増加が続く「外国人観光客」

 訪日外国人観光客の数は、東日本大震災の影響で2011年3~4月に一時大きく減ったことを除くと、過去6年間、一貫して伸び続けています。

訪日外国人観光客数の推移:2011年1月~2017年11月

出所:日本政府観光局(JNTO)より楽天証券経済研究所が作成

 

インバウンド関連株への注目が再び高まりつつある

 インバウンド関連株【注】に、再び、脚光が当たり始めました。

【注】インバウンド関連株
訪日外国人観光客による日本国内での消費支出を「インバウンド消費」と呼びます。インバウンド消費の増加で恩恵を受ける銘柄を、「インバウンド関連株」と呼びます。

 外国人観光客の数が一貫して伸び続けていることを見ると、インバウンド消費も安定的に伸びているかとの印象を受けますが、実態は異なります。

◆2015年:中国人観光客の爆買いに牽引されて、インバウンド消費が急激に拡大し、「インバウンド・バブル」

◆2016年:中国人観光客の爆買いが沈静化したことにより、インバウンド消費が大きく落ち込み、「インバウンド・バブル崩壊」

◆2017年:再び、インバウンド消費が拡大に転じ、「インバウンド・ブーム復活」

 インバウンド・バブルの発生、バブルの崩壊がなぜ起こったか説明する前に、まず、訪日観光客数の前年比増加率の推移を見てください。

訪日観光客数の前年同月比増加率:2015年1月~2017年1月

出所:日本政府観光局(JNTO)より楽天証券経済研究所が作成

 2015年は、「前年比増加率」が一時50%を超えていました。「インバウンド・バブル」に沸いた年でした。2016年に入ると、「前年比増加率」が低下しました。それが、2017年1月に入ってから、再び、増加しています。

 インバウンド関連株は、2015年に急騰し、2016年に急落しました。2017年に入り、持ち直しつつあります。今後、インバウンド関連株が、さらに見直される局面に入ると予想しています。

 

インバウンド・バブルはなぜ発生し、なぜ崩壊したか?

 2015年に、インバウンド・バブルが起こったのは、主に中国人観光客による「爆買い」が、原因です。これには、3つの理由があります。

◆中国で(海外旅行にいけるくらい)裕福な中間層が拡大

◆円安・人民元高が進んだことで、中国人からみて日本での買い物が割安に

◆実質「個人輸入」である買い物が拡大

 たとえば、2015年には、1人で高級炊飯器をまとめて10個買うような観光客がいました。それは、中国に持ち帰って転売して利益を得ることが目的であったと考えられます。

 それでは、なぜ2016年に中国人の爆買いが沈静化し、インバウンド・バブルが崩壊したのでしょうか。主な理由は、2つあります。

◆円高・人民元安が進み、爆買いのメリットが低下

◆中国政府による関税引き上げ(2016年4月)

 中国政府は、中国人観光客による日本での爆買いにより、消費需要が海外に流出していると考え、爆買い封じのために、海外で購入した商品を中国に持ち込む際にかかる関税を2016年4月に大幅に引き上げました。その後、中国人による日本での爆買いは鳴りを潜めました。

 

インバウンド・ブーム復活で恩恵を受ける銘柄

 では、なぜ今、インバウンド・ブーム復活なのでしょうか。外国人観光客の数が伸び続け、自分のために買う「お土産」需要が、増加を続けているためと考えられます。かつての、バブルとは、買い物の傾向が変わってきています。

 日本製品の安全性への信頼が高いことから、自分の体に取り込むものがよく売れるようになりました。「化粧品・食料品・医薬品」などが、好調です。また、モノばかりではなく、日本での「体験」にも、お金をかけるようになりました。「コト消費」といわれるものです。その恩恵を受ける銘柄の業績が好調です。この傾向は、2018年も続くと予想しています。

コト消費拡大で恩恵を受けるJR各社

 人口の増えない日本で、鉄道業は成熟産業と見られていましたが、新幹線収入の拡大によって、JR東海(9022)JR東日本(9020)JR西日本(9021)は、近年、最高益を更新しています。新幹線は、かつてビジネス客中心の乗り物でしたが、今や「国民の足」として、利用が拡大してきました。そこに、外国人観光客の利用拡大がさらに追い風。グリーン席の利用率増加も、収益拡大に寄与しています。

 2015年11月に上場とともに完全民営化(政府保有株をゼロにすること)を達成したJR九州(9142)も、先行き、徐々に収益を拡大していくと予想しています。人口減少地域で鉄道業の収益が悪化する不安はあるものの、九州新幹線の収益拡大が期待されます。また、早くから、観光客を楽しませる多様な観光列車(デザイン&ストーリー列車)の導入を進めてきた効果も、九州地区へのアジアからの観光客増加で効果を発揮します。ホテルや不動産業などへの多角化も進んでおり、人口減少を補って、グループで収益を底上げしていく体制ができあがっていると考えています。

 JR九州が導入で先行した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星」の旅は、予約倍率が10倍を超える状況が続いていて、絶好調です。従来の寝台列車とは異なり、動くホテルのような快適さが受けています。JR九州の成功を見て、JR西日本、JR東日本も豪華寝台列車の旅を導入していますが、いずれも好評です。

JR以外の私鉄各社も、インバウンド需要拡大が追い風

 私鉄各社は、1980年代に競ってリゾート開発に進出しましたが、いずれも、1990年代のバブル崩壊で、失敗に終わりました。ところが、そのリゾート路線が、今、インバウンド需要の拡大を受けて、新たな成長事業となりつつあります。

 日光、鬼怒川リゾート、東京スカイツリーなどの観光資源を持つ東武鉄道(9001)がその恩恵を受けています。また、東京・赤坂の旧赤坂プリンスの再開発を成功させた西武HLDG(9024)も、インバウンド需要拡大の追い風に乗ります。京成電鉄(9009)は、成田空港と都心を結ぶ特急の利用拡大で最高益を更新します。

 2018年に複々線工事を完了させ、輸送能力を拡大する小田急電鉄(9007)は、競合路線に対し、競争力が向上します。箱根へのアジアからの観光客誘致も、成果をあげつつあります。

 海外からの観光客増加の取り組みは、近年、関東より関西の方が成功しています。(1)京都・奈良など観光資源を持つこと、(2)大阪に観光客を楽しませる施設が豊富なこと、(3)関西空港がLCC(低コスト航空会社)の乗り入れを積極的に拡大している効果などが寄与しています。

 近畿グループHLDG(9041)は、あべのハルカス(大阪市阿倍野区にある日本でもっとも高い摩天楼)、奈良、伊勢志摩、熊野三山などの観光資源を持ち、「青の交響曲」などの高級観光列車が好調です。人口減少地域の収益悪化という不安材料はありますが、グループ収益の拡大に向けた積極経営が実を結びつつあります。

インバウンドで復活しつつある百貨店

 百貨店が好調です。日本百貨店協会が発表した2017年11月の全国百貨店売上高は5,396億円(全店ベース)で、既存店販売は、前年同月比で2.2%増加しています。専門店やコンビニに売り上げを奪われて衰退しているイメージがありましたが、2017年は、元気を取り戻しつつあります。

 百貨店の回復に効果が大きかったのが、インバウンド消費の急増です。免税売上高(外国人の買い物)が約253億円と、前年同月比で74.5%も増えました。地区別で見ると、外国人観光客に人気の大阪(前年同月比11.6%増)・福岡(同6.9増)が好調で、東京(同3.8%増)を上回ります。また、株高の恩恵で、日本人による高額消費が伸びている恩恵もあります。ただし、地方都市の店舗では、まだ売り上げの減少が続いています。

 インバウンド売り上げの拡大で好調な、J.フロントリテイリング(3086)高島屋(8233)に注目しています。いずれも、関西の店舗がインバウンド需要を取り込んで好調です。

 なお、2017年は、J.フロントが4月に銀座で開業した商業施設「GINZA SIX」が、外国人観光客でにぎわい、J.フロントの賃料収入拡大に寄与しました。「GINZA SIX」は、いろいろな体験ができる「コト消費」を取り込んだことが、成功の要因と言われており、百貨店の新しい可能性を感じさせる幕開けとなりました。

 百貨店以外では、ビックカメラ(3048)ドンキホーテHLDG(7532)も、インバウンド拡大の恩恵を受けています。

モノ消費では化粧品、コト消費ではテーマパークに恩恵

 日本の化粧品が、アジアで好調です。グローバル・ブランドとして成長を始めました。化粧品は、インバウンド需要拡大の恩恵をフルに受けています。日本で買うだけでなく、帰国してからも、越境EC(国をまたいでの無店舗販売)を使って、リピート需要も入るようになっています。資生堂(4911)コーセー(4922)などが、その恩恵を受けています。

 東京ディズニー・リゾートを運営するオリエンタルランド(4661)と、大阪のUSJ(ユバーサル・スタジオ・ジャパン)も、インバウンド消費拡大の恩恵を大いに受けています。USJは、まだ再上場していませんが、再上場を検討している話が続いています。

 

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