米国株の最高値更新をリードするテック株

 先週末に開催されたG20以降の米中貿易摩擦緩和と欧米の長期金利低下を受けてリスクオン(選好)ムードが広まり、米国では米ダウ平均、S&P500指数、ナスダック総合指数がそろって史上最高値を更新(3日)。日経平均も2万1千円台で上値を試す展開となりました。

 トランプ政権のナバロ国家通商会議委員長は、「金融当局(FRB)が政策金利を引き下げ、米議会がUSMCA(新・北米自由貿易協定)を承認してトランプ大統領の成長計画を推進すれば、ダウ平均は3万ドルに到達する」と述べました(3日)。

 対中強硬派と知られるナバロ氏は、「米中の間にあるのは正当な貿易摩擦であり貿易戦争ではない」とし、「両国の通商交渉は軌道に戻った」と述べました。米中が交渉決裂を避け、交渉再開、関税第4弾の発動見送り、ファーウェイ社への禁輸措置緩和に転じたことが過度の悲観を後退させました。

 こうした中、IT(情報技術)株の反発に注目したいと思います。図表1は、S&P500情報技術(IT)指数とS&P500指数の推移を示したものです。同IT指数の時価総額は約5.54兆ドルに及び、S&P500指数における比率で21.4%を占める最大業種。IT関連株の回復が米国株の堅調を牽引していることを示しています。ボラティリティや浮き沈みはあるものの、米テック(IT)業界が成長期待の高い分野であることを象徴しています。

<図表1>米国株の堅調をリードするIT(情報技術)株の優勢

*米IT株指数=S&P500 Information Technology Index (IT関連68銘柄の時価総額加重平均指数)
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019/7/3)

米国のテック相場をリードする主力IT銘柄は?

 実際、S&P500情報技術(IT)指数の年初来騰落率は+29.2%となっており、S&P500指数(同+19.5%)やナスダック総合指数(同+23.1%)を上回っています(7月3日)。

 米国市場では、2018年9月にS&P社が銘柄の所属セクター(業種)変更を発表し注目されました。それまで「情報技術(IT)」に所属していたアルファベットとフェイスブックの2銘柄が「通信サービス」に移され、ネットフリックスが「一般消費財」から「通信サービス」に移行しました。

 参考までに、アマゾンは現在も「一般消費財(小売り)」に属しています。こうした変更後、「情報技術(IT)」に属さないアルファベット、フェイスブック、アマゾンが個人情報管理や独占販売の面で批判を浴びてきたのは皮肉です。いずれにせよ、S&P500指数の業種別比率で最大を占めるIT関連株のパフォーマンス好調が米国株式の優勢をリードしてきました。

 図表2は、S&P500情報技術指数の上位10銘柄を時価総額の降順で一覧したものです。シリコンバレーを中心に、新興IT企業のなかで企業価値を膨らませてきた顔ぶれがわかります。米国での技術開発や専門人材の圧倒的集積と、これらを成長・拡大に導くキャピタル(資本)がイノベーションの活性化を加速させてきた結果としての顔ぶれと言えるでしょう。

 上位銘柄には、ビザやマスターといった、Eコマースの拡大から恩恵を受けやすいクレジットカード企業も含まれています。こうした企業群は、景気循環の波を乗り越えつつ、情報技術の成長に沿い収益を拡大させていくことが期待されています。

 図表2では、上位10銘柄のうち9銘柄の年初来株価上昇率が3割~4割となっている点にも注目したいと思います。

<図表2>S&P500情報技術(IT)指数の上位構成銘柄(一覧)

# ティッカー 銘柄名 時価
総額
株価 年初来
騰落率
1 MSFT マイクロソフト 1,053.33 137.46 35.3
2 AAPL アップル 940.51 204.41 29.6
3 V ビザ 353.04 176.87 34.1
4 MA マスターカード 278.93 273.08 44.8
5 CSCO シスコシステムズ  241.78 56.48 30.3
6 INTC インテル 217.22 48.52 3.4
7 ORCL オラクル 196.35 58.86 30.4
8 ADBE アドビ 148.40 305.70 35.1
9 PYPL ペイパル・ホールディングス 138.27 117.68 39.9
10 ACN アクセンチュア 128.52 190.97 35.4
*単位 時価総額:10億ドル 株価:ドル
*上記はS&P500 Information Technology Indexの時価総額上位10銘柄を一覧したもの。
出所:楽天証券経済研究所作成(2019/7/3)

 3万円未満で米テック株に分散投資する方法

 米国株式の堅調をリードするIT(情報技術)関連株に分散投資するにはETF(上場投資信託)を活用するのが便利です。

 図表3は、米国籍ETFの「バンガード米国情報技術セクターETF」(VGT)の取引価格推移を示したものです。VGTに組入れられている上位銘柄は、マイクロソフト(MSFT)、アップル(APPL)、ビザ(V)、マスターカード(MA)、シスコシステムズ(CSCO)、インテル(INTC)、アドビ(ADBE)、オラクル(ORCL)、ペイパル・ホールディングス(PYPL)、セールスフォース・ドットコム(CRM)などで、上述したS&P500情報技術(IT)株価指数とほぼ同様です。

 一口当たり取引価格は216ドル程度ですので、3万円未満で投資できます。ナスダック総合指数の上位銘柄には、事業の中心が「広告事業」と判断されているアルファベットやフェイスブック、「小売り(一般消費財)」に分類されているアマゾンなどが顔を並べますが、これら3銘柄は業種分類上、S&P500情報技術指数に含まれていません。

 VGTのパフォーマンスはベータ値(市場平均と比較した変動率)が比較的高いですが、長期的な視野に立てば米国のイノベーション(技術革新)をリードするIT銘柄を幅広くカバーできます。なお、アルファベットやフェイスブックは、米国籍ETF「バンガード米国通信サービスセクターETF」(VOX)を加えて投資することも可能です。

 一方、IT関連を中心にアルファベット、フェイスブック、アマゾン、バイオ関連株を含むナスダックの時価総額上位100社(金融を除く)に分散投資したいなら、ナスダック100指数に連動を目指す米国籍ETF「インベスコQQQ信託シリーズ1」(QQQ)が適しています。投資ニーズに応じて比較検討したいと思います。

<図表3>米・IT(情報技術)分野に分散投資する米国籍ETF(VGT)

*上記は参考情報であり、特定の個別銘柄の推奨を目的とするものではありません。 *上記は米国籍のETF(ドル建て上場投資信託)。 *VGTのベンチマーク(運用目標)は、MSCI Investable Market Information Technology Index。 *上記ETFの運用時価総額は約207憶ドル、運用経費率(年率)は0.10%。
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019/7/3)



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