優待だけでなく、配当利回りも見て、総合的に有利な銘柄を選ぶ

 日本には「株主優待」という世界でも珍しい制度があります。上場企業が株主に感謝して贈り物をする制度です。株主への利益還元は原則、配当金の支払いによって行うものですが、それとは別に、優待を実施している企業があります。個人投資家にとって魅力的な制度なので、積極的に活用したら良いと思います。

 ただ一部の「優待好き」投資家に、優待品の魅力ばかり見て、配当利回りを見ていないことがあるのには、首をかしげます。というのは、人気の優待銘柄には配当利回りの低い銘柄が多いからです。

 配当利回りを見ず、ひたすら優待品だけ見て投資するのは、必ずしも合理的な投資行動とは言えません。確かに、優待品をたくさん送ってもらえるのはうれしいものですが、それよりもたくさん配当金をもらって、それで自由に好きなものを買った方がいいとも言えます。

 理想的には、「株主優待と配当利回りが両方とも魅力的な銘柄」を選んで投資したら良いのですが、そのような銘柄は意外とありそうでありません。配当利回りの高い会社には、「株主への利益還元は、配当金でやるべき」という考えを持っていて、株主優待を行わない企業が多いからです。

 ただし、一生懸命に探すと、優待も配当利回りも魅力的という銘柄も見つけられます。ただ、アナリストとしてはそれだけで選ぶこともできません。中長期の収益力や財務内容が良好なものを選ばなければなりません。以下の5銘柄は、その条件を満たしていると考えます。特に、JT(日本たばこ産業)と、KDDIは投資価値が高いと判断しています。

株主優待と配当利回りがともに魅力的な銘柄

コード 銘柄名 決算期 配当利回り 優待内容
2914 JT 12月 4.8% ご飯・水など詰め合わせ
8591 オリックス 3月 3.9% カタログギフトなど
9433 KDDI 3月 3.3% カタログギフト
7267 ホンダ 3月 3.2% 遊園地利用券など
9201 JAL 3月 2.7% 国内線50%割引券な

出所:配当利回りは6月20日時点。計算根拠は下記の表を参照。楽天証券経済研究所が作成

 株主優待の内容は変更になることもあるので、常に最新の情報を確認してください。現時点での優待内容は以下からご覧になれます。

JT(2914)株主優待

オリックス(8591)株主優待

KDDI(9433)株主優待

ホンダ(7267)株主優待

JAL(9201)株主優待

 

配当利回りの計算根拠

出所:配当利回りは1株当たりの年間配当金を、6月20日の株価で割って計算。1株当たりの配当金は会社予想。オリックスの来年3月末基準の配当金のみ、楽天証券予想。ホンダは、四半期ごとに年4回、配当金を支払う

 上記の5銘柄で、JTだけが12月決算です。6月末と12月末に配当金を受け取る権利が確定します。6月末の権利を取るためには、6月26日(火)までに投資する必要があります。6月27日(水)に買ったのでは、6月末の権利は取れませんのでご注意ください。

 他の銘柄は3月決算です。ホンダ以外は、9月末と来年3月末に配当金を受け取る権利が確定します。ホンダは四半期ごと年4回、配当金と株主優待を出しています。
 以下、JTとKDDIについて、コメントします。

JTの投資魅力

 JTは、営業利益率(2018年12月期・会社予想ベース)25.3%の高収益企業です。喫煙人口が減少していく中で衰退していくイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、実態は安定高収益です。自己資本比率53.8%と財務内容も良好です。

 JTは株主への利益配分に積極的な企業で、予想配当利回りは4.8%(6月20日時点)です。

 4.8%の配当利回りはとても魅力的ですが、それだけではありません。6月末の株主に、自社製品を贈る優待も実施しています。JTの自社製品というと、たばこかと思うかもしれませんが、そうではありません。ご飯の詰め合わせ、水の詰め合わせなどを選ぶことができます。ただし、優待内容は予告なく変更されることがありますので、適宜会社のホームページでチェックするのがいいでしょう。

 JTは株式市場では不人気です。国内の喫煙者減少が不安材料となっています。飲食店での受動喫煙を減らすために喫煙制限を強める法案が、衆議院を通過したことも逆風です。東京都は、さらに制限を強める「受動喫煙防止条例」の設定を検討しています。

 ただし、実際には国内のたばこ事業は、喫煙者が減っても継続的に値上げすることで、収益を維持してきました。少数事業者が独占的に供給している製品では、通常、一方的値上げは、独占禁止法の観点から認められません。タバコ製品は事実上、その例外となっていると考えられます。

 JTは次世代たばこで出遅れ、国内で米フィリップモリスの「アイコス」に水をあけられていることも不安視されています。JTは、次世代たばこ「プルームテック」を拡販し、これから巻き返しをはかるところです。

 JTの魅力は、財務内容良好で利益率が高いこと。それに加えて、買収巧者であることです。喫煙者が増加している新興国でたばこ会社を次々と買収し、利益を成長させてきました。

 

KDDIの投資魅力

 KDDIも高収益企業です。営業利益率(2019年3月期・会社予想ベース)は19.8%と高水準です。財務も良好で、自己資本比率は56.7%。安定成長企業と言えます。会社計画では、今期(2019年3月期)純利益は6期連続で最高益を更新する見込みです。

 株主への利益還元に積極的で、今期は16期連続の増配を計画しています。KDDIは、3月決算企業です。中間決算期末(9月末)と本決算期末(来年3月末)に、配当金を得る権利が確定します。

 KDDI株を保有すると、配当金とは別に年1回(3月末)、優待品を受け取る権利が確定します。同社が注力する物販サービス「au WALLT MARKET」の「全国47都道府県のグルメ品」から自由に選べるカタログギフトがもらえます。

 KDDIは、長期保有すると優待内容が増加する制度としています。100株を保有する場合、保有期間5年未満の株主には3,000円相当、5年以上保有すると5,000円相当のカタログギフトと内容がグレードアップします。

 KDDI株は、携帯電話事業の競争激化懸念で株価の上値が重くなっていますが、業績は好調です。世界景気に影響されずに安定成長を続けています。携帯電話収入は、減少し始めていますが、通信と融合したライフデザイン事業の利益拡大によって成長を続けています。これからも安定高収益を維持していくと予想しています。

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