「裁定買い残」は9,269億円と低水準、投機筋の買いポジションは整理された状態

 私がファンドマネージャー時代に、日経平均先物のトレーディングをする上で重視していた需給指標に、「裁定買い残」があります。詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残の変化に、外国人による投機的な先物売買の変化が表れます。

 外国人が先物を買うと、日経平均株価が上昇し、(裁定取引を通じて)裁定買い残が増加します。外国人が先物を売ると、日経平均が下落、(裁定解消売りを通じて)裁定買い残が減少します。

 近年の日経平均および裁定買い残は、以下のように推移しています。

日経平均と裁定買い残の推移:2007年1月4日~2019年5月21日(裁定買い残は2019年5月10日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 裁定買い残は、2007年以降でみると、3,000~6,000億円まで減少すると、増加に転じていました。リーマン・ショック後の安値(2009年)、ブレグジット・ショック後の安値(2016年)に、裁定残は3,000~6,000億円まで減少してから底を打っています。また、2018年12月21日から2019年の1月4日にも裁定買い残は6,000億円割れまで減少しましたが、その後、増加に転じています。

 日経平均は、裁定買い残が減少している間、つまり外国人が先物を売っている間は下落します。ところが、裁定買い残が増加に転じる、つまり外国人が先物買いに転じると、上昇に転じます。2007~2019年では、裁定買い残が3,000~6,000億円まで減少したところで、日経平均先物を買えば、タイミングよく日経平均が反発に転じ、利益を得られる可能性が高かったと言えます。

 直近(2019年5月10日)の裁定買い残は9,269億円です。年末年始のボトム(6,000億円割れ)よりは増えていますが、歴史的な水準と比べると、まだかなり低い水準です。投機筋の日本株先物買いポジションはほとんど整理され、一部に空売りも入っていると推定されます(あくまでも推定)。裁定買い残だけから判断すると、日経平均は短期的に「売られ過ぎ」と見ています。

裁定残を見ながらトレーディングする際の注意事項

 1つ注意すべきことが、あります。裁定買い残はかなり低い水準まで減少しましたが、裁定残だけで投資判断すべきではありません。裁定残がいくらまで減ったら増加に転じるという明確な法則はないからです。その時々で、裁定残が底を打つ水準は異なります。ここからさらに3,000~4,000億円まで減少することもないとは言えません。

 短期筋の買いポジションがほとんど整理されていることを意識しつつ、ファンダメンタルズ(景気・企業業績)の変化も見ながら、日経平均反転の時期を探っていくことになります。

裁定買い残が3.5~4兆円まで増加すると、減少に転じることが多い

 2007年以降で見ると、裁定買い残が3.5~4兆円まで増加した後、日経平均は反落局面に入っていました。裁定買い残3.5~4兆円は、投機筋の先物買い建てが高水準になっていることを示し、短期的な「買われ過ぎ」を警戒した方が良いレベルです。

日経平均と裁定買い残の推移:2007年1月4日~2019年5月21日(裁定買い残は2019年5月10日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 2013~2015年の部分を拡大したのが、以下の図です。

日経平均と裁定買い残の推移:2013年1月4日~2016年1月8日

出所:東京証券取引所グループのデータに基づき楽天証券経済研究所が作成

 今後、日経平均が上昇し、裁定買い残が3.5兆円に近づく時は、短期的な買われ過ぎを警戒すべきです。ただし、裁定残だけで、売りを仕掛けるのは危険です。裁定残がいくらまで増えたら減少に転じるという法則はないからです。過去には、裁定買い残が6兆円まで増加したこともありました。

 

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