豪雨・地震による落ち込みから回復、安定成長が期待される「インバウンド消費」

 世界景気に不透明感が広がる中、世界景気の影響を受けにくいディフェンシブな安定成長セクターへの関心が高まっています。その1つとして挙げられるのが、インバウンド消費【注】です。電鉄・化粧品など、その恩恵を受けるインバウンド関連株に投資しても良いと考えています。

【注】インバウンド消費
訪日外国人観光客による日本国内での消費支出を「インバウンド消費」と呼びます。インバウンド消費の増加で恩恵を受ける銘柄を、「インバウンド関連株」と呼びます。

訪日外国人観光客数の推移:2011年1月~2019年3月

出所:日本政府観光局(JNTO)より楽天証券経済研究所が作成

 昨年6月から9月まで、豪雨・地震などの天災が集中した影響が出て、訪日外国人数が減少しました。大阪府北部地震、西日本豪雨、大型台風の相次ぐ来襲、関西国際空港閉鎖、北海道地震などが影響しました。

 ただし、10月以降は回復に転じています。日本が観光地として魅力的であること、アジアで海外旅行ができるくらいまで中間層の所得が増加したことから、今年も訪日外国人数は、伸び続けると予想しています。

 実際、2019年に入り天災の影響はなくなりました。2019年1~3月の訪日外国人観光客数は、前年同期比+5.7%増で、同時期として過去最高を更新しています。
ちなみに、2011年3月の東日本大震災の後は、外国人観光客の減少が1年あまり続きました。地震後に発生した福島第二原発の事故による風評被害の影響が長引きました。

国別では、中国、米国、タイからの観光客伸びが大きい

 3月の訪日外国人観光客数を国別に見ると、中国での対日感情の改善を映し、中国人観光客の伸びが+16.2%と大きくなっています。中国人観光客は、1人当たりのインバウンド消費額が特に大きく、全体のインバウンド消費の伸びに貢献しています。

  韓国からの観光客数は、数では第2位ですが、前年比ではマイナスです。日韓関係の悪化が影響している可能性あります。米国や、東南アジアからの伸びも大きくなっています。

訪日外国人観光客数の上位8カ国:2019年3月

出所:日本政府観光局(JNTO)より楽天証券経済研究所が作成

中国のEC規制の影響は一時的

 2019年1月から、中国でEC(電子商取引)規制が導入されました。ECで、品物を売買する業者、個人に登録、納税(売却益が出た場合)を義務付けるものです。これにより、インバウンド消費に含まれていた、中国人観光客の代理購買需要(日本で買った商品を中国に帰ってECで転売する需要)が、1~3月は大きく減りました。このため、1~3月のインバウンド消費(買い物需要)にはブレーキがかかりました。ただし、この影響は一時的であった可能性もあります。4月以降、インバウンド消費は回復しています。

  長期的には、インバウンド消費で買われたものが、越境EC(国を越えたEC)が拡大していくトレンドは続きそうです。

  ただ、インバウンド・ブームの中身は、徐々に、買い物から「コト消費」に移りつつあります。コト消費の拡大で、安定的に成長が期待される電鉄株などに恩恵が大きくなります。モノの消費では、化粧品の伸びが、今後安定的に続くと考えられます。

2015年にインバウンド・バブル、16年にバブル崩壊があった

 一口にインバウンド・ブームと言っても、2015年以前と16年以降では内容が異なります。

2015年のインバウンド・バブル

 中国人観光客の爆買いにけん引されて、インバウンド消費が急激に拡大し「インバウンド・バブル」が生じました。高額商品を売る銀座の百貨店などが、大きな恩恵を受けました。中国人観光客の爆買いには、実質「個人輸入」とみられる買い物が含まれていました。たとえば、1人で高級炊飯ジャーをまとめて10個買うような観光客がいました。それは、中国に持ち帰って転売して利益を得ることが目的であったと考えられます。

2016年のインバウンド・バブル崩壊と、17年以降のブーム復活

 中国政府は、海外で購入した商品を中国に持ち込む際にかかる関税を2016年4月に大幅に引き上げました。その後、中国人による日本での爆買いは鳴りを潜めました。そのため、2016年は「インバウンド・バブル崩壊」の年となりました。ただし、その後も訪日外国人の数は増え続け、17年以降、インバウンド・ブームが復活。そこでは、自分のための買い物が増えました。

 日本製品の安全性への信頼が高いことから、化粧品・食料品・医薬品など自分の体に取り込むものがよく売れるようになりました。また、日本での体験にも、お金をかけるようになりました。「コト消費」といわれるものです。その恩恵を受ける銘柄の業績が好調です。

インバウンド関連株には、いろいろな種類がある:今は電鉄と化粧品に注目

 インバウンド消費拡大で恩恵を受ける企業は、電鉄・化粧品・食料品・テーマパーク・旅行代理店・ドラッグストア・家電量販店・百貨店などの業態に幅広く存在します。世界景気減速リスクが高まった今、投資するのは、世界景気変動の影響が相対的に小さいJR各社・化粧品が良いと判断しています。 JR・化粧品各社には、魅力的な株主優待を実施している企業が多いことも、評価できます。

参考:インバウンド消費拡大で恩恵を受ける銘柄

コード 銘柄名 業態
9020 JR東日本 電鉄
9021 JR西日本 電鉄
9022 JR東海 電鉄
9142 JR九州 電鉄
4911 資生堂 化粧品
4922 コーセー 化粧品
3048 ビックカメラ 家電量販
3086 J.フロントリテイリング 百貨店
4530 久光製薬 医薬品
4661 オリエンタルランド テーマパーク
7532 ドンキホーテHD 雑貨小売
9201 日本航空 空運
9202 ANA HD 空運
出所:楽天証券経済研究所が作成

「コト消費」拡大で恩恵を受けるJR4社

 JR4社は、前前期(2018年3月期)に、そろって経常最高益を更新。新幹線や不動産、観光関連事業の伸びが貢献しました。ところが、前期(2019年3月期)は、JR九州が▲0.8%の経常減益となりました。地震や豪雨の影響が出ました。JR九州は今期(2020年3月期)も減益が続く見通しですが、九州新幹線や観光事業・不動産事業を伸ばしていくことで、いずれ最高益を更新していく力があると判断しています。他の3社も、短期的に減益することがあっても、長期的には最高益の更新が続くと考えています。

 新幹線収入の拡大によって、JR東海、東日本、西日本は、安定的に最高益を更新してきました。新幹線は、かつてビジネス客中心の乗り物でしたが、今や「国民の足」として、利用が拡大してきました。そこに、外国人観光客の利用拡大がさらに追い風となっています。グリーン席の利用率増加も、収益拡大に寄与しています。

 JR九州が導入で先行した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星」の旅は、予約倍率が10倍前後で、好調です。動くホテルのような快適さが受けています。JR九州の成功を見て、JR西日本・JR東日本も豪華寝台列車の旅を導入しましたが、いずれも好評です。

「モノ消費」では化粧品の成長が続くと期待

 日本の化粧品が、アジアで好調です。グローバル・ブランドとして成長を始めました。化粧品は、インバウンド需要拡大の恩恵をフルに受けています。日本で買った後、帰国してからも、越境ECで、リピート需要も入ります。資生堂、コーセーなどが、その恩恵を受けています。

 

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