日経平均は、2万4,000円「売りの壁」で打ち返される。円高を嫌気

 先週の日経平均株価は、23日に2万4,000円を超えましたが、その後、円高を嫌気して急落。1週間で176円下がり、2万3,631円となりました。これで、1月に入り、2万4,000円前後の「売りの壁」で4回打ち返されたことになります。2万4,000円の壁が、少しずつ厚くなってきた印象です。

日経平均日足:2017年9月1日~2018年1月26日

出所:楽天証券マーケットスピードより作成

 日経平均は昨年11~12月、2万3,000円「売りの壁」で何回も打ち返されました。1月に入り、2万3,000円を抜けると、一気に2万4,000円に迫りましたが、今度は、2万4,000円が「売りの壁」となっています。

 

止まらない円高(ドル安)が、不安を高めている

 先週は、1ドル108円台まで円高が進んだことが、日経平均が売られる要因となりました。

ドル円為替レート推移:2017年9月1日~2018年1月26日

出所:楽天証券マーケットスピードより作成

 1月に入り、円高が進み始めました。当初は、一時的な要因に基づく、一時的な円高と考えられていました。ところが、いつまでも円高が止まらないことから、新たに円高トレンドが出つつある可能性も意識されるようになってきました。

 

二転三転する「円高」が進んだ理由

 円高が進む間、以下の通り、いろいろな一時的要因が、円高の理由として挙げられました。

1月9日:日銀の長期国債買い入れ減額

 日本銀行が、9日の金融調節で買い入れる長期国債の額を減らしたことから、日銀が金融緩和出口に向かうとの思惑が出て、円高進行。黒田日銀総裁は、「金融緩和の出口を考える時機でない」と否定。

1月10日:中国政府の米国債購入減額の思惑

 中国政府が米国債の購入の減額や停止を検討していると、一部報道が出たことをきっかけに円高進行。中国政府は報道を否定。

1月19日:米政府予算が失効。1月20日:米政府機関が閉鎖

 連邦予算の失効で、政府機関が閉鎖。長期化すると米景気に大きなマイナス要因になるとの不安から、円高進行。ただし、政府機関の閉鎖は、1月22日までで終了。2月8日までの暫定予算が認められたため。

1月24日:ムニューシン発言

 ムニューシン米財務長官が、スイスのダボスで開かれている国際会議で、「弱いドルは貿易面で米国の利益になる」と発言。円高が進行。この発言を、「通貨安競争を生むもの」とドラギECB(欧州中央銀行)総裁が、厳しく批判。これに対し、トランプ大統領は、テレビインタビューで「強いドルが見たい」と、発言。ムニューシン発言の火消しに。

1月26日:黒田ショック

 黒田日銀総裁が、ダボス会議で「日本は2%のインフレ目標にようやく近い状況にある」と発言。日銀が金融緩和の出口に向かうとの思惑が再燃し、円高が進行。

 

ムニューシン財務長官は「忖度」したのか?

 円高を招いた2つの要人発言(ムニューシン発言と黒田発言)は、その真意を探るのが困難です。それでも、意図を推測することはできます。

 まず、ムニューシン発言ですが、トランプ大統領の意向を「忖度(そんたく)」したと、考えられます。なぜならば、「ドル安は国益」は、ムニューシン長官の持論と異なるからです。

 トランプ政権発足後、ムニューシン長官は、「強いドルは米経済にとって利益」と、たびたび繰り返してきました。ドル高を批判するトランプ大統領と、明らかに見解が不一致でした。ところが、今回は、発言がまったく逆になっています。ムニュ-シン長官が「ドル安は利益」と発言し、トランプ大統領が火消しに回りました。

 トランプ大統領は、1月に入ってから、保護貿易強化の活動を強化しつつあります。NAFTA(北米自由貿易協定)見直しや、メキシコ国境の壁建設、輸入セーフガードの導入などを、矢継ぎ早に打ち出しています。声には出さないものの、「ドル安」の方が米国の製造業に都合が良いと思っていることは、ほぼ間違いありません。

 こうした情勢から、ムニューシン長官は大統領の意向を察知し、「ドル安は国益」発言をあえてしたのだと思います。ただし、これが、ECBドラギ総裁の強烈な批判を招き、トランプ大統領が火消しする破目になったのは、皮肉です。

 金融市場は、トランプ大統領が、心からドル高を望んでいるとは、見ていません。本音では、ドル安を望み、ドル高を招くFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げにも反対しているのかもしれません。そういう裏の意図が見え隠れしたこと自体が、円高を招く要因になったと考えられます。

 

黒田総裁の真意は?

 黒田総裁は、1月に入ってから、日本のインフレ率が上がり始めることに手応えを感じているという発言を、繰り返しています。

 金融市場では、中央銀行総裁の経済見通しを、純粋な経済分析とはみなしません。「景気(インフレ)が上向き」と発言すれば、「金融緩和の出口戦略を進める準備」とみなします。「景気(インフレ)が下向き」と発言すれば、「金融緩和の拡大を進める準備」とみなします。

 黒田発言は、普通に解釈すれば、日銀が金融緩和の出口を議論し始める前触れと捉えられます。ところが、黒田総裁は、「インフレに手応え」と言いつつ、「出口は考えない」と強調しています。それが、黒田流「市場との対話」なのでしょうか。

「金融政策を変更する意図はまったくない」と強調しながら、それでいて、「出口の議論を完全に封印するのは難しい環境になってきた」ことを認めざるを得なくなっていると考えられます。為替市場は、こうした黒田発言の微妙な変化を読み取って円高に動いたと考えられます。

 

NYダウは相変わらず強い

 トランプ大統領の意向を汲めば、FRBは利上げをどんどん続けることが難しくなると考えられます。そうなると、ドル安が進みやすくなります。それは、米国株にとっては、都合の良いことです。先週も、NYダウは最高値を更新しています。

NYダウ日足:2017年9月5日~2018年1月26日

出所:楽天証券マーケットスピードより作成

 

仮想通貨の消失事件は、心理的な悪材料に

 先週26日、仮想通貨取引所「コインチェック」で、不正アクセスにより、580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」が不正流出したことが判明しました。過剰流動性相場の中で、高騰してきた仮想通貨が値崩れするきっかけとなる可能性があります。

 日本株への直接の影響はありません。ただし、過剰流動性による資産インフレに警戒感が出ることは、日本株にとっても、心理的な悪材料となります。

 

今週、為替・株はどう動くか?

 今週の日経平均は、為替にらみの展開と考えられます。円高が一服すれば、好業績を評価する買いが戻り、日経平均は2万4,000円に接近すると考えられます。ただし、円高が止まらないと、2万3,000台の前半へ、下落する可能性もあります。

 鍵を握るのは、ドル/円です。日銀が、異次元緩和を維持する中で、FRBが利上げを続けるならば、いずれ、ドル高(円安)に戻ると考えられますが、そのストーリーの実現性にやや疑問符が付き始めています。

 明日は引き続き、為替の見通しについて書きます。購買力平価から見た適正水準について議論します。

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