日経平均は、為替に神経質に反応して動いています。円高なら株安、円安なら株高の反応が定着しています。今日は、ドル円為替レートを動かす要因について、解説します。

 

パウエルFRB議長のハト派転換で、ドル安(円高)進む

 3月20日に米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の結果が発表されてから、為替市場では、ドル安(円高)が進みました。パウエル議長が率いるFRB(連邦準備制度理事会)が、市場予想を上回るハト派(金融引き締めに消極的・緩和に積極的)トーンを出したことが影響しました。

 年内に追加利上げがないことを示唆した上、市場に利下げ期待を生じるほどの、ハト派の声明を出しました。これでドル長期(10年)金利が低下し、長短金利の逆転まで起こりました。

ドル長期(10年)金利と短期(3カ月)金利推移:2018年1月2日~2019年3月26日

注:楽天証券経済研究所が作成

 

 長短金利が逆転するということは、先行き、短期金利も低下に向かう、つまり、FRBが利下げすることを、市場が織り込み始めたといえます。これで、ドル安(円高)が進みました。

2018年1月以降の、ドル円の動きを振り返り

ドル円為替レート推移:2018年1月1日~2019年3月26日

注:楽天証券経済研究所が作成

 それではここで、2018年1月以降のドル円為替レートの動きを振り返ります。昨年1~3月には、今と同じように、円高(ドル安)が進んでいました。1~3月に円高が進んだ理由は、世界的な株安です。

 

2018年1~3月:世界的な株安を受けて、「リスクオフの円高」が進む

2018年4~10月:FRBが2018年に4回(3、6、9、12月)利上げ実施、日米金利差拡大を受けて、円安が進む

2018年12月~19年1月3日:世界的な株安を受けて、「リスクオフの円高」が進む

2019年1~2月:世界的に株が反発した流れを受けて、「リスクオンの円安」が進む

2019年3月:米長期金利の低下を受けて、日米金利差が縮小し、円高に

ドル円を動かす3大要素、一番重要なのは「日米金利差」

 為替を動かす要因は無数にありますが、今ホットな話題で重要度の高いものに絞れば、3つあります。
 

【1】日米金利差

ドル金利が上昇し、日米金利差が拡大すると、円安(ドル高)になります。
ドル金利が低下し、日米金利差が縮小すると、円高(ドル安)になります。

【2】世界的な株高・株安

世界経済に不安が広がり、世界的な株安が起こると、安全資産として「円」が買われます。これを、「リスクオフの円高」と呼びます。不安が緩和し、世界的な株高が起こると、金利の低い「円」は売られます。「リスクオンの円安」と言われます。

【3】政治圧力

米国政府筋から、円安を非難する発言が増えると、円高(ドル安)が進みます。
米国政府が、円安を容認している間は、円安(ドル高)が進みやすくなります。

 

 一番重要なのが【1】日米金利差です。米FRBは昨年12月まで、利上げに積極的なタカ派でした。一方、日銀は、大規模金融緩和を長期的に継続する方針でした。日米の中央銀行の政策スタンスの違いから、日米金利差が開き、円安(ドル高)が進む期待が続いていました。

 ところが、世界景気の減速が鮮明となり、FRBがハト派に豹変し、ドル長期金利が低下したことから、日米金利差が縮小し、円高(ドル安)の不安が出てきているところです。

日米金利差(2年金利)で動く、ドル円為替レート

最近10年間のドル円の動きは、日米2年金利の差で、ほぼ説明できます。

日米の2年金利(残存2年の国債利回り)と日米金利差(2年金利の差):2008年1月~2019年3月(26日)

注:楽天証券経済研究所が作成

 次に、ドル円の動きと日米金利差を比較します。

ドル円為替レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2019年3月(26日)

注:楽天証券経済研究所が作成

 過去10年を見ると、おおむね日米2年金利差と、ドル円は連動していることがわかります。ただ、厳密にいうと、以下のように細かい相違があります。

【1】2008~2011年

日米金利差の縮小にしたがって、円高(ドル安)が進みました。

【2】2012~2014年

日米金利差が少ししか拡大していないのに、大幅な円安が進みました。2年金利の差では説明できない程、円安の進行が大きかったということです。

【3】2015~2016年

日米金利差が拡大する中で、円高が進みました。行き過ぎた円安に修正が起こったと見ることができます。

【4】2017~2018年

日米金利差が拡大しましたが、ドル円は大きくは動かないレンジ相場となりました。その結果、行き過ぎた円安は修正されました。

【5】2019年

 日米金利差がどこまで縮小するか不透明で、ドル円に大きなトレンドが出にくい状態です。

 

為替は今後、円高・円安どちらへ進むか

 世界景気悪化・ドル金利低下がさらに進めば、さらに円高が進むと考えられます。一方、世界景気がこれ以上は悪化せず、2020年に向けて回復期待が出るならば、円高は進みにくくなります。

 どうなるか、予断を許しません。ただし、私が考えるメインシナリオでは、2020年に世界景気の回復を見ています。一時的にさらなる円高が進む可能性はありますが、2020年の景気回復が視野に入る頃には、円安に転じると予想しています。
 

 

 

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