経済・投資に関する話題の内容を、証券マンの筆者独自の視点で、掘り下げていくこの連載。今回は「J-REIT」(ジェイ・リート:国内の上場不動産投資信託)の値動きの特徴をお伝えします。

【1】の復習
J-REITの主な特徴:J-REITが成長している理由は?長期投資に向いているワケ

【2】の復習
J-REITの不動産タイプ別の特徴:
オフィス、施設…どこに注目する?

J-REIT市場の取引量

 J-REITの取引がどれくらいかご存知ですか? 日本取引所のデータを見ると、月次データで、2019年4月は約2,252億円、年次データでは、2018年が合計約2.333兆円。月次で約2,000億円と考えると、1営業日あたりの取引は約100億円(1カ月の営業日、約20日計算)となります。

 さらに、立会い外取引等でデータにカウントされていないものもあるため、1日あたりで約150億円の取引と言われています。

J-REIT市場の主な特徴は、以下の点が挙げられます。

1.ブロックトレードやバスケット取引(証券会社とのまとまった数量での相対取引)が多い
 J-REIT市場の取引の主体は、ファンドか海外投資家、および機関投資家(ときどき日銀)が占めています。また、金額ベースでは、個別銘柄の証券取引所での取引よりも証券会社と機関投資家間のブロックトレードやバスケット取引の方が多いと考えられています。

2.海外投資家のシェアが高い
 日本取引所の「投資部門別 J-REIT売買状況」のデータでは、「海外投資家」は「委託取引」のなかに分類されています。2019年4月の月間データでは「委託取引」のうち「海外投資家」は約69%でした。同じように、2018年の年間データでは、「委託取引」のうち「海外投資家」が約62%でした。

3.不動産市況やREIT指数の波が比較的大きい
 
一般的な景気の好不況の波よりも、不動産市況の好不況の波の方が大きく緩やかです(後述グラフ参照)。このため、「一旦、好況から不況に転換すると、買い手が少なくなり、買い手が少ないときに売ろうとすれば、低い値段で売らざるを得ない」ことになります。「みんなが売りたい局面」になれば、落ち着くまで一気に下がる可能性があります。(下記グラフ参照)

「売りたい局面」を判断するために

J-REIT指数(日次終値ベース、2003年3月31日~2019年5月20日)

出所:Bloombergデータより楽天証券作成

「みんなが売りたい局面」か判断するにはどうすればいいでしょうか。分かりやすいのは、「不動産市況」です。J-REITの保有資産は不動産、分配金の出所は「不動産からの賃貸収入」のため、不動産市況が悪化すれば「賃貸収入が減る→分配金が減る→投資口価格(株価)が下がる」と連鎖します。

 上記グラフは2003年3月以降のものですが、この間で不動産市況が明らかに悪化したのは、リーマンショック前後のみだったと思います。

 では、次に「何か不動産市況の目安になるデータはないのか?」となるワケですが、前回の不動産のタイプ別で見たとおり、J-REITは賃料の上下が他の不動産のタイプ(住宅や商業施設など)より比較的大きい「オフィス」が約半分を占めています。そこで、「オフィス」のデータを検索すると「空室率」「賃料」「面積」などが出てきます。これらのなかで、最もJ-REITマーケットとの関連性が高いと言われているのが「空室率」です。

「空室率」は、「稼働率」と足し算すると、100%になります。満室の場合は、稼働率が100%、空室率が0%になります。

東京ビジネス地区(都心5区/千代田・中央・港・新宿・渋谷区)の空室率データ
 (2001年12月~2019年5月)とJ-REIT指数(2003年3月~2019年5月)

出所:各種データより楽天証券作成(月次データ)

 上記のように、空室率とJ-REIT指数には、かなりの相関性があります。2019年5月の空室率は1.64%です。リーマンショック前の最低値(2.49%)よりもさらに低下していますので、いつ反転してもおかしくありません。もうひとつ、賃料データも見てみましょう。

東京ビジネス地区(都心5区/千代田・中央・港・新宿・渋谷区)の空室率データと賃料データ (2001年12月~2019年5月)

出所:各種データより楽天証券作成

 賃料の水準は、リーマンショック前の最高値2万2,901円に対し、2019年5月は2万1,396円です。こちらも警戒が必要になってきました。

 というわけで、堅調に見えるJ-REIT市場ですが、「みんなが売りたい局面」への反転時期を見極める状況になっています。不動産市場は、上記3つのグラフの通り、いったん方向が変わると、しばらく同じ方向が続く傾向にあります。

 現在、J-REITを保有しているならば、少し減らす方向を考えてみてもいいかもしれません。逆に、保有していない場合は、下がりきったところで買う方向で検討してもいいかもしれません。上記J-REIT指数のグラフを参考にすると、リーマンショックのあと、4年間くらいは1,000ポイントあたりをうろうろしていましたので、「下げ止まったな」と感じたら、少しずつ買う方向で検討してみてください。