[特別対談]サウジ人記者殺害事件がリスク化!今後の世界経済と中東の真実・中編

高橋和夫氏(国際政治学者・放送大学名誉教授)×

吉田哲(楽天証券経済研究所コモディティアナリスト)

 

中編・「中東」の宗教と文化・ISとIT

 国内情勢だけでなく、世界各地のリアルな動向に目を向けることが、投資には重要です。

 例えば中東の動き。サウジアラビアなど産油国の動きによって原油価格が変動し、株価に大きな影響を与える場合があります。しかし、日本人にとって中東のイメージは「イスラム教」「OPEC」「紛争地」…とやや固定的です。

 しかし、そんなイメージを一変させるような報道が2018年10月、飛び込んできました。

 サウジ人記者のジャマル・カショギ氏が、トルコのサウジ総領事館内で殺害されたとする事件です。そして、この事件はいまや世界を大きく揺さぶっています。

 そこで、楽天証券経済研究所コモディティアナリストの吉田哲と、放送大学名誉教授で中東研究のエキスパートである国際政治学者の高橋和夫氏が、サウジをはじめとした中東の真の姿について対談。

 中編の今回は、宗教と文化にスポットを当てます

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スンニ派とシーア派の違いは?

吉田哲(以下、吉田) 中東を語る上で宗教の問題は避けて通れません。イスラム教にはスンニ派とシーア派があり、一般的にこの対立が紛争を引き起こしてきたと言われていますが、スンニ派とシーア派の違いについて教えていただけますか?

高橋和夫氏(以下、高橋) イスラム教は6世紀後半、アラビア半島の商人の子として生まれた預言者ムハンマドが開いたのですが、その彼が亡くなった後、後継者を巡る争いが起きました。この争いがきっかけとなり、スンニ派とシーア派に分かれたと言われています。

吉田 ムハンマドが亡くなってすぐに分裂したとは。それから長い長い対立が続いているわけですね。今はスンニ派のほうが圧倒的に多いんですよね。

高橋 イスラム教徒は全世界で16億人を数えますが、そのうちのおよそ9割はスンニ派です

吉田 シーア派は主にイランに分布していると聞きますが。

高橋 シーア派はイランに集中しています。ただ、お隣りのイラクもけっこう多く、バーレーンやレバノンにもかなりいます。周辺諸国まで含めると、アゼルバイジャンもシーア派が多数を占めます。

吉田 これだけ長く対立を続けているのですから、そもそも教義が全く違うんでしょうね。

高橋 いや、そうでもないんです。同じイスラム教ですし、ほとんどは共通しています。
ただ、いくつか明確な違いがあります。例えばイスラム教には偶像崇拝を禁じるという特色があります。そのため、スンニ派のサウジではマネキンに首がありません。シーア派のイランでは、それほど厳格ではないですね

 また、死者に対する弔いの仕方なども違います。サウジでは石ころを一つ置いただけの簡素な墓を設けるくらいで、墓参りもしません。ところがシーア派のイランの人々はきちんとした墓を建て、墓参りもします。

吉田 イスラム教というと戒律が厳しく、敬虔(けいけん)な信者が多いという印象があります。スンニ派とシーア派ではどちらが厳格と言えるのですか。

高橋 どちらの宗派にも厳格な人もそうでない人もいると思います。ただ、サウジアラビアのスンニ派であるワッハーブ派と呼ばれる人々は一般には厳格と考えられています。

吉田 近年のイスラム教過激派の活動と関連があるのですか。

高橋 イスラム教徒は自らが信じる教義に純粋で厳格であるがゆえに、他の宗教や宗派は絶対に認めない、他宗派の信者には何をしても構わないと言った過激な考え方に向かう人も確かにいますが、それはほんの一握りの人たちです。ワッハーブ派にしても大多数は穏健で、過激思想とは縁遠い暮らしを送っています。そこは見誤らないでほしいですね。

 

科学技術や文化をリードする人材を輩出

吉田 今、米国には中東系の起業家なども増えていますよね。

高橋 そうですね、とりわけイラン出身者が目立ちます。オンラインオークションサイト「イーベイ」の創業者のピエール・オミジャール氏はイラン系米国人ですし。
それに、スティーブ・ジョブズ氏はイラン系ではありませんが、父親はシリア人です。父親がシリアから米国に留学していたときに米国人女性と結婚し、彼が誕生しました。出生後すぐに米国人のジョブズ夫妻の養子となったので、ジョブズ姓になりましたが。

「意外にイランは数学大国なのですね」と吉田

吉田 中東の人たちはIT(情報技術)の才能に恵まれているのでしょうか。

高橋 イランに関していえば、国際数学オリンピックで毎年、好成績を残しています。確か2018年も金メダルをいくつか取ったはずです。イランは国中から数学の才能を持った子供を集めて、専門機関で数学者を育成するという取り組みを行っています

吉田 数学というとインドを思い浮かべますが、イランも負けていないんですね。

高橋 ただ問題もあります。こういった専門機関で、国際数学オリンピックでメダルを狙えるまでに人材教育しても、国内に留めておくことができないんです。優秀な学生は活躍の場と破格の報酬を求めて、米国などに飛び立ってしまいます。ハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)に進む学生も多い。だから、米国のIT企業にはイラン系が多いし、起業する人も少なくないのです。

吉田 そういえばイランは映画なども有名ですよね。

高橋 そうですね、世界的に有名な映画監督が何人もいますし、カンヌやベネチアなどの世界的な映画祭でも多くの賞を取っています。特にここ数年は目ざましい成果を残しています。

吉田 多くの人材を輩出している中東。その意味で世界に貢献しているのですね。次回は注目の最近のサウジ情勢について、お伺いします。

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高橋和夫(たかはし・かずお)

日本における中東研究の第一人者で国際政治学者。大阪外国語大学ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士。クウェート大学客員研究員、放送大学教授を経て、現在は放送大学名誉教授、先端技術安全保障研究所(GIEST)会長 。著書は『中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌 』(NIHK出版)ほか多数。

高橋和夫氏が登壇するシンポジウム「北朝鮮と中東」
日時:2018年12月14日午後3:00~5:00、会場:FinGATE KAYABA(東京都中央区)。詳しくはこちらをご覧ください

 

吉田哲(よしだ・さとる)

楽天証券経済研究所コモディティアナリスト
1977年生まれ。大学卒業後、2000年からコモディティ業界に入る。2007年からコモディティアナリストとして商品の個別銘柄や分析や情報配信を担当し、2014年より現職。ビギナーにも上級者にも役立つ解説がモットー。
主な連載に「週刊コモディティマーケット」「商品先物取引入門講座」がある。

 

 

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