企業の“稼ぐ力”に注目した前編(はじめての銘柄選び「稼ぐチカラ」に注目!)今回は、“株主にどれだけ利益をもたらしたか”という新しい指標の「TSR(株主総利回り)」に注目してお届けします。さらに、編集者渾身のメッセージが隠されている場所をお伝え! 憧れの“テンバガー”に出合えるかも!?

特集記事がハンパない!“株主孝行”な銘柄選びなら「TSR」

――雑誌『会社四季報』の巻頭特集には、指標がありますね。

 毎号注目の指標に関する銘柄ランキングなど、注力して製作しています。今号は「TSR」を取り上げました。「TSR」とは、一言でいうと「株主がどれだけ利益を得られたか」という指標です。株価変動による値上がり益とその期間の配当総額を、投資額で割ることで算出できます。

TSR=(株価変動による値上がり益+その期間の配当総額)÷投資額

 金融庁は、上場企業の財務の開示情報を充実するように指導していまして、2019年3月31日以降の有価証券報告書に、直近5年間の「TSR」推移を記載するよう求めています(四季報では、5年間の平均年率)。始まったばかりなので、新しい指標ですね。

――「TSR」は、“株主孝行”な指標ですね。ぜひチェックしたいです!

 今期から開示なので、まだ各社ホームページのIRなどでは出揃っていないのですが、弊社のデータを使い、特集で全社分を掲載しています。
 分かりやすい例として、神戸物産(3038)を見てみましょう。「TSR」は60.71%です。これは平均すると、5年間毎年60%以上の「値上がり益+配当」があったことになります。

参考:四季報「特集企画」

出所:楽天証券 四季報データ

こんなところにも“テンバガー”が!「TSR」のスゴイ可能性

――すごすぎて、具体的なイメージが難しいのですが。

 そうですね、初めて見ると分かりにくいかもしれません。仮に5年前に神戸物産株に投資したとすると、株価上昇と配当で毎年平均60%以上の投資リターンが続き、5年間で投資額が10倍になったということです。“テンバガー”(株価が急騰して、10倍になる銘柄のこと)といっていいかもしれません。

「TSR」はあくまで過去の実績を表す指標ですが、神戸物産の場合は、営業益も5年前と比較して年平均51.71%増えています。営業利益が毎年5割ぐらい増えてきたということです。

 これも、5年前と比べて何倍になったかを考えると、8倍です。利益がそれだけ伸びているのであれば、株価も伸びているのは自然だ、と理解しやすいですね。今期予想、来期予想が同じように伸びている会社であれば、ある程度「TSR」を使って銘柄選びをしてもよいのではないかと思います。

――特集企画の【会社業績修正】も気になります!

 さすが、目ざといですね! 
 会社業績修正は、この3年間に、会社が期初計画から何回上方修正をしたか下方修正をしたか、を表しています。これで見ると、神戸物産は3年間で上方修正2回、下方修正を1回したと分かります。その下にある「経常利益÷期初会社予想」は「この3年間、経常利益は期初計画に対して平均でどの辺に着地したか」という水準を表しています。

 神戸物産は1.1倍ですから、期初計画を「割と固めに発表する会社だ」ということがわかる訳です。ここが大きくブレる会社は、期初計画をそのまま鵜呑みにしない心構えが必要かもしれません。

編集長直伝のウラワザ!その3:PERのワナ
今来期も成長が続けば、PER 20倍超えでも投資適格に

 投資の際に、みなさんよく気にされるのが「PER(株価収益率)」です。神戸物産のPERは、23.1倍と日経平均予想PERを大きく上回っています(6月26日11.83倍)。

 ここだけ見ると、神戸物産は投資対象外となってしまいます。ところが、四季報では同社は今来期も2ケタ増益が続くと予想していますので、それを織り込めば、割高感は高くないと判断できます。

 TSRに限らず、ランキングを行うと、中小企業が上位に入ることが多いのです。これから投資するなら、中小企業のような、「今はまだ企業規模があまり大きくない、その分利益率が高くてこれから期待できそうだ」という会社を選んでもよいと思います。“次のテンバガーを探す!”際には、かなり有効な手段になるでしょう。

四季報と言えば、これ!解説記事の【見出し】の謎とは

――「解説記事」に気になる【見出し】が。込められた意味を教えてください!

 この太字、実は、四季報記者が全身全霊で製作する文字です。世界最短のキャッチコピーというか。一目で見て分かる表現を工夫しています。記者と編集部とがやりとりしつつ、じっくり作成しています。

【絶好調】【続伸】を見たら、要チェック

【見出し】は編集部で使い方を統一しています。【絶好調】は選んで付けていますし、【続伸】は2ケタ増益が続いている時のみに使います。他の注目ワードは【急回復】【成長】などでしょうか。【最高益】と【連続最高益】は、純利益が対象です。配当に注目した【連続増配】【記念配】などもあります。

 反対に注意が必要なのが、【大赤字】【無配】など。一目瞭然ですね。【独自増額】は、会社予想比で四季報が独自に増額していて、特に注目すべきモノに付ける見出しです。

解説記事の【見出し】一目瞭然の早わかり表

マイナスイメージ 中立的 プラスイメージ  
減収減益】
【急落】
【大赤字】
【底入れ】 【横ばい】 【絶好調】
【急回復】
【高水準】
利益が対象
【減配か】
【無配】
  【連続増配】
【復配か】
配当が対象
【大幅減額】
【下方修正】
  【独自増額】
【上振れ】
【増額】
前号との比較

>>後編 損をしないために!「危ない会社」を見抜く方法は?
本当に心配な「危ない会社の見分け方」。『会社四季報』編集部ならではの貴重な情報の最終回です!