積立(つみたて)投資は、資産形成の王道

「老後資金2000万円レポート(注)」が話題になってから、老後に備えた資産形成への関心が高まってきているのは、良いことと思います。

【注】金融ワーキング・グループがまとめた6月3日付け「高齢社会における資産形成・管理」と題した報告書。老後資金として、公的年金以外に2000万円必要との試算が出ていて、話題になった。

 と言っても、「資産形成は一日にして成らず」。老後不安につけこむ悪質なセールスに引っかからないよう、注意が必要です。高い手数料を取られ、ハイリスク投資に大金を投じ、大きな損失を被ることのないようにしましょう。

 資産形成の王道は、長期にコツコツと積立投資をしていくことです。低コストの投資信託などで、グローバル分散投資していくのが良いと思います。その際、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)など、利用可能な非課税貯蓄制度は、最大限使うべきです。

荒れる日経平均。動かすのは外国人投資家

 日経平均株価の乱高下が続いています。私は、日本株は割安で、魅力的な投資対象と考えています。日経平均に連動するインデックスファンドに投資することも、中長期の資産形成に貢献すると考えています。

 ただし、短期的には貿易戦争や世界景気悪化の不安から、さらに下がるリスクもあります。日経平均の欠点は、値動きが荒いことです。いつ、投資したら良いか、タイミングの判断が難しい投資対象(アセット)です。

 日経平均とNYダウの値動きを比較した、以下のグラフをご覧ください。

日経平均とNYダウの値動き比較:2012年末~2019年8月末

出所:楽天証券経済研究所が作成。2012年末の値を100として指数化

 アベノミクスがスタートした2013年からの累計で比較すると、日経平均の方が少しだけ大きく上昇しています。ただし、下げ局面(上のグラフで青矢印をつけた所)だけ見ると、日経平均がNYダウより大きく下落していることがわかります。

 日経平均は、上げる時も下げる時も、NYダウより値動きが大きく、それだけに、いつ買ったら良いのか、判断が難しいと思います。

 日経平均の値動きを荒くしているのは、「外国人投資家」です。外国人は、売るときは下値を叩いて売り、買うときは上値を追って買い、日経平均の値動きを大きくしています。

 外国人投資家から見て、日本株は「世界景気敏感株」です。世界景気になんらかの不安が出ると、まず、日経平均から売ります。逆に、世界景気に明るい兆しが出ると、日経平均から買います。そのため、日経平均は、世界のどこかで起こる、あらゆる強弱材料に反応して、激しく乱高下します。

荒れれば荒れるほど、投資成果が高まる「積立(つみたて)」投資

 これからも「荒れ馬」日経平均は、急落・急騰を繰り返すと予想されます。このような資産に、長期投資するには、どうしたら良いでしょうか? 私は、毎月一定額(たとえば、1万円)、積み立てで投資していくのが、良いと思います。

 なぜならば、乱高下が激しい資産ほど、「ドルコスト平均法」といわれる積立投資の威力が発揮されるからです。それを簡単な例でみてみましょう。

 激しく乱高下する投信Aと、値動きのない投信Bに、3年間積み立て投資した場合の投資成果をシミュレーションしました。両方とも、投資開始時点と3年後の基準価額が同じとして、比較しています。

激しく乱高下する投信Aと、値動きのない投信Bの基準価額の推移

投資開始時点、1年後、2年後に10,000円ずつ投資した場合の取得できる投資単位

出所:筆者作成

値動きが激しいほど、ドルコスト平均効果が働く

【1】「荒れ馬」投信Aでは、ドルコスト平均法の効果で、含み益が発生

 まず、投信Aの投資成果を見てみましょう。投資開始時点で、基準価額10,000円の時、10,000円を投じて1単位購入します。次に、1年後、基準価額が8,000円に下がったところで、10,000円を投じると、1.25単位購入できます。次に、2年後、12,000円まで値上った時に、10,000円を投じると、0.83単位購入できます。合計で、3.08単位取得できたことになります。

 3年後に、投信Aの基準価額が、投資開始時点の10,000円に戻った場合、投資した3.08単位の評価額は、30,800円となります。合計30,000円の投資が、30,800円になったわけですから、800円の含み益を得たことになります。

 投資開始時と、3年後で、基準価額は変わらないのに、含み益が発生しているのは、なぜでしょう。それが「ドルコスト平均法」の効果です。

 等金額(ここでは1万円ずつ)投資を行っていると、投資対象が値上がりしたときには、少ない投資単位しか買えず、値下がりしたときに、たくさんの投資単位を買うことになります。高い時に少なめに、安い時に多めに買う効果で、長期的な投資成果を大きくすることができるのです。

【2】値動きのない投信Bでは、含み益は得られない

 投信Bは、最初から最後まで基準価額が10,000円のままで、値動きがありません。したがって、投資した30,000円は、30,000円のままです。ドルコスト平均法の効果は、値動きの乏しいアセットでは発揮されません。

 このことからわかるように、積立投資には、荒れる資産ほど投資成果が大きくなる仕組みが、組み込まれているわけです。荒れる日経平均に投資して、短期的な値動きに翻弄されずに、長期的な投資成果を獲得するには、積立投資が優れていると思います。

ファンドマネージャーにとっても嬉しかった「積立投資」

 私は、25年間、年金・投資信託などの日本株を運用するファンドマネージャーでした。ファンドマネージャー時代に、とても残念に思ったことと、嬉しかったことがあります。

 まず、残念なこと。私が運用していた公募投信(日本株のアクティブ運用ファンド)では、日経平均の高値圏で設定(買い付け)が増えるのに、日経平均の安値圏では、ほとんど設定がありませんでした。株は安い時に買って、高くなった時に売ると利益が得られるわけですが、公募投信では、残念ながら、その逆の動きが見られました。

 次に、とても嬉しかったこと。私が運用していたファンドが、DC(確定拠出年金)の運用対象となったことです。多数の企業に採用していただけました。DCでは、毎月、一定額の設定が入り続けます。加入者の方に、定時定額で積み立てしていただいたことになります。そうすると、日経平均の高値でも、安値でも、淡々と設定が入ってきます。

 日経平均が大暴落して世の中が総悲観になっている時、往々にして、絶好の投資チャンスとなっています。ファンドマネージャーとしては、そんな時こそ、しっかりと投資を増やしてほしいと思います。ところが、公募投信では、そういう時に、設定が入ってきません。

 私が運用していたDCファンドでは、定時定額の積み立て投資が入ってきますので、リーマンショックで日経平均が大暴落し、世の中が総悲観になっている時でも、淡々と積み立てが入ってきました。

 誰でも、株は安い時に買って、高い時に売りたいと思うのでしょうが、言うのは簡単で、やるのはとても難しいことです。そうするためには、世の中総悲観になっている時に、株を買い、みんなが明るくなって強気になっている時に、株を売らなければなりません。

 それは、少しひねくれた人にしかできないことです。普通の素直な人は、みんなが明るくなっている時に、株を買いたくなり、暗くなっている時に、株を売りたくなるでしょう。

 普通の素直な人は、変に、いいタイミングで株を買い、いいタイミングで売ろうとしない方がいいと思います。それでは、どうするべきか? 私は、定時定額(たとえば毎月1万円)の積立投資をしていくべきと思います。

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