最高益更新企業が多い、小売業は成長産業

 小売業は、成長産業です。時価総額上位銘柄は、軒並み最高益を更新しつつあります。2月決算の時価総額上位13社で見ると、前期(2018年2月期)は、10社が経常最高益(ユニーファミマのみ純利益で最高益)を更新しました。今期(2019年2月期)の会社予想で見ると、経常最高益(ユニーファミマは純利益)を更新する見込みの企業が、9社あります。

2月決算小売業、時価総額上位13社の経常利益(ユニーファミマのみ純利益):前期実績と今期予想

【金額単位:億円】
コード 銘柄名 2018年
2月期
:実績
前期比
:%
最高益 2019年
2月期
:会社
予想
前期比
:%
最高益
3382 セブン&アイHD 3,907 7.2 4,085 4.5
8267 イオン 2,138 14.1 2,400 12.3
9843 ニトリHD 949 8.3 1,000 5.4
8028 ユニー・ファミリーマートHD 純利益
336
83.4 純利益
440
30.7
7453 良品計画 460 19.2 503 9.4
2651 ローソン 651 -10.8 × 570 -12.5 ×
3141 ウエルシアHD 309 20.2 341 10.3
2670 エービーシー・マート 445 3.8 446 0.2
8273 イズミ 382 7.1 350 -8.4 ×
3086 J.フロント リテイリング 483 13.3 496 2.8
8227 しまむら 439 -12.3 × 404 -8.0 ×
7649 スギHD 259 8.5 265 2.3
8233 高島屋 386 3.7 × 350 -9.3 ×
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。
IFRS採用のJフロントは、連結税前利益を経常利益として集計

今期は、天災や天候不順の影響がマイナス寄与

 2月決算小売業の第3四半期(9-11月期)の決算が出揃いました。10-11月が暖冬だった影響で、国内で衣料品販売が不振でした。その前の6-9月は、大阪北部地震、西日本豪雨のほか、数々の大型台風に見舞われるなど、天候要因が消費にマイナス影響を及ぼしました。

 つまり、6月から11月までの天候要因は、小売業にとって逆風だったと言えます。その影響もあり、第3四半期まで(3-11月)の経常利益累計を見ると、通期(2019年2月期)計画に対する進捗率がやや低い会社もあります。
 

2月決算小売業、時価総額上位13社の経常利益(ユニーファミマのみ純利益)第3四半期までの実績、通期予想に対する進捗率

【金額単位:億円】
コード 銘柄名 2018年
11月期
:第3
四半期
まで累計
前期比
:%
進捗率
:%
2019年
2月期
:会社
予想
前期比
:%
最高益
3382 セブン&アイHD 3,000 1.4 73 4,085 4.5
8267 イオン 1,103 4.9 46 2,400 12.3
9843 ニトリHD 797 11.4 80 1,000 5.4
8028 ユニー・ファミリーマートHD 純利益
564
116.5 128 純利益
440
130.7
7453 良品計画 357 3.7 71 503 9.4
2651 ローソン 466 -13.3 82 570 -12.5 ×
3141 ウエルシアHD 216 1.9 63 341 10.3
2670 エービーシー・マート 343 2.2 77 446 0.2
8273 イズミ 236 -7.8 67 350 -8.4 ×
3086 J.フロント リテイリング 349 -7.5 70 496 2.8
8227 しまむら 213 -40.9 53 404 -8.0 ×
7649 スギHD 189 1.2 71 265 2.3
8233 高島屋 229 -6.1 65 350 -9.3 ×
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。
進捗率は、通期会社予想に対する、第3四半期までの進捗率を示す

 上の表で、注目していただきたいのは、進捗率です。第3四半期までの9カ月の実績が、通期(2019年2月期)会社予想の何%か示しています。第4四半期は売上高が大きい12月を含むので一概には言えませんが、一般的には、75%くらいが普通と考えます。

 進捗率が75%を大きく超過しているところは、赤色で表示しています。この時点での進捗率が高いと、通期業績(会社予想)が上方修正される可能性が高いと言えます。

 75%を大きく下回っている進捗率は、青色で示しています。

【1】しまむらは未達懸念、ネット販売との競争で低調

 進捗率53%のしまむらは、通期業績(会社予想)が下方修正される可能性が高いと考えています。10-11月は、暖冬で衣料品販売が冴えませんでした。ただ、しまむらの販売不振は天候だけが原因ではありません。

 同社はカジュアル衣料品を、全国で有店舗販売して成長してきましたが、最近はネット販売に押されて、売上が伸び悩んでいます。衣料品はネットで販売しやすい商材で、近年、ネット販売が急増していますが、ネット販売への対応が遅れたため、しまむらの業績低迷は当面続きそうです。

 

【2】イオンは第3四半期までの進捗率が低いが、好調な決算

 第3四半期まで(2018年3月-11月)の経常利益は、前年同期比4.3%増の1,103億円で、同期間で最高益を更新しました。6-9月は悪天候、10-11月は暖冬と天候要因に足を引っ張られ、利益計画には少し遅れが出ています。それでも構造改革・成長戦略ともに、着実な進捗が見られる良い決算だったと評価できます。

 第4四半期(2018年12月-2019年2月)は季節的に高水準の利益が出るので、通期(2019年2月期)の経常利益は、会社予想(2,400億円)に50億~100億円足りなくなる可能性があるものの、最高益を更新すると予想しています。

 今回の決算で高く評価できるのは、海外(アジア)での利益成長が軌道に乗ってきたことです。イオンは、小売・金融・不動産を含めて、2018年3-11月期に、海外で営業利益の22%を稼ぐまでになっています。小売業はほぼ損益トントンですが、金融・不動産で稼ぐ構図は、国内と同じです。今後、海外収益の構成比がさらに高まっていくことが、予想されます。

 イオンは、株主優待で個人投資家に人気の銘柄ですが、今後は、長期的な成長にも期待できるようになってきたと考えています。

 

イオンの所在地セグメント別営業利益:2018年3~11月期

【金額単位:億円】
セグメント名 営業利益 前期比
日 本 854 ▲46
アセアン 231 +76
中国 ▲1 +28
5 +3
合計 1,090 +62
出所:イオン決算資料

なぜ、小売業は成長産業なのか?

 小売業は、かつては内需産業でした。今は、アジアを中心とした海外で収益を拡大する企業が増えています。最高益を更新しつつある小売大手には、以下のような特色を持った企業が多いことがわかります。

【1】製造小売業として成長

 利益率の低いナショナルブランド品の販売を減らし、自社で開発したプライベート・ブランド品を増やすことで競争力を高め、売上・利益を拡大させてきました。自社ブランド品について、商品開発から生産・在庫管理までやることが多く「製造小売業」とも言われます。最高益を更新中の専門店(ニトリHD、セブン&アイHD)はこの取り組みが進んでいます。百貨店・家電量販店はこの取り組みが遅れています。

【2】海外で成長

 内需株であった小売業が、近年はアジアや欧米で売上を拡大し始めています。日本で強いビジネスモデルが、そのまま海外で通用するケースもあります。セブン&アイHD、良品計画などは海外での売上拡大が軌道に乗ってきました。

【3】ネット販売で成長

 ネット販売が本格成長期を迎えています。3月決算の小売業で、MonotaRO(3064)、ZOZO(3092)などがネット小売成長企業の代表です。大手スーパーや百貨店でも最近ネット販売を強化する努力を始めていますが、今のところコストに見合う利益を確保できていません。

 8月決算でカジュアル衣料品「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983)は、これまで国内および海外の有店舗販売を中心に成長してきましたが、ネット販売を次の成長の柱にする方針を表明しています。

【4】インバウンド(訪日外国人観光客の買い物)需要を取り込んで成長

 訪日外国人観光客の数が、年々、伸びています。大丸・松坂屋が経営統合したJフロント・リテイリング(3086)は、その恩恵もあり、今期、経常最高益を更新することが見込まれます。昨年6-10月は、豪雨・天災の影響で外国人観光客が減少しましたが、11月以降、再び、増加に転じています。

来年10月に予定されている消費増税(8%→10%)の影響に注意

 成長企業の多い小売セクターですが、来年、悪材料が控えています。2019年10月に消費税引き上げ(8%→10%)が予定されていることです。消費税引き上げ前に、駆け込み需要で消費が増加し、引き上げ後に反動で落ち込む可能性があります。

 過去に消費税引き上げ後に、景気が落ち込んだことが多かったので、来年の消費増税にも、警戒が強まっています。消費増税後に、政府は景気対策を打つことを検討していますが、効果がどの程度あるか未知数です。

 小売セクターは、増税後に明暗が分かれます。持ち帰りや宅配の食品は、軽減税率(消費税を8%据え置き)が適用される見込みなので競争上、優位となります。持ち帰りの食品が多いコンビニエンスストアや、食品スーパーは、相対的に有利です。

 外食は、テイクアウトの食品を除き、10%へ増税されますので、コンビニとの競争上、不利になります。

 ただし、中小小売店舗の場合、キャッシュレス決済を行えば、政府から5%のポイント還元を受けられる「増税対策」が検討されています。ところが、その恩恵を受けられるのは、個人商店などの中小小売店舗だけです。上場企業にはその恩恵はない見込みです。上場企業は対抗上、自前のポイント還元を行わなければならない可能性もあります。そうなると、コスト負担が生じます。

 

 

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