先週は「第1段階合意」成立で世界株高に
先週の日経平均株価は1週間で191円上昇し、2万4,041円となりました。米中「第1段階合意」に15日 トランプ米大統領と、中国の劉鶴副首相が署名して成立したことが好感されました。
日経平均は年初、米・イラン間の緊張が高まり一時2万3,000円を割り込んだところから、V字回復。米・イランがともにこれ以上の緊張の高まりを望んでいないことが明らかになったことから先々週の後半に日経平均は急反発、さらに先週、米中「第一段階合意」成立が追い風となり、続伸しました。
ただし、米中対立が緩和に向かう期待を生じる強材料が出た割には、先週の日経平均の上値は重かった印象です。NYダウの史上最高値更新が続いているにもかかわらず、日経平均はまだ、一昨年のバブル崩壊後高値(2万4,270円)を超えられていないからです。
「第1段階合意」があまりに米国優位で、「中国は合意を守れるはずがない」との疑念もあります。それでもNYダウは、米国優位な第1段階合意を素直に好感して最高値が続いています。一方、日経平均はやや上値が重くなっています。
日経平均週足:2018年10月1日~2020年1月17日
NYダウ週足:2018年10月1日~2020年1月17日
一方的に米国優位だった「第1段階合意」
先週15日に正式に成立した米中「第1段階合意」内容は、昨年12月15日に米中で合意した内容から大きくかけ離れてはいませんでした。その意味では、サプライズ(驚き)はありません。
それでも、1つ、サプライズがあります。かなり一方的に米国優位の内容にもかかわらず、中国が合意して署名したことです。今回の合意で、中国は、米国からの輸入を今後2年間で2,000億ドル(約22兆円)も増やすことを約束させられました。その他にも、たくさんの約束【注】を、させられています。
【注】第1段階の合意に盛り込まれた中国が遵守すべき7項目
(1)米国からの輸入を今後2年で2,000億ドル増やすこと
(2)外資系企業に対する技術移転強要の禁止
(3)知的財産権の保護
(4)為替操作の禁止
(5)金融サービスの対外開放
(6)農産品輸入の非関税障壁撤廃
(7)履行検証。合意内容が遵守されているか検証し、遵守されていなければ米国が一方的に罰則を課せる仕組みを導入
これに対し、米国が中国に約束したのは、制裁関税の一部税率をほんの少し引き下げることだけ。昨年9月に発動した制裁関税第4弾(中国からの輸入1,200億ドル相当にかけた15%)の関税率を7.5%にします。ただし、それ以前に発動していた制裁関税第1~3弾(合わせて中国からの輸入2,500億ドル相当にかけた25%)は、そのまま維持されます。
トランプ大統領は、交渉の成果を強くアピールしました。これだけ一方的に米国に有利な内容を中国に呑ませたわけですから、当然かと思います。
それだけ、中国景気が悪化し、中国側が追い詰められていたということが分かります。米中貿易戦争のマイナス影響は、中国に重く、米国に軽微であることが、これまで分かっていました。そのため米国優位に交渉が進みました。
中国が合意を遵守するのは、かなり困難
1つ重大な問題があります。中国は合意を守れるのでしょうか? 一番心配なのは、米国からの輸入を2,000億ドル増やす約束です。世界各国から輸入を合わせて2,000億ドル増やすのならば、やりようはあるかもしれません。米国だけから輸入を増やすのは、かなり困難です。国家主導の管理貿易を実施し、中国の民間企業の自由を奪い、強制的に米国から輸入を増やさせない限り、実現しません。
特定の国から輸入を大幅に増やすことがいかに困難か、たとえ話で説明します。
日本が、米国から自動車輸入を増やすことを約束させられました。輸入車を増やす政策をとり、輸入車を強引に増やそうとします。ただし、どこの国から輸入が増えるでしょうか?
日本で人気のドイツ車の輸入が増えるでしょう。また、日本メーカーが海外で生産する日本車の逆輸入も増えるかもしれません。ディーラー網が十分に整備されていない米国車の販売だけ日本で急激に伸ばそうとしても、簡単には実現しません。
国家主導の管理貿易でないと実現できない要求を他国に押しつけることは、理不尽と言えます。米国からの輸入を増やしつつ、それ以外の国からの輸入が増えないような複雑な管理貿易をやらない限り、実現できない要求だからです。このような要求は、自由経済を前提としている欧州や日本は、絶対に受け入れないと思います。それでも、中国がその要求を呑んだのは、中国がこれまで、計画経済で国の意思で経済を管理してきたからだと思います。
それでも、短期的には世界景気に追い風
これから始まる、米中「第2段階合意」を目指した交渉は、さらに難航するでしょう。補助金を使って成長分野のトップシェアを一気に取る戦略の禁止などが議題になると考えられるからです。中国の「国家資本主義」の根幹をなすだけに、中国側はいっさい譲歩しないでしょう。
さらに不安があります。中国が第1段階合意を遵守していないという話が出るのは、時間の問題でしょう。そうした話が増えると、米国は中国に追加制裁を課す検討を始めることになります。そうなると、米中対立が再び激化することになります。
このように将来に不安のタネがたくさん残る「第1段階合意」でした。ただし、それでも、短期的には米中対立は緩和に向かうと考えられます。少なくとも、米大統領選が終わる今年の11月まで、一時的に米中対立が緩和する時期になる可能性があります。そうなると、米中対立によって抑圧されていた、5G(第5世代移動体通信)・半導体などのハイテク投資が世界的に盛り上がり、世界景気が回復に向かうことになるでしょう。
2020年前半は、米中対立の緩和、世界景気回復を織り込む、世界株高が続くと考えています。日経平均は年央に2万6,000~2万7,000円に達するとの予想を継続します。日本株については、配当利回り4~6%の大型高配当株から投資していくべきと考えています。
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