年末高の反動として「新春安(年初安)」を警戒

 米国市場では今週初も主要株価指数が高値を更新しました。図表1で示すとおり、日米株式はほぼ「年末高」で終わりそうです。ただ、高値警戒感も根強い状況です。S&P500指数の200日移動平均線に対する上方かい離率は+9.0%(23日)と2018年2月2日以来の高水準。CNN Businessが日々公表している「恐怖&貪欲指数」(Fear & Greed Index)は、「0(弱気)から100(強気)」のレンジで「92」と市場心理が「過度に貪欲(Extreme Greedy)」となっていることを示しました。昨年同日(2018年12月23日)の同指数は「2」で、「極度な弱気(Extreme Fear)」に至っていた時点と大違いです。

 図表2は、1999年から2018年の20年にわたる米ダウ平均、ドル円相場、日経平均のパフォーマンス平均を示したものです(年初=100)。10月から12月にかけて「年末高」を演じた翌年は、1月から2月にかけ年初安となった「アノマリー」(長期市場実績にもとづく季節的傾向)が検証できます。換言すると、「リターン・リバーサル」(株高の反動としての株安)が視野に入りやすい時期ということです。

 ただ、実際にこうした押し目があれば、投資の好機となる可能性が高いと考えています。米国と中国の景気軟着陸(ソフトランディング)シナリオを前提に、2020年も株式に底堅い展開を見込んでいるからです。とは言うものの、リスク要因が顕在化する場面となれば、市場の不確実性が高まり、時として株価が乱高下する可能性は否定できず注意を要します。

<図表1>2019年の日米市場(株価とドル/円の推移)

(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019年初~2019年12月25日)

<図表2>日米市場のアノマリー(季節性)

(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(1999年初~2018年12月末)

2020年を通じて警戒したい「7大リスク」とは

 可能性としての「新春安」を含め、2020年に市場参加者がリスク選好姿勢からリスク回避姿勢に転じる発端となりそうな潜在的要因を「7大リスク」として下記しました。それぞれの生起確率は高くなくとも、複数のリスク要因が同時的に顕在化すると、日米株価とドル/円に下落(円高)圧力となりやすいので警戒が必要です。

(1)米中対立の再激化:いったん「貿易合意」に至った米中交渉ですが、IT分野の覇権争い、香港・ウイグルの人権問題、安全保障面を巡る合意は困難とされます。1月11日の台湾総裁選挙の結果次第で「一国二制度」を巡る米中対立が激化する可能性も否定できません。2018年や2019年と同様、新年も米中対立やトランプ発言が波乱要因となりそうです。

(2)ワシントン情勢の行方:市場は米・大統領選挙について、「トランプ再選」をメインシナリオ、「民主党ならバイデン当選」をサブシナリオとして想定しているようです。ただ、共和党支持母体の福音派から「トランプ弾劾」を支持する声が出ており、民主党候補者争いもリスク要因。ウォーレン氏やサンダース氏など左派が優勢となれば市場は不安を強めそうです。

(3)BREXITを巡る不安:12月12日に実施された英国総選挙で、BREXIT(英国のEU離脱)を主張するジョンソン保守党が勝利を収めました。2020年1月末の離脱期限に向け道筋は整いそうです。ただ、2020年末までにEU各国とFTA(自由貿易協定)で合意する必要があり、その実現は危ぶまれています。「合意なきEU離脱」は引き続きリスク要因です。

(4)米長期金利の上昇加速:米景気は雇用情勢の堅調を背景とする個人消費好調と金利低下の恩恵を受けた住宅投資回復が製造業の低調を補っています。米中の貿易合意で製造業の景況感が改善し、インフレ期待も回復に向かうと、米長期金利の上昇が加速する可能性があります。金利上昇は株式バリュエーションに圧力となりやすく警戒要因です。

(5)社債市場の急落懸念:世界の中央銀行が供給してきた「過剰流動性」が株式だけでなく社債(クレジット)市場にも行き渡り、特にハイイールド債市場の過熱感が警戒されています。また、中国を中心に新興国の債務残高は約55兆ドル(約6,000兆円)に拡大し「債務の崖」と警戒されています。米長期金利上昇で「債務リスク」が嫌気される事態に要注意です。

(6)中東情勢の緊迫化:トランプ政権は、支持母体であるキリスト教福音派と資金力が豊富なユダヤ教徒を重視するため、中東で「親イスラエル政策」を推進してきました。このことがイスラム教徒やアラブ諸国の反発を招いています。また、トランプ政権はイランに対し強硬姿勢をみせてきました。中東情勢が「地政学リスク悪化の震源」となるリスクがあります。

(7)朝鮮半島の危機再燃:米国と北朝鮮の対話が行き詰まっており、いったん安定していた朝鮮半島情勢が再び危機に陥るリスクも否定できません。国連安全保障理事会による経済制裁を緩和させる目的で北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)の実験などに踏み出せば、米国が対朝政策を転換させ、2017年にみられた軍事的緊張が高まりかねません。

米国株堅調と中国の景況感改善は日本株回復の追い風

 上記したリスク要因を踏まえた上で、「2020年が4年に一度の大統領選挙年(五輪開催年)に該当する」サイクルにあらためて注目したいと思います。図表3は、第2次大戦後(1946年以降)のS&P500指数の暦年騰落率を算術平均(+8.4%)し、その上で、「中間選挙年」、「大統領選挙前年」、「大統領選挙年」、「大統領選挙翌年」それぞれの平均騰落率を抽出したものです。

 長期で振り返ると、「大統領選挙年のS&P500指数の平均騰落率は+6.3%だった」ことがわかります。ただ、2008年(米国経済が景気後退に直面し株価が大きく下落した年)を除いた場合の平均騰落率は+9.0%だったこともわかります(図表4)。

 米国経済が2020年に景気後退入り(マイナス成長入り)する可能性が低下しつつある現在、「大統領選挙年でも米国株は堅調」と見込めそうです。米国株が堅調を維持し、基調としてリスク選好姿勢が続くなら、為替相場でもドル高・円安となりやすく、日本株の回復基調を下支える外部環境が期待できそうです。

<図表3>大統領選挙サイクルと米国株の平均騰落率(1)

(出所)Bloombergのデータをもとに楽天証券経済研究所作成(1946年~2018年)

<図表4>大統領選挙サイクルと米国株の平均騰落率(2)

(出所)Bloombergのデータをもとに楽天証券経済研究所作成(1946年~2018年/2008年を除く)

 図表5は、2010年以降の「中国の景気先行指数(OECD)」と「中国信用状況指数の変化率(%)」の推移を示したものです。中国政府と金融当局が景気下支え策を実施してきたことで、半年程度先の景況感を示す景気先行指数は2019年前半から底入れの動きを鮮明にしています。

 その一要因として、中国信用状況指数の変化率(China Credit Impulse 12 Month Change)が+2.0%に改善し(11月時点)、金融機関の貸し出しや信用供与が回復傾向であることがわかります。李克強首相は12月23日、中国政府が経済安定化を目的として「中小企業の借り入れコスト引き下げに向けた一段の措置を検討する」との方針を示し、これには「銀行の預金準備率の広範で目標を絞った引き下げなどが含まれる」と言及したと報道されました(Bloomberg)。

 こうした政策対応に加え、米中通商交渉で第1段階の貿易合意が署名・成立に至れば、GDP規模で米国に次ぐ世界2位の中国の景況感は安定化し、日本株式だけでなく世界株式を下支える要因となりそうです。前述したリスク要因の行方次第ですが、米国と中国の景気見通しが改善すれば、2012年末から2013年、2016年にみられた事象と同様、企業業績の回復期待で株式にはプラスのサイクルとなるでしょう。

「新春安」があってもなくても、短期的な変動(ボラティリティ)を乗り越え、2020年には米国市場でダウ平均が3万ドルを、日本市場では日経平均が2万6千円程度を目指す展開を見込んでいます。

<図表5>中国の景気先行指数と信用状況指数の改善

(出所)OECD、Bloombergのデータをもとに楽天証券経済研究所作成(2010年1月~2019年11月)

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