炎の追い打ちによって、持ち直す時期が後ずれしそうです。中国と経済的つながりの深い、日本、ドイツ、東南アジアなどの景気にも、マイナス影響が及ぶ見込みです。日本では、1~2月には中国人観光客の減少によって、インバウンド消費(訪日外国人観光客の消費出)が落ち込みます。

 米中「第一段階合意」が成立して、これから回復と期待が高まったタイミングで発生した新型肺炎は、米中協議決裂で対立が激化したのと同じようなダメージを中国経済に及ぼすことになりそうです。

2020年の日経平均予想を再掲

 1~2月に日経平均が2万3,000円まで下落することは、私が昨年12月30日に作成した予想に、織り込み済みです。以下に、12月30日に作成した日経平均予想を、再掲します。

2020年日経平均予測:2019年12月30日時点

出所:楽天証券経済研究所
※2018~2019年は実績、2020年は筆者予想

 12月30日に出した予想では、「1~2月の日経平均は下落が予想される」としています(全文をお読みになりたい方は、レポート末尾の、著者おすすめのバックナンバーをご覧ください)。昨年10~12月の日経平均および世界の株式の上昇ピッチが速すぎたからです。

 昨年10~12月は、先行きの世界景気回復を織り込んで世界株高が起こったとみています。米中対立の緩和と、5G(第5世代移動体通信)・半導体への投資が世界的に盛り上がることによって、2020年4月ころから世界景気が回復することを織り込みつつあったと考えています。5G、半導体関連株は、特に値上がりが目立ちました。

 ただ、それにしても、10~12月の株高のピッチは速すぎました。そのため、1・2月はスピード調整が必至と考えていました。

 ただし、昨年末時点で、「新型肺炎が中国景気に追い打ちをかける」ことまでは想定していませんでした。新型肺炎の影響で、中国景気が底入れする時期は後ずれすると考えられます。1~2月の日経平均の下値は、2万3,000円と予想していましたが、新型肺炎の影響を考慮すると、2万2,000~2万2,500円まで下がる可能性が出てきたと考えます。

 ただし、日経平均が2万3,000円を割れれば、そこは長期投資で日本株の良い買い場になると判断しています。日本株は、配当利回りや買収価値から見て、割安と判断しているからです。短期的な下値がいくらになるか予想するのは困難ですが、ここからの下落局面は、日本株は押し目買いスタンスで臨むべきと考えます。

新型肺炎への「株式市場の恐怖のピーク」は13カ月後?

 新型肺炎の終息までに、かなり長い時間が必要となりそうです。感染の拡大が、2002~2003年に中国で発生して世界に広まった「SARS」(重症急性呼吸器症候群)以上だからです。今回、武漢で発生した新型コロナウイルスは、SARSよりも潜伏期間が若干長く、9日あまりに達する例もあるため、潜伏期のうちに感染を拡大させる問題が起こっています。

 ただし、時間とともに研究が進めば、予防法・治療法が徐々に浸透していくと考えられます。今、新たな感染者がどんどん見つかって、株式市場での恐怖が強まっていく状態ですが、いずれ感染者の拡大自体はスローダウンするでしょう。そうなると、株式市場での恐怖はピークアウトするでしょう。それが何カ月後かわかりませんが、早ければ1~3カ月後のこともあり得ます。感染拡大がスローダウンし、世界経済へのマイナス効果がどのくらいか計算できるようになるのがいつか、見極めることが大切です。

 新型肺炎そのものの終息よりも、株式市場での恐怖のピークアウトは早くなります。それは、エボラ出血熱(エボラウイルス病)への恐怖で世界株安となった2014年10月の経験からもわかります。

2014年1~12月の日経平均の動き

出所:楽天証券経済研究所作成

 詳しくは、以下の1月23日のレポートをお読みください。

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