最高益更新が多い、小売業は成長産業

 小売業には、2月決算が多数あります。ちょうど2月期の決算発表が出そろったところなので、今日はその内容を報告します。小売業は、成長産業です。時価総額上位企業は、軒並み、最高益を更新してきました。ただし、前期(2019年2月期)は、天候不順や人件費上昇の影響を受け、減益になる会社が増えました。その結果、2月決算小売業の時価総額上位13社で見ると、経常最高益を更新したのは、6社に留まります。

2月決算小売業、時価総額上位13社の経常利益:前期実績と今期予想 【金額単位:億円】
コード 銘柄名 2019年
2月期
:実績

前期比
:%

最高益 2020年
2月期
:会社予想
前期比
​:%
最高益
3382 セブン&アイHD 4,065 4.0 4,145 2.0
8267 イオン 2,151 0.6 2,200 2.3
9843 ニトリHD 1,030 8.6 1,060 2.9
8028 ユニー・ファミリーマートHD 42 -85.2 × 600 1,320
7453 良品計画 458 -0.3 × 487 6.2
2670 エービーシー・マート 451 1.4 457 1.3
2651 ローソン 577 -11.4 × 545 -5.5 ×
3141 ウエルシアHD 315 1.9 356 13.0
3086 J.フロント リテイリング 421 -12.7 × 455 8.0 ×
8273 イズミ 350 -8.1 × 370 5.4 ×
8227 しまむら 262 -40.2 × 357 36.1 ×
7649 スギHD 272 5.2 290 6.5
8233 高島屋 312 -19.1 × 290 -7.2 ×
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。IFRS採用のユニー、ファミリーマート、Jフロントは、連結税前利益を経常利益として集計

 意外だったのは、今期(2020年2月期)の業績(会社予想)です。今期は、消費増税があるので、慎重な見通しを示す会社が増えると思っていました。ところが、出そろった業績予想を見ると、時価総額上位13社で8社が経常最高益を予想しています。

 小売業大手の株価バリュエーション(PERなど)は、以下の通りです。特に割安とは言えませんが、最高益を更新していく企業については、ほぼ妥当と考えています。

2月決算小売業、時価総額上位13社の株価バリュエーション:4月17日時点 
コード 銘柄名 株価
:円
PER
:倍
配当
利回り
:%
最小投資額
:円
3382 セブン&アイHD 3,796.0 16 2.5 379,600
8267 イオン 2,014.0 68 1.8 201,400
9843 ニトリHD 13,435.0 21 0.8 1,343,500
8028 ユニー・ファミリーマートHD 2,958.0 30 1.4 295,800
7453 良品計画 22,280.0 18 1.6 2,228,000
2670 エービーシー・マート 6,770.0 18 2.5 677,000
2651 ローソン 5,290.0 29 2.8 529,000
3141 ウエルシアHD 3,835.0 20 1.2 383,500
3086 J.フロント リテイリング 1,343.0 13 2.7 134,300
8273 イズミ 4,660.0 15 1.7 466,000
8227 しまむら 8,930.0 14 2.2 893,000
7649 スギHD 4,945.0 17 1.6 494,500
8233 高島屋 1,302.0 11 1.8 130,200
出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

前期は、天災や天候不順・人件費上昇がマイナス

 前期(2019年2月期)は、天災や天候不順が業績にマイナスでした。2018年6~9月は、大阪北部地震・西日本豪雨のほか、数々の大型台風が来襲し、業績の足を引っ張りました。関西空港が水害で閉鎖になった影響もあり、インバウンド消費(訪日外国人観光客の買い物)にも悪影響が及びました。さらに、追い討ちをかけたのが暖冬です。10~11月が暖かった影響で、国内で衣料品販売が不振でした。

 ただし、天災や天候不順がこれだけ集中したのは、前期の特殊要因と言えます。今期も天災はあるかもしれませんが、前期ほどのマイナス影響はないと考えられます。

 より深刻なのは、構造的な悪化要因です。国内小売業全般に、人手不足による人件費上昇が足を引っ張っています。小売各社は、セルフレジの導入やオペレーション簡素化のためのシステム投資を増やしています。その投資コストも業績を圧迫しています。

 今期は、人手不足に加え、消費増税が新たな逆風となります。それをこなして、最高益を続けていけるのか、今後の進捗を見ていく必要があります。

 

なぜ、小売業は成長産業なのか?

 小売業は、かつて内需産業でした。今は、アジアを中心とした海外で成長する外需産業となってきています。最高益を更新しつつある小売大手には、以下のような特色があります。

【1】製造小売業として成長

 利益率の低いナショナルブランド品の販売を減らし、自社で開発したプライベート・ブランド品を増やすことで競争力を高め、売上・利益を拡大させてきました。自社ブランド品について、商品開発から生産・在庫管理までやることが多く「製造小売業」とも言われます。最高益を更新中の専門店(ニトリHD、セブン&アイHD)はこの取り組みが進んでいます。百貨店・家電量販店はこの取り組みが遅れています。

【2】海外で成長

 内需株であった小売業が、近年はアジアや欧米で売上を拡大し始めています。日本で強いビジネスモデルが、そのまま海外で通用するケースもあります。セブン&アイHD、イオン、良品計画などは海外での売上拡大が軌道に乗ってきました。8月決算でカジュアル衣料品「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983)は、アジアで高い競争力を有し、中国での売上拡大が加速しています。

【3】ネット販売で成長

 ネット販売が本格成長期を迎えています。3月決算の小売業で、MonotaRO(3064)ZOZO(3092)などがネット小売成長企業の代表です。
大手スーパーや百貨店でも最近ネット販売を強化する努力を始めていますが、今のところコストに見合う利益を確保できていません。

 一方、しまむら(8227)のように、ネット販売への対応が遅れ、ネットに売り上げをとられて苦戦する企業も出てきています。

【4】インバウンド(訪日外国人観光客の買い物)需要を取り込んで成長

 訪日外国人観光客の数が、年々、伸びています。大丸・松坂屋が経営統合したJフロント・リテイリングや高島屋が、その恩恵を受けてきました。ところが、前期の後半は、インバウンド消費にブレーキがかかりました。天災による観光客の減少に加え、1月に始まった中国のEC規制強化が足を引っ張りました。

今年10月に予定されている消費増税の影響に注意

 成長企業の多い小売セクターですが、今年は、悪材料が待ち受けています。10月の消費税引き上げ(8%→10%)です。過去は、消費税引き上げ後(1989・1997・2014年)に景気が落ち込んでいるので、今年の消費増税にも警戒が強まっています。ただ、今回は消費増税後に政府がポイント還元などの景気対策を打つことを計画しているので、過去に見られたほどの落ち込みはないと考えています。

 小売セクターは、増税後に明暗が分かれます。持ち帰りや宅配の食品は、軽減税率(消費税を8%据え置き)が適用される見込みなので競争上、優位となります。持ち帰りの食品が多いコンビニエンスストアや、食品スーパーは、相対的に有利です。外食は、テイクアウトの食品を除き、10%へ増税されますので、コンビニとの競争上、不利になります。

 ただし、中小小売店舗の場合、キャッシュレス決済を行えば、政府から5%のポイント還元を受けられる「増税対策」が検討されています。ところが、その恩恵を受けられるのは、個人商店などの中小小売店舗だけです。上場企業には、その恩恵はありません。上場企業は対抗上、自前のポイント還元を行わなければならない可能性もあります。そうなると、コスト負担が生じます。

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