金融セクターには割安株が多い
金融セクターには、株価指標で見て、割安な銘柄が多数あります。具体的に言うと、配当利回りが高く、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が低い銘柄が多数あります。
低金利の長期化で、銀行の預貸金利ざや(預金金利と貸付金利の差)が縮小していくという不安やフィンテック(金融新技術)普及で旧来型の金融機関が不要になるという不安が織り込まれていると考えられます。
確かに、地方の中小金融機関には、構造的な収益悪化に苦しむところが増えています。ただし、グローバルにビジネスを展開している大手金融機関には、安定的に高収益をあげる力を持っているところもあります。高収益企業なのに、不安先行で株価が低迷している大手金融株は、投資価値が高いと判断しています。
以下の5銘柄は、割安な高配当利回り株として、長期投資する価値が高いと判断しています。
グローバル展開している大手金融株の株価バリュエーション:7月30日時点
コード | 銘柄名 | 業 態 | 株価 | 配当 | PER | PBR |
---|---|---|---|---|---|---|
8306 | 三菱UFJ FG | メガ銀行 | 529.0 | 4.7% | 7.5 | 0.4 |
8316 | 三井住友FG | メガ銀行 | 3,844.0 | 4.7% | 7.5 | 0.5 |
8411 | みずほFG | メガ銀行 | 157.0 | 4.8% | 8.4 | 0.5 |
8766 | 東京海上HLDG | 損害保険 | 5,797.0 | 3.3% | 12.5 | 1.1 |
8591 | オリックス | リース | 1,571.0 | 5.1% | 5.9 | 0.7 |
単位 株価:円 配当:% PER:倍 PBR:倍 出所:配当利回りは1株当たり年間配当金(会社予想)を7月30日株価で割って算出。配当予想を公表していないオリックスは市場予想を使用。PERは、7月30日株価を1株当たり利益(会社予想)で割って算出。三菱UFJは会社目標。オリックスは市場予想 |
中でも、三菱UFJ FG(以下「三菱UFJ」と表記)の投資価値は高いと判断しています。本レポートでは、三菱UFJに絞って、投資価値についての考え方を解説します。
三菱UFJの収益力は正しく理解されていない
三菱UFJの2019年3月期の決算を改めてレビューします。連結純利益は前期比12%減の8,726億円でした。「銀行の収益悪化が止まらない」と、メディアにはネガティブなコメントが広がりました。
私は、決算内容を見て、安定的に高収益を稼ぐ力を示した良い決算だったと思いましたが、市場はネガティブに反応しました。市場が特にネガティブにとらえた理由は、「三菱UFJ、業務量削減量1万人超に積み増し」というメディア報道の見出しだったと思います。メディアによっては、「メガバンク、1万人リストラ」といったミスリーディングな見出しで報じているところもあります。
正確に言うと、「三菱UFJは、デジタライゼーション(デジタル技術の利用)の推進によって、2023年度までに1万人の業務量を削減できるようにする」ということです。それまで、2023年度までに9,500人分の業務量削減を目指すと表明していましたが、今回、1万人分に上積みしました。
実際に従業員数をどれだけ減らすかについては、同社は「2023年度までに(2017年度比で)6,000名程度の人員減少(自然減)を見込む」としています。「自然減」と言っていますので、定年退職などで6,000名減る見込みということです。「早期退職者の募集」のようなリストラを予定しているとは言っていません。
三菱UFJが、2023年度までに1万人分の業務量を削減できるメドがたったというのは、投資家から見てポジティブなニュースです。従業員数が自然減で6,000人減れば、人件費は大幅に減ります。それでも問題なく業務を回していくメドが立ったというのは、ポジティブです。
1万人の業務量を削減して人員が6,000人しか減らなければ、4,000人分、余剰ができます。収益性を高めるためのさまざまな事業(海外事業やデジタライゼーション関連)に活用していくことが可能です。
PBR0.4倍と株価指標は極端に割安。配当利回りは4.7%
三菱UFJの収益力や財務内容は、株式市場で正しく理解されていないと思っています。それが、同社の「極端に割安な」株価指標に現れています。7月30日時点で、同社株のPER(株価収益率)はたったの7.5倍です。東証一部全体の平均(13.6倍)と比べて、大幅に低い評価です。
三菱UFJは過去8年間、金利が大きく低下する中でも、安定的に8,000億~1兆円の純利益を稼ぎ続けています。低金利でも安定高収益を稼ぐ力を示しているのに、あまりに低い評価と思います。
3メガ銀行の連結純利益:2014年3月期実績~2020年3月期予想
三菱UFJ FG | 三井住友 FG | みずほFG | |
---|---|---|---|
2014年3月期 | 9,848 | 【最高益】8,353 | 【最高益】6,884 |
2015年3月期 | 【最高益】1兆 337 | 7,536 | 6,119 |
2016年3月期 | 9,514 | 6,466 | 6,709 |
2017年3月期 | 9,264 | 7,065 | 6,035 |
2018年3月期 | 9,896 | 7,343 | 5,765 |
2019年3月期 | 8,726 | 7,268 | 965 |
2020年3月期 | 【会社目標】9,000 | 【会社予想】7,000 | 【会社予想】4,700 |
単位:億円 出所:各社決算資料。2020年3月期は会社予想。三菱UFJは会社目標 |
さらに驚くのが、三菱UFJのPBR(株価純資産倍率)が0.4倍の低さにあることです。解散価値と言われるPBR1倍を大きく割り込んでます。これは、日本が金融危機にあった1998~2002年の大手銀行株よりも低い評価です。当時と比べて財務内容が格段に改善し、保有する有価証券ポートフォリオに3月末時点で3兆3,356億円もの含み益があるにもかかわらず、PBRでここまで低く評価されるのは解せません。
一番注目したいのは、配当利回りです。7月30日時点で、4.7%です。同社は、今期(2020年3月期)に増配を予定しています。1株当たり配当金を前期22円から、今期は25円とする予定です。将来、増配も期待できると考えられます。2023年度に、配当性向を40%まで引き上げる計画だからです。私は、高配当利回り株として、長期投資していく価値が高いと判断しています。
株式市場で三菱UFJの評価が低い理由
それでは、なぜ、ここまで三菱UFJ株は低く評価されるのでしょうか。それには、2つ理由があります。
【1】低金利の長期化で、国内商業銀行業務の収益低下が続いていること。
【2】将来、フィンテックが高度に進化すると、旧来型の銀行店舗網が不要になるイメージがあること。
上記の不安は、日本の銀行業界全体にとって、極めて重大です。国内商業銀行業務への依存が大きい地方銀行は、近い将来、軒並み赤字に陥る懸念もあります。特に、預金を集め国債を買うことで利ざやを稼いで来た中小金融機関にとっては深刻です。
ただし、三菱UFJは、こうした厳しい環境下でも、高収益を維持していけると予想しています。実際、長期金利がゼロの今でも、純利益で9,000億円近くを稼いでいます。何が違うのでしょうか。
三菱UFJは、海外収益の拡大と、ユニバーサルバンク経営(証券・信託・リース・投資銀行業務などへの多角化)によって、高収益を保っています。それは、3メガ銀行グループ(三菱UFJおよび、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)すべてに共通です。
三菱UFJは、2019年3月末時点で、海外貸出金の比率が貸出金全体の42.8%を占めるまで拡大しています。低金利の長期化で、国内で預貸金利ざや(貸出金利と預金金利の差)が低下していることが懸念されていますが、海外では高い利ざやがとれています。前期の預貸金利ざやは、国内が0.8%、海外が1.34%です。その結果、前期の事業別営業純益に占める、グローバル事業(GCBとGCIBの合計)の比率は、30%に達しています。
フィンテック普及に対する不安も、三菱UFJについてはやや過剰と思われます。銀行店舗の価値低下に合わせ、同社は店舗数を2023年度までに(2017年度比で)35%削減する計画を持っています。それと同時に、業務のデジタライゼーションを急速に進めます。私は、三菱UFJ自身が、将来フィンテックの有力プレイヤーの1つとなる可能性もあると考えています。
3メガ銀行の投資判断
【1】私は、3メガ銀行とも、長期的な投資価値は高いと判断しています。
【2】3メガ銀行の投資魅力に順位をつけると、1番が三菱UFJ、2番が三井住友FG、3番がみずほFGと判断しています。
【3】3メガ銀行以外の銀行株は、保有すべきでないと考えています。
特に、地方銀行は、今のままでは将来、大半が本業で赤字におちいる懸念があり、投資は避けた方がよいと考えています。
▼もっと読む!著者おすすめのバックナンバー
7月18日:利回り5%超も!最高益更新が見込まれる高配当利回り株
7月11日:利回り5%も! 金融・資源関連・輸出株の三大割安株に再注目。注意点は?
3月14日:みずほが6,800億円の損失発表、銀行株は持っていていいのか?
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。