原油急騰で商社株や石油株が上昇

 16日にWTI原油先物(期近)が8.1ドル(14.7%)高の62.9ドル(1バレル当たり)と急騰した影響で、17日の東京市場では資源関連株が軒並み大きく上昇しました。ただし、17日にWTI原油先物が反落3.6ドル(5.7%)安の59.3ドルと急落したため、18日には資源関連株は反落する見込みです。

 大手総合商社株は、石油株・鉱業株とともに、資源関連株と言われます。世界中に、原油、LNG(液化天然ガス)、石炭、鉄鉱石、銅などの天然資源権益を保有し、資源事業で高い利益を上げているからです。

 商社株は、配当利回りが4~5%に達していて、高配当株としても魅力的です。今、大手総合商社に投資して良いのでしょうか? 商社の投資判断を述べる前に、まず、足元の原油価格の動きを解説します。

サウジアラビアの産油能力が無人機の攻撃で半減、原油先物が急騰

 世界第2位の産油国サウジアラビア(1位米国、3位ロシア)の石油施設が14日、広域にわたって無人機の攻撃を受け、炎上しました。中東イエメンで活動する武装組織が犯行声明を出したが、真偽は定かでありません。

 サウジアラビア政府は16日、この攻撃により、同国の原油生産量の約半分に当たる日量570万バレルが生産不能になったと発表しました。このニュースを受け、原油供給が不足する懸念が強まり、16日のWTI原油先物は急騰しました。ただし、17日は、サウジ政府が「原油生産能力は月内に元の水準に戻る」との見通しを発表したため、原油先物は反落しました。

 さて、原油先物は中東不安を背景にここからさらに上昇するのでしょうか? 私は、このままどんどん上昇することはないと考えています。その理由は3つあります。

【1】 日米欧先進国に、十分な原油備蓄がある
一時的に供給が減っても、備蓄を放出すれば、数カ月は問題ない。そのうちに、サウジの供給力を回復させることが可能と考えられる(継続的な無人機攻撃がないことが前提)。

【2】供給余力を持つ産油国が多い
現在OPEC(石油輸出国機構)では継続的に減産を実施している。サウジの供給減少をカバーするように増産することは可能。ただし、米国がイラン産原油の禁輸を強めれば、供給不安がさらに高まる可能性はある。

【3】中国需要の伸び鈍化
最大の原油輸入国である中国の景気が悪化し、需要の伸びが抑えられている。

2018年以降の原油先物の動き振り返り

  簡単に過去1年9カ月の原油先物の動きを振り返ります。

WTI原油先物(期近)の動き:2018年12月末~2019年9月16日

 

以下、【1】から【5】までの動きを解説します。

【1】2018年1~9月:上昇トレンド
世界景気が好調であったこと、OPEC諸国の減産が続いていたことから、2018年10月まで原油価格の上昇トレンドが続きました。2018年5月8日、トランプ米大統領が、イラン核合意から離脱し、イランへの経済制裁を再開すると表明したことが、原油先物がさらに上昇する原動力となりました。米国は、11月までにイランからの原油輸入をやめるように一方的に宣言。イランと取引する企業に制裁を課すことを示唆したため、イラン原油の供給減少懸念が強まりました。

【2】2018年10~12月:急落
中国景気の減速が鮮明となり、需要が鈍化する懸念から原油価格は下げ始めました。さらに、11月になってから、米国が、イラン産原油禁輸の「適用除外」に、日本を含む8カ国・地域を指定したことが下落に拍車をかけることに。米シェールオイルの増産が続き、米国の石油在庫が増加してきたことも、売り材料となりました。

【3】2019年1~4月:反発
米中通商交渉が近く合意に達する期待が広がり、貿易戦争で減速している世界景気も回復に向かうとの期待が出ました。それを受け、原油も買い戻されました。

【4】2019年5~6月12日:反落
 再び米中貿易戦争がエスカレートし、世界景気が悪化する不安が強まり、原油価格は反落。米シェールオイルの増産が続いていることも、売り材料となりました。

【5】2019年6月13日~9月16日:反発
中東ホルムズ海峡で6月13日、日本の海運会社が運航する1隻を含む2隻のタンカーが何者かに攻撃を受けて炎上しました。ホルムズ海峡は、世界の原油輸出量の約35%が通過する交通の要衝です。原油供給が不安定化する不安から、一時、ニューヨークのWTI原油先物が急騰しました。ところが、その後、事態は沈静化し、原油価格は反落。ところが9月16日、サウジの石油施設が無人機の攻撃を受け、産油能力の半分が失われたと発表があると、再び、原油先物は急騰しました。

シェールオイル増産で2014年に急落した原油は、その後反発したが上値重い

 原油需給がどう変化し、原油価格がどう動いてきたか、もっと長い年月で解説します。

WTI原油先物(期近)の動き:2014年1月2日~2019年6月14日

出所:シェールオイル生産コストは楽天証券経済研究所の推定

 原油価格は、世界の原油需給のバランス変化によって動いています。需要は年々安定して増加していますが、供給はさまざまな要因で増えたり減ったりします。その結果、原油は供給過剰や、需要過剰になって、乱高下しています。

グラフ中の<1>から<4>の動きを、以下に説明します。

【1】2014年に原油価格が急落
2013年まで原油の世界需給は、日量50万バレルの需要過剰でしたが、2014年に日量90万バレルの供給過剰になったため、原油価格は急落しました。米国でシェールオイルの生産が拡大したことが、供給過剰を招きました。

【2】2015年後半に原油価格が再び急落
2014年の原油急落で、米国のシェール油田でコスト割れが増えました。2015年前半は、シェールオイルの生産が減る思惑から、原油が反発。しかし、2015年後半は中東原油が増産され、供給過剰が日量2百万バレルまで拡大したために、原油価格が再び急落しました。高コストの米シェール油田は廃業に追い込まれたものの、低コストのシェール油田が増産したことで、シェールオイルの生産はあまり減りませんでした。

【3】2016年に原油価格が反発
米シェールオイルの生産がようやく減り始めたこと、OPECが減産に向けて話し合いを始めたこと、世界需要が順調に拡大したことを受け、原油需給が徐々に改善に向かい、原油価格が反発。11月にOPEC+ロシアが減産で合意すると上昇に弾みがつきました。

【4】2017年後半~18年9月まで、上昇継続
OPEC+ロシアの減産継続で需給がしまり、原油価格が上昇。米国がイラン産原油の禁輸を宣言したことも、上昇に拍車をかけました。

【5】2018年10月~12月、急落
 イラン産原油禁輸の適用除外に日本などが指定されると、原油先物は急落。中国景気減速による需要鈍化も、売り材料に。

【6】2019年1月~9月
 米中貿易協議が何らかの落としどころに落ち着く期待から、原油価格は反発。さらに、中東の地政学リスクの高まりで続伸。

資源事業の利益は引き続き不安定。それでも大手総合商社株の投資価値は高いと判断

 原油価格だけが上昇しても、大手総合商社の利益を拡大させる効果は限定的です。LNG、銅、鉄鉱石、石炭などの資源価格全般が上昇しない限り、短期的な原油上昇のメリットは大きくありません。

 原油価格自体も、原油需給や世界景気の現状を考えると、継続的に上昇するとは考えられません。資源掘削技術の革新によって原油などの資源を安く大量に生産する技術は、年々進歩しています。

 資源価格が2000~2007年のように一本調子で上昇していくことはもうないと考えています。そうした不安を反映し、大手総合商社などの資源関連株は、総じてPER(株価収益率)などのバリュエーションで、割安となっています。

 私は、資源ビジネスにほぼ特化しているピュアな資源株は、収益が不安定なので、評価しません。具体的には、国際石油開発帝石(1605)、石油資源開発(1662)には、投資したいと思いません。

 ただし、資源ビジネスで稼ぎながら、非資源ビジネスの収益を伸ばし、最高益を更新してきている大手総合商社には、積極的に投資したいと思います。三菱商事(8058)、三井物産(8031)、丸紅(8002)、住友商事(8053)は2020年3月期の連結純利益(会社予想)で、最高益を見込んでいます。伊藤忠商事(8001)はわずかに最高益に届きませんが、ほぼ最高益に近い純利益をあげる見込みです。

 5社とも、PER、PBR(株価純資産倍率)が低く、予想配当利回りは4~5%近辺と高水準で、株価バリュエーションから非常に割安と考えています。

大手総合商社5社の株価バリュエーション:2019年9月17日時点
 

コード 銘柄名 株価 PER PBR 配当
利回り
8058 三菱商事 2,814.0 7.1 0.8 4.4%
8031 三井物産 1,905.0 7.3 0.8 4.2%
8001 伊藤忠商事 2,264.0 6.7 1.1 3.8%
8002 丸 紅 766.7 5.5 0.7 4.6%
8053 住友商事 1,777.5 6.5 0.8 5.1%
*単位 株価:円 PER:倍 PBR:倍 配当利回り
注:PERおよび配当利回りは、2020年3月期の1株当たり利益および配当金(会社予想)から計算、楽天証券経済研究所が作成

 ただし、1つ注意点があります。商社ばかりに集中投資すべきではありません。「同じバスケットにすべての卵を入れるな」という投資格言があります。単一のリスクを取りすぎないよう、分散投資せよという意味です。

 大手総合商社は、魅力的な投資対象であると考えますが、世界景気敏感株で、株価のボラティリティ(変動性)が大きいことを考えると、あくまでも分散投資の一環として、保有すべきと考えます。

 

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