毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:カプコン(9697)

1.ゲームセクターの最近のトピックス:PS5はいつ発売されるのか

 9月4~6日、ゲーム開発者のカンファレンスであるCEDEC2019が横浜で開催されました。また、9月12~15日には東京で東京ゲームショウ2019が開催されます。10月に入るとクリスマス商戦へ向けた動きも出てきます。そこで今回は家庭用ゲームビジネスの最近のトピックスをまとめました。

 まず、ソニーの次世代機についてです。

 家庭用ゲームビジネスには、世代毎のハードウェアサイクルがあります。任天堂とソニーでやや異なりますが、基本的には大きな連続的な波動を形成します(グラフ1~3)。これまでの実績から、任天堂サイクル(据置機の場合)は、上り2~4年、下り5年、ソニーのプレイステーションサイクルは上り4年、下り4~5年以上となっています。

 これまでは、ハードウェア単年度販売台数がピークを打った1年後にソフト販売本数がピークをうち、その後、その世代のビジネス全体が下降局面に入っています。今回は、ソニーの場合、優良ソフトや追加コンテンツの寄与、各種のネットワークサービスの寄与で、ハード販売台数が既に2018年3月期から下降局面入りしているにもかかわらず、ソフト販売本数の下降局面入りは遅れていました。そのため、PS4ビジネスが下降局面入りせず長続きしてきましたが、今期はさすがにソフト販売も息切れしそうです。ソニーのゲームビジネスはいよいよ次世代機(名称はまだ非公表ですが、ここでは「プレイステーション5(PS5)」とします)への端境期が始まったと思われます。

 PS5がいつ発売されるのか、未だ不明です。ただし、今年の5月にスペックの一部が明らかになったこと、ソニーが2019年中の発売はないとコメントしていることを考えると、2020年または2021年3月期に発売される可能性があります。具体的には2020年秋(2020年9~11月)の可能性が高いと思われます。2022年3月期の可能性もありますが、次世代機の最大の競争相手となるであろうグーグルのクラウドゲームサービス「Stadia」のサービス開始が2019年11月なので、それから大きく時間が経つことは避けると思われます。

 PS5がどの程度売れるハードウェアになるのか、まだ分りません。相当な高性能で、PS4との下位互換性(PS4のソフトがPS5で遊べる)を付けることで、ゲームに熱心なコアユーザーを獲得する目論見のようですが、その分ハード価格が高くなる可能性があります。家庭用ゲームビジネスは性能と価格の両方で成否が決まるため、価格に注目したいと思います。

 いずれにせよ、家庭用ゲームビジネスは、この1~2年でまずソニーが次世代機へ移行し、次いでまだ時期は分りませんが、数年後(4~5年後?)に任天堂が次世代機を発売すると思われます。家庭用ゲームビジネスは新しい時代へ向かいます。

グラフ1 ソニーのゲームサイクル:プレイステーションの販売台数

単位:万台
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ2 任天堂のゲームサイクル:据置型ハードウェア

単位:万台
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券
注:ニンテンドースイッチは標準版のみでライトを除く

2.「ニンテンドースイッチライト」の可能性

 2019年9月20日に「ニンテンドースイッチライト」が発売になります。現行のニンテンドースイッチを小型化してテレビに接続できなくしたものです。ニンテンドースイッチの派生版ともいえますが、ニンテンドー3DSの後継機とも言えます。

 ニンテンドースイッチライトのソフトはニンテンドースイッチと同じなので、いつでもどこでもゲームをしていたいゲームのヘビーユーザーにとってニンテンドースイッチライトは良いゲーム機と言えます。また、日本、欧州と、ひょっとすればアジアにもあるかもしれない携帯型ゲーム機の市場を活性化する効果も期待できます。3DS市場が現在ほぼなくなったため、携帯型ゲーム機市場(例えば電車の中の需要)はほぼがら空きになっています。スマホゲームで代替出来なくはないですが、家庭用ゲームのユーザーは複雑な操作やストーリーを好むため、携帯型ゲーム機には一定の需要があると思われます。

 任天堂は、ニンテンドースイッチライト・ハードの販売計画を明らかにしていません。楽天証券では、今期400万台、来期600万台と予想しています。一方で、従来型(標準型)ニンテンドースイッチ(主に据え置きで使われているため、ここでは据置機に分類します)は、前期1,695万台、今期1,700万台、来期1,500万台(今期、来期はライトを除く台数)と、今期がピークと予想しています。そのため、ニンテンドースイッチライトが成功すれば、任天堂の業績はまだ拡大する余地があります。ただし、失敗すれば、来期にも任天堂の業績はピークをつける恐れがありますので、ニンテンドースイッチライトの成否に注目したいと思います。

 楽天証券ではニンテンドースイッチライトは一定の成果を収め、2020年3月期から2022年3月期にかけて任天堂の業績に寄与すると考えています。

 なお、2020年3月期の重要タイトルである「ゼルダの伝説 夢をみる島」(2019年9月20日発売)、「ポケットモンスター ソード・シールド」(2019年11月15日発売)、「あつまれ どうぶつの森」(2020年3月20日発売)の3タイトルは、ニンテンドースイッチライトで遊ぶことを前提に開発された携帯型対応ソフトでもあります。

グラフ3 任天堂のゲームサイクル:携帯型ハードウェア

単位:万台
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

3.2019年11月にグーグルの「Stadia」サービス開始

 2019年11月にグーグルはクラウドゲームサービス「Stadia(ステイディア)」を開始する予定です。ゲームソフトを手元のゲーム機、パソコン、スマートフォンにダウンロードしたり、ゲーム機にゲームカートリッジを装着して遊ぶのではなく、インターネット上のサーバーからゲームソフトを流しっぱなしにして遊びます(ストリーミング)。インターネットに接続できる手元のパソコン、スマートフォン、テレビでゲームソフトが遊べるようになります。

 まず、2019年11月からアメリカ、ヨーロッパの14カ国でサービスが始まります。次いで、2020年から日本を含むその他の地域へサービスエリアが拡大する予定です。

 サービス形態には2通りあり、2019年11月から始まる「Stadia Pro」は、月額9.99ドル(約1,070円)で加入でき、毎月数タイトルが無料で遊べます。それ以外のタイトルは購入することになります(価格は未公表)。画質は4K、音質は5.1サラウンド、フレームレートは60fpsなので、PS4 Pro、XboxOneと同等の性能になります。

 また、2020年から始まる「Stadia Base」は月額無料で、ゲームは購入します。画質は1,080p、サウンドはステレオ、フレームレートは60fpsなので、Stadia Proに比べ劣ります。

 6月7日から「Stadia Founder's Edition」の事前予約が開始されています。Stadia Pro3カ月分に専用コントローラーなどが付いて129ドル(約1万3,800円)です。専用コントローラーだけ購入することも出来ます(69ドル、約7,400円)。

 ソフトは、30タイトル以上の配信が決まっています。日本からは、スクウェア・エニックス・ホールディングス、コーエーテクモホールディングス、バンダイナムコホールディングスなどが参加します。

 クラウドゲームの回線スピードについては、グーグルでは、最高のゲームパフォーマンスを得るためには、通信速度35Mbps、最低でも10Mbpsが必要になるとしています。このスピードなら、4Gや光回線で十分です。

 また、クラウドゲームでは「遅延」の問題が重要になります。従来のクラウドゲームでは、ゲームプレイヤーの動作と画面の動きにズレが生じる遅延が発生するため、特にアクションゲーム、オンラインゲームでは難点がありました。

 これに対してグーグルでは、グーグルは巨大な高速グローバルネットワークを保有しているため(実際にYouTubeの動画を全世界に配信するために、巨大なネットワークを持っている)、ゲームソフトが格納されているサーバーとユーザーとの間で、他のネットワークを経由することなく直接接続できることと、専用コントローラーから最寄りのゲームサーバーを呼び出すことによって、遅延を最小限に出来るとしています。他のクラウドゲームのネットワークでは、ネットワークの規模がグーグルよりも小さいため、ユーザーからゲームサーバーまでに他のネットワークを経由する場合があり、それが遅延の原因になっているとしています。

 このグーグルの主張に対しては、ゲーム会社によって異論もあり、実際にサービスが開始され、数百万人規模でユーザーがStadiaを試さなければはっきりしたことは言えないと思われます。

 ただし、長期的な技術トレンドを考えると、クラウドゲームはゲームの大きな流れになると思われます。Stadiaの今後は、ソニーや任天堂の家庭用ゲーム事業に対して、特に高性能ゲーム機にこだわり、Stadiaの普及期とPS5の普及期がほぼ重なることになるソニーのゲームビジネスに対して、強い影響を与えると思われます。この点については、ソニーとマイクロソフトの間で進行中のクラウドゲームとAI(人工知能)に関する提携交渉の中身が注目されます。

 任天堂に対しては、任天堂の次世代機が発売されるのは当分先(4~5年後?)になると思われるため、Stadiaを研究する時間が十分あり、任天堂としてクラウドゲームに対する姿勢を作る時間の余裕があると思われます。「マリオ」などの強力なコンテンツを持っていることも任天堂の強みです。

 また、バンダイナムコホールディングスやカプコンのようなゲームソフト専業にとっては、ゲームソフトを売るルート(それも大口になるかもしれないルート)が増えることになり、事業機会の拡大に繋がると思われます。

 Stadiaの成否に注目したいと思います。

4.5Gとゲームの関わり

 2020年から各国で本格化する5G(第5世代移動通信)は、スマートフォンだけでなく、様々な分野での応用が期待されています。ゲームへの応用はその中でも重要なものです。高速大容量通信が可能で、遅延がほとんどなく、大人数の同時多接続ができる5Gの特性は、オンラインゲーム、クラウドゲームに適していると考えられます。

5.銘柄コメント:カプコン

 今回はカプコンに注目します。

 私がカバーしている他のゲーム銘柄については、以下の楽天証券投資WEEKLYを参照してください。

任天堂:楽天証券投資WEEKLY2019年8月9日
バンダイナムコホールディングス:楽天証券投資WEEKLY2019年8月16日
ソニー:楽天証券投資WEEKLY2019年8月23日

 カプコンの2020年3月期1Q(2019年4-6月期)は、売上高179億3,800万円(4.3%増)、営業利益77億300万円(同50.9%増)となりました。今1Qの主要タイトルは全てリピート販売で、「モンスターハンター:ワールド」(2018年1月26日発売)68万本、「デビルメイクライ5」(2019年3月8日発売)39万本、「バイオハザードRE:2」(2019年1月25日発売)39万本でした。新作がなかったため、新作発売時の開発費の償却がなく、営業利益率は前1Q29.7%→今1Q42.9%と向上しました。

 今2Qは、9月6日に「モンハン:ワールド」の大型拡張コンテンツ「アイスボーン」が発売されました(ダウンロードカードで4,800円)。今期の新作ソフトは「アイスボーン」だけですが、完全新作とは違い開発費が比較的安いため、高採算が期待されます。「モンハン:ワールド」の2019年6月末累計販売本数は1,310万本ですが、このうち40~50%のユーザーが「アイスボーン」を購入すると会社側は想定しているもようです。また、「モンハン:ワールド」本編と「アイスボーン」のパッケージも発売しています。

 これについては、9月13日付けで会社側は「アイスボーン」を全世界で250万本出荷したと発表しました。順調な出だしです。「モンハン」ユーザーは極めて熱心なゲームファンが多いため、「アイスボーン」の売れ行き好調が予想されます。今期会社予想業績は、売上高850億円(前年比15.0%減)、営業利益200億円(同10.2%増)ですが、楽天証券では売上高865億円(同13.5%減)、営業利益210億円(同15.7%増)と予想します(拡張コンテンツは通常のゲームソフトよりも価格が安いため、今期は減収になる見通しです)。

 2021年3月期、2022年3月期は大型タイトルの発売が予想されます。2017年1月発売の「バイオハザード7レジデントイービル」の次回作が、開発期間を4年とすると2021年3月期(おそらく下期)に発売される可能性があります。また、2018年1月発売の「モンハン:ワールド」の次回作が2022年3月期に発売される可能性があります。

 このため、2021年3月期、2022年3月期とも安定成長が予想されます。

 今後6~12カ月間の目標株価を3,400円とします。2021年3月期楽天証券予想EPS 158.3円に想定PER20~25倍を当てはめました。前回の3,000円から引き上げます。投資妙味を感じます。

表1 カプコンの業績

株価    2,745円(2019/9/12)
発行済み株数    106,751千株
時価総額    293,031百万円(2019/9/12)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表2 カプコン:セグメント別損益

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成

表3 デジタルコンテンツ売上高内訳

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成

本レポートに掲載した銘柄:カプコン(9697)