今回は「金(ゴールド)の供給国・地域」に注目

 今回は、貴金属の一つで今後の価格動向に注目が集まる「金(ゴールド)」の供給国・地域に注目します。

 金価格の変動要因は、筆者が過去に書いたレポート「トロフィーの値段は2,000万円!? 13年で3倍、その変化から金相場を探ろう」や、動画「[動画で解説]金(ゴールド)相場の歴史」で申し上げたとおり、「多層化」してきています。

 有事、景気、新興国、ドルといった、金相場にとって大きな変動要因となり得る複数の材料が「同時に」影響を及ぼしている、ということです。

 1970年代後半から1980年代初頭にかけて、イラン革命、イラン米大使館人質事件、ソ連のアフガン侵攻、など、いわゆる有事が発生し、金価格が上昇しました。これは「有事=金価格上昇」という典型的な例です。

 また、2009年初旬から本格的に始まった、前年に起きたリーマンショックから景気を立て直すために行われた米国の金融緩和によるドル安によって、金価格が上昇しました。これは「ドル安=金価格上昇」という典型的な例です。

表:有事やドル安が目立った時の金価格の変動について 単位:ドル/トロイオンス

CME(シカゴ・ マーカンタイル取引所)の金先物価格(ドル建て価格)を参照

出所:CMEのデータをもとに筆者作成

   この二つの典型的な例の共通点は三つあります。

1)変動要因が非常にシンプル

2)上昇幅が比較的大きかった

3)上昇幅や上昇率が通常の値動きに比べて非常に大きかった

 楽天証券の「NY金(ゴールド), 東京金ロングチャート」でも、金価格(ドル建て・円建てともに)の長期的な動きを確認することができます。

 一方、2018年の金相場は、上記の値動きと比較しても、ドル建ても円建てもそれほど大きな値動きになっていません。2018年8月28日時点で、年初比ドル建ては94.9ドル安(7.3%安)、円建ては393円安(8.4%安)です。

 足元、金相場においては下の通り、上昇要因と下落要因が同時に存在しています。

▼上昇要因

・米中貿易戦争が激化していること

・北朝鮮問題の脅威がなかなか静まらないこと

▼下落要因

・米国株の上昇が継続していること

・金利引き上げムードの中でドルの強含んでいること

・新興国の経済情勢への懸念が生じていること

 上昇要因と下落要因の両方が同時に影響を及ぼす現在の相場は、以前のような単純な方程式ではその動向を説明できなくなっていると筆者は考えています。

 このような「材料の多層化時代」を迎えている金相場において、今後は「金の供給」という点に注目が集まると筆者は考えています。前回のプラチナ「コモディティ☆クイズ【17】「プラチナの供給国・地域(地図付」に挑戦してみよう!)」で書いた点でもありますが、技術革新が進めば、スクラップからの供給が増加する可能性があるためです。

 宝飾品や電子機器などからのスクラップが、技術革新によってより効率的にできるようになれば、金の供給は増加する可能性があります。プラチナ同様、金は貴金属であり、原油や穀物のように消費されると水や二酸化炭素などに変わるものではありません。

 鉱山生産の動向も気になります。本レポートで述べますが、10年前に鉱山生産で1位だった南アフリカは今では大きく順位を落としており、その代りに中国が大きく生産量を拡大させてきています。

 金においても、鉱山生産とスクラップからの「供給」に着目してくことは、今後の金相場の動向を考える上で、非常に重要であると筆者は考えています。

鉱山生産とスクラップからの供給

 金の供給は、2017年時点で「鉱山生産」と「スクラップ」の二つのカテゴリに分かれています。その割合は以下のとおりです。

図:世界の金供給の内訳(2017年)

出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成

 2017年時点で、世界の金供給のおよそ4分の3は鉱山生産です。

 鉱山会社は、鉱山から金を産出することを主な事業としています。将来生産する金の価格の値下がりリスクに対して保険をかけています。将来生産する量と同量を市場から借り、それに見合うだけの数量を先物市場で売り建てます。先物市場で売り建てた時点で将来の売却価格は固定されます。

 生産が進み、自らが生産した金の量が増えれば借りた金は不要になりますので、徐々に借りた金を市場に放出します。このような、鉱山会社による保険目的で借りていた金の放出を「鉱山会社のヘッジ外し」といいます。

 鉱山会社のヘッジ外しも、金の供給のカテゴリの一つですが、2017年時点では鉱山会社全体で、ヘッジ目的で金を借りる量の方が放出よりも多かったため、このカテゴリからの供給はありませんでした(むしろ鉱山会社のヘッジの積上げとして消費側に回りました)。

図:世界の金供給の内訳ごとの推移と金(ドル建て)価格

出所:トムソン・ロイターGFMS*のデータより筆者作成
*Gold Fields Mineral Services Ltd=ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズ社。国際貴金属マーケットに関する調査分析を専門とするコンサルタント会社

 近年、鉱山生産は微増し、スクラップからの供給は減少しています。スクラップからの供給量は、スクラップする際のコストに関わる金相場に影響するとみられます。金相場が高い時にスクラップからの供給量が増加する(逆もしかり)ということです。

 それでは、鉱山生産とスクラップによる供給について、国・地域別のランキングをクイズ形式で確認していきましょう!

金供給関連国・地域☆コモディティクイズ全2問

 金の市場環境を知る上で、供給における二つのカテゴリごとの国・地域を把握しておくことが重要です。国旗や地図上の位置、マスの大きさ(国名の文字数)をヒントに、各問の上位3カ国・地域を考えてみましょう。

問1:金の供給国・地域「鉱山生産」 (2017年)
上位3位はどこの国・地域でしょう?

出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成
★答えと解説は3ページ目にあります

問2:金の供給国・地域「スクラップからの供給」(2017年)
上位3位はどこの国・地域でしょう?

出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成
★答えと解説は3ページ目にあります

金の関連国☆コモディティクイズ解答と解説

答え1:金の供給国・地域「鉱山生産」 (2017年)の正解は…

出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成

[解説]

 1位:中国(13.1%)、2位:オーストラリア(9.1%)、3位:ロシア(8.3%)でした。
 上位10か国で64.3%を占めています。同じ鉱山生産のカテゴリにおいて上位5か国で97.8%だったプラチナに比べれば、金は生産国の数が多いことがわかります。

 また、以下は2008年と2017年の各国の鉱山生産量の変化です。

図:「金鉱山生産量」の増減(2008 年と2017年を比較) 単位:トン

出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成

  2008年から2017年にかけて、金の鉱山生産量は大きく増加しました。中国やロシア、カナダ、オーストラリア、メキシコを中心に、さまざまな国で生産量が増加した結果といえます。一方、南アフリカやペルーは減少となりました。

 2008年時点で南アフリカは、鉱山生産のランキングで中国に次いで2位でした。同国の鉱山は地中数千メートルをさらに掘り下げる形で行われていると言われています。このため、鉱山における労働環境の悪化や、それに伴う労使問題が度々浮上し、生産量が減少する傾向にあるとみられます。

 南アフリカと対照的なのは中国です。中国はインドと並ぶ世界最大級の金消費国であるため、その消費を賄うべく、自国での鉱山生産が伸びています。

答え2:金の供給国・地域「スクラップからの供給」 (2017年)の正解は…

出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成

[解説]

 1位:中国(18.4%)、2位:インド(7.3%)、3位:日本(5.8%)でした。上位10か国で61.4%を占めています。

 金における「スクラップ」は、「都市鉱山」と言われる電子部品をスクラップして得られる金、そして宝飾品のリサイクルから得られる金などの合計です。

 中国と日本は上位にランクインしました。その中国と日本はプラチナにおける「自動車鉱山」および「宝飾品からのリサイクル」の供給でも上位にランクインしています。

 これらの国では比較的、使用された貴金属を回収して再び利用する文化が根付いていると言えます。

 国・地域別の供給量の変化は以下のとおりです。

図:「金のスクラップからの供給量」の増減(2008 年と2017年を比較) 単位:トン

出所:トムソン・ロイターGFMSのデータより筆者作成

 先述のとおり、スクラップからの供給は、その時の金価格に左右される傾向があります。2017年は2008年よりも金価格が安かったため、スクラップからの供給が全体的に減少したとみられます。

 それでも中国におけるスクラップからの供給が増加したのは、宝飾品を買い換えるために手放す動きがったためだと筆者は考えています。

 今後、金価格が上昇すれば、スクラップをして金を取り出すメリットが強まり、このカテゴリからの供給が増加する可能性があります。

 いかがでしたでしょうか。

 金については、このおよそ10年で主要な鉱山生産国に変動があったこと、金価格の動向にかぎらずスクラップからの生産が増加している国があることなどがわかりました。
 金の市場環境を知る上で、供給面に着目することは重要だと筆者は考えています。

▼もっと読む!著者おすすめのバックナンバー

2018年7月17日:トロフィーの値段は2,000万円!? 13年で3倍、その変化から金相場を探ろう

2018年6月18日:動画「[動画で解説]金(ゴールド)相場の歴史

2017年12月15日:EV化で気になる、プラチナ・パラジウムの“自動車鉱山”からの供給圧力