今年も4分の1が過ぎ、いよいよ新年度が始まりました。欧米では第2四半期のスタートとなります。このように4月は心機一転のスタート月ですが、トランプ大統領にとっても心機一転の4月となりそうです。トランプ大統領は通商問題を大きくクローズアップしそうな雰囲気となってきました。行方によってはマーケットに暗雲が漂うテーマになるかもしれません。トランプ大統領が就任してから2か月半弱が過ぎようとしていますが、トランプ大統領の公約もほとんど壁に突き当たる結果となりました。昨年11月の大統領選挙勝利後のトランプラリーも、トランプ政権の政策執行能力への疑念から勢いがなくなってきました。トランプ大統領もこの疑念払拭のために通商問題、すなわち公正な貿易取引の実現のためにはかなり強い姿勢で臨んでくる可能性があります。
まずはトランプ大統領の公約の結果と現状をみてみます。
- TPP離脱、NAFTA再交渉 → 大統領令などで表明
- イスラム圏からの一時入国制限 → 大統領令で執行したが、裁判所が差し止め
- 温暖化対策見直し、エネルギー規制緩和、金融規制緩和 → 大統領令で表明
- メキシコ国境との壁建設 → 大統領令で表明。米下院議長は今年度予算の計上は見送りと表明。来年度予算に計上する方針(2018会計年度17年10月~18年9月)
- オバマケアの見直し → 議会で採決できず撤回。約40人いる下院共和党内の保守強硬派「フリーダム・コーカス」の造反
- 減税とインフラ投資 → オバマケアの見直しによって支出を圧縮し、財源を減税に充てる予定が頓挫。与党共和党は2年後の中間選挙を見据えて協力姿勢だが規模は縮小する可能性も
このように政策実現のために予算が必要な政策は議会との協力が必要不可欠ですが、与党共和党内には財政緊縮派が多く、議会の壁はかなり高そうです。
そこで、内政の失策挽回のために選挙期間中から唱えてきた「公正な貿易取引」実現のために動き出したようです。不公正な貿易取引に対しては大統領権限で制裁措置を科すことが可能なため、議会の顔色を窺う必要がありません。また支持基盤である中西部の労働者らに訴えやすい政策です。支持率が低下している現状では、かなり強い姿勢で出て来る可能性があります。
貿易赤字削減を目指す大統領令
3月31日、トランプ大統領は貿易赤字削減を目指す大統領令に署名しました。その内容は、
- 米国の貿易赤字の要因分析
- 商務長官と米通商代表部(USTR)代表は、90日以内に貿易相手国の不公正な関税や政府補助金、非関税障壁などを調べ、米国の貿易にどう影響するかを分析し、大統領に報告
- 大統領令には具体的な相手国の明示はされなかったが、ロス商務長官は30日、中国やドイツ、メキシコ、日本などを名指しして調査する考えを表明
- 大統領令では具体的な制裁措置などには踏み込んでいないが、トランプ大統領は署名時に、「必要な法的措置を取って、相手国の不公正貿易を終わらせる」と強調
4月6-7日の米中首脳会談、4月中旬の日米経済対話を控えていることもあり、かなり強気な姿勢が伝わってきます。中国は2016年の米国のモノの貿易赤字7,343億ドルのうち、3,470億ドルと半分近くを占め、日本は689億ドルで2位となっています。2015年の3位から順位が上がっているのはあまりいい印象を与えないかもしれません。
〈参考〉 米国のモノの貿易赤字国別シエア(1990年vs2015年、2016年)
1990年 1017億ドル | 2015年 7456億ドル | 2016年 7343億ドル | |||
---|---|---|---|---|---|
日本 | 40.40% | 中国 | 49.20% | 中国 | 47.30% |
中国 | 10.30% | ドイツ | 10.00% | 日本 | 9.40% |
ドイツ | 9.20% | 日本 | 9.20% | ドイツ | 8.80% |
メキシコ | 1.80% | メキシコ | 8.10% | メキシコ | 8.60% |
USTR年次報告書
トランプ大統領が貿易赤字削減を目指した大統領令に署名した同じ3月31日、米通商代表部(USTR)は、各国の貿易障壁に関する年次報告書を公表しました。:この報告書は毎年3月末にUSTRが大統領や議会に提出しています。トランプ政権では初めての報告書ですが、日本の自動車や農産物などの市場に外国製品の輸入を制限する「重大な障壁が存在する」と批判しています。
USTRという名称はあまり聞きなれないかもしれませんが、為替の世界では有名な名称です。
USTR(United States Trade Representative 米国通商代表部)は、アメリカの通商交渉・貿易摩擦等の貿易に関する問題について大統領を補佐する機関です。貿易交渉について大統領に助言し、時には大統領の命令を受けて交渉に当たります。USTR代表は長官に相当し、閣僚級ポストで大統領に直属しています。1980年代後半から1990年代前半の日米自動車貿易摩擦が勃発していた時代には、ヤイタ―、ヒルズ、カンターは為替の世界では有名で、彼らの発言で相場がよく動いていました。「円は安過ぎる」とUSTR代表が発言すれば、急速に円高が進んだものです。
上表のように1990年の米貿易赤字に占める日本のシェア(40.4%)と2016年のシェア(9.4%)は明らかな違いがありますが、大統領令とUSTR年次報告書の組み合わせで考えると、4月中旬予定の日米経済対話の前にも、日本に対して強い要求が発せられる可能性も予想されます。また、4月には米財務省が連邦議会に提出する為替報告書が公表され、厳しく扱われる可能性があります。他国が為替介入などで通貨安誘導を行った場合は「為替操作国」として議会に報告し、制裁を発動する仕組みとなっています。
今年初めにはトランプ大統領は為替にも言及していました。鳴りを潜めていましたが、支持率が低下している中、失地回復のために再び蒸し返してくるかもしれません。しばらくは警戒モードで見ておいた方がよさそうです。
〈参考〉
※過去のトランプ大統領の貿易と為替を巡る発言
- 「米国の通商交渉は大失敗だ。中国との貿易で年間数千億ドルもの損失を出し、日本やメキシコなどとの間に貿易不均衡がある」(1月11日)
- 「他国は資金供給(money supply)と通貨切り下げで有利な立場にある。中国や日本は何年も市場で通貨安誘導を繰り広げ、米国がばかをみている」(1月31日)
- 「通貨切り下げに関しては、ずっと不満を言ってきた。極めて短期間で公平な条件を取り戻す。」(貿易取引の)「公平を取り戻す唯一の道」(2月10日日米首脳会談後の記者会見)
(「日米首脳会談と為替政策」参照)
※公正な貿易取引を実現するためのスケジュール
(「円安誘導批判」参照)
- 3月31日 貿易赤字削減を目指す大統領令に署名
- 3月31日 USTR年次報告書
- 4月6-7日 米中首脳会談
- 4月中旬 日米経済対話
- 4月 米財務省「為替報告書」を米連邦議会に提出
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