中東の地政学リスクは自律調整の口実?

 新春の株式相場は波乱含みでスタートしました。米国とイランの軍事的緊張を受け、週初は投資家のリスク回避姿勢が先行。金相場が上昇し、為替もリスク回避の円買いでドル/円は一時107円台まで下落しました。

 ただ、イランによるイラクの米軍基地爆撃(8日)直後、トランプ大統領もイラン政府も「本格的な軍事衝突を避けたい」との意向を示し、日米株式は安堵感で急反発しました。とはいえ、昨年10月以降の株高で、米国市場でS&P500指数の200日移動平均かい離率は年初に+9.7%と2018年1月以来の高水準に上昇。「買われ過ぎ・売られ過ぎ」を判断するRSI(相対力指数)も昨年末に78.4まで上昇し、「買われ過ぎ」とみなされる70を突破しました(図表1)。米国市場のアノマリー(季節性)で、年末高の反動として自律調整が想定される時期に地政学リスクの高まりが相場変動要因となった状況に注目です。

 米国とイランが全面戦争に突入する可能性は低下したとみられ、今回の株価調整も「リターン・リバーサル(株高の反動調整)」の範囲にとどまる可能性があります。当面も中東情勢、米国株式、為替動向をにらみつつ、中期的には「押し目は好機」となりそうです。米国と中国を中心に世界の景気軟着陸(ソフトランディング)シナリオをベースに、本年も株式市場の堅調傾向が維持されると考えているからです。

<図表1>米国株式市場の動向

(出所)Bloombergをもとに楽天証券経済研究所作成(2017/1/1~2020/1/8)

「リスク分散効果」を再認識する相場か

 こうしたなか、分散投資の意義が見直されつつあります。図表2の上段グラフが示す通り、2019年初来の資産別リターン(円換算総収益)を振り返ると、株式の変動が高まった際に、債券、金、REIT(不動産投資信託)が堅調だった場面が多くありました。

 最近は「地政学リスクの高まり」を反映して金が上昇しました。外部環境の変化で株式が下落した際、債券やオルタナティブ(金やREIT=伝統的資産と特徴を異にする代替的資産)はポートフォリオ全体のリスク(リターンのブレ)を和らげる効果が期待できます。

 図表2の下段グラフは、「内外の株式、債券、REIT、金への等金額配分投資」を想定したシミュレーションと日本株のパフォーマンスを比較したものです。リターン面で分散投資と日本株は同等となっていますが、分散投資のリスク調整後リターン(変動を加味したリターン)が安定していたことがわかります。債券やオルタナティブのリスク分散効果の「面目躍如」にみえます。中長期の視野で、国際分散投資が運用資産全体のリターンを安定化させる可能性が高いことに注目したいと思います。

<図表2>内外市場の資産別リターンと分散投資効果

(出所)各種の総合収益指数、Bloombergをもとに楽天証券経済研究所作成(2019/1/1~2020/1/8)

手数料0円ETFで「カルテット(四重奏)運用」を構築

 前述のように、投資環境の変化次第で好不調が入れ替わる資産別のリスク・リターン特性を理解し、内外資産に広く分散投資をすることで「運用資産全体のリスク低減」を目指したいと思います。

 国内の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を実施しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、株式5割(国内株式25%+外国株式25%)・債券5割(国内債券35%+外国債券15%)で構成される「基本ポートフォリオ」(基本的な資産配分)に沿って運用しています。

 ただ、年金のような巨額資産の運用でない個人投資家の方々は、REITや金などオルタナティブに連動する投資商品を活用してポートフォリオを構築することが可能です。図表3では、リスク・リターン特性が異なる内外資産に広く分散投資することを目的とした「カルテット(四重奏)運用」をご紹介しています。

<図表3>カルテット(四重奏)運用の概要<参考情報>

(1)4種類の資産クラスに幅広く資産配分(株式30%、債券25%、REITは30%、金15%) 
(2)株式とREITは国内と外国に等配分を基本
(3)債券は金利水準を加味して国内債を10%、外国債に15%
(4)金に15%を配分する(以上で合計100%)
(5)年末にリバランス(市場変動で生じた配分比率のズレを当初配分に戻す調整売買)

 カルテット運用は、「卵は一つの籠(かご)に盛るな」(Don’t put all your eggs in one basket=リスク分散投資の意義)の考えを実現していく方法論として考えた投資戦略です。 

 そこで、東証上場ETF(上場投資信託)のうち「手数料0円(売買手数料無料)ETF」のみでカルテット運用(内外株式+内外債券+内外REIT+金)を構築した具体例を図表4に示しました。

 ETFそれぞれの最小投資口数を前提とするため、上述したカルテット運用で示した資産配分比率(ウエイト)とは若干差異があります。また、最適な資産配分比率については、投資家それぞれのリスク許容度、投資期間、ニーズ(選好)に応じて決定されるべきとされます。

 図表4は、「売買コストを抑えつつリスク・リターン特性が異なる内外資産に広く分散投資することが簡単にできる(投資総額は約28万円)」事例を示しています。楽天証券の「手数料0円ETF」に関する詳細情報は下記にてご確認ください。

<図表4>「手数料0円ETF」で作るカルテット運用

(出所)Bloombergをもとに楽天証券経済研究所作成(2020/1/8)

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