トランプ大統領がしかける貿易戦争が、世界景気に冷や水?

「世界まるごと好景気!」と言っていいくらいの好景気が続いてきましたが、足元、やや減速の兆しもあります。トランプ米政権がしかける貿易戦争が、世界的に株が売られる要因となり、さらに、世界景気に悪影響を及ぼす可能性も出ています。

 トランプ米大統領が過激な保護主義策を打ち出しても、これまで、そのまま実行するとは思われませんでした。「極端なことを言うのは交渉のテクニックで、最後は現実的な落としどころを見つけて収束させる」と、楽観論がありました。

 ところが最近、これまでの楽観論が吹き飛ぶくらい、派手な強硬策をトランプ大統領が次々に出してきたことで、予断を許さぬ状況になりました。貿易戦争が発端の「トランプ・リセッション(トランプ不況)」が起こってしまうのでないかと不安も出ています。

 こうした不透明感に対して敏感に反応するのは、設備投資です。中国・米国では今、設備投資が盛り上がっていますが、不透明感を懸念して投資を先送りする企業が増えるかもしれません。

 

泥沼化しつつある米中の応酬

 トランプ大統領は、とりわけ中国に対する強硬姿勢を鮮明にしています。中国の通信大手ZTEの存続にかかわる制裁策は、既に解除を表明していますが、知的所有権侵害に対する制裁関税の規模は、どんどん拡大させる方針です。さらに、中国などを念頭に、対米投資の制限も検討しています。本当に実行したら、中国だけでなく、米国の景気にも大きなマイナス影響が及びます。

 これに対し、中国も「自暴自棄」と見える、対米報復関税を表明しています。米国からの輸入品の関税を大幅に引き上げる方針です。やれば、米国から輸入する農産物の関税が引きあがり、中国国内の食品価格が上昇、中国人民の生活を直撃します。

 米国が日本に貿易戦争をしかけると日本はすぐ「恐れ入る」ので、そこから「落としどころ」を探す交渉に入りやすくなります。ところが、米国が中国に貿易戦争をしかけると、中国も拳を振り上げるので、交渉の余地がなくなります。米国と中国が、自分も相手も傷つける保護主義策を、「本当にやるわけない」と言い切れない緊迫した状況が、続いています。

 

貿易戦争で、対米包囲網ができつつある

 米中に集中すると思われた貿易戦争が、米-EU(欧州連合)、米-カナダなどに広がりつつあることも不安材料となっています。

 EUは22日、米国が鉄鋼・アルミニウムにそれぞれ25%・10%の追加関税を課したことへの報復として、オートバイ(ハーレー・ダビットソン)やウイスキー(バーボン)など28億ユーロ(約3,600億円)の米国輸入製品に25%の追加関税を課しました。トランプ政権の支持基盤となる共和党有力議員の選挙区を直撃する報復で、強硬策には強硬策で対抗する姿勢が鮮明です。

 米国の鉄鋼・アルミ関税への報復は、さらに広がっています。トルコは、米国の鉄鋼・アルミ関税への報復として21日、米国から輸入する石炭、自動車、ウイスキーなどに3億ドル(330億円)規模の報復関税を発動したと表明しました。インドも対米報復関税を検討しています。

 トランプ大統領は、米国を中心に、閉鎖的な貿易政策を取る「中国」包囲網を作る戦略を進めていると思われていたが、気づくと、世界的に「米国」包囲網ができつつあると、言わざるを得ません。

 

日米の株式は今のところ「意外と冷静」、過度に悲観する必要はないと考えている

 中国株は、貿易戦争の懸念で下げ続けています。上海総合株価指数は、年初来で▲16%と、大きく下がりました。

 ところが、日米株式は、今のところ堅調です。日米とも今のところ、景気・企業業績は好調で、すぐに悲観的になる材料は出ていません。NYダウ・日経平均は、年初来でともに▲2%と小幅の下落に留まっています。米ナスダック株価指数は、年初来で+9%と上昇しています。

 貿易戦争は、本当に世界的な景気後退を生じるまでエスカレートするのでしょうか? 2019年に世界景気が減速する可能性が高まってきたものの、私は、深刻な景気後退にはならないと見ています。

 日本株は、短期的に乱高下を繰り返すと思いますが、長期的には上昇トレンドをたどると考えています。日本株は「割安」と判断しているからです。30年前と比較し、財務内容が大幅に改善、収益基盤が堅固になったことが評価できます。

 日経平均が大きく下がる局面があれば、積極的に買い増ししていくべきと考えています。

 

 

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