「フォルクスワーゲン問題」発覚前の水準まで上昇した国内外のプラチナ価格

 足元、プラチナ相場は、NYの先物市場が1トロイオンス1,200ドル前後、大阪の先物市場が1グラムあたり4,200円前後で推移しています。NY市場は2015年2月、大阪市場(当時は東京)は同年7月以来の高値水準です。

図:国内外のプラチナ先物市場の値動き(ともに中心限月)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 国内外のプラチナ先物価格は、「プラチナの多くの需要が奪われる」という悲観論が数年にわたり底流するきっかけとなった「フォルクスワーゲン問題」発覚時の水準を上回っています。米環境保護庁が同社の不正を発表したのは、同年9月でした。

問題発覚当時、プラチナ相場が長期低迷したのは、単純な連想が先行したため

 問題発覚当時、複数の市場関係者は、同問題の発覚がプラチナ相場を下落させると考えていました。以下の連想が働いたためです。

図:「フォルクスワーゲン問題」発覚後の連想

出所:筆者作成

 以下のグラフは、特に急減すると言われた、プラチナの一大消費地である欧州の自動車排ガス浄化装置向け需要の推移です。3つの機関が公表している同データは、同地区の同需要が急減していないことを示しています。

 データソース(情報源)は共通している可能性があるものの、3つの機関の数値が同一でないことから、それぞれの数値はそれぞれの機関の独自の数式(フォーミュラ)で計算されたものであると、考えられます。

図:欧州における自動車排ガス浄化装置向け需要の推移

出所:WPIC、ジョンソン・マッセイ社、リフィニティブ社のデータをもとに筆者作成

 同問題が発覚した2015年から2019年までの5年間、プラチナ相場が長期低迷を強いられたことを、「風評被害」とするアナリストがいます。筆者も同感です。

 同問題発覚をきっかけとした「プラチナ価格低迷」をイメージさせる連想は、あまりにも連想しやすかったため、市場関係者の間であっという間に広がったと考えられます。データがそれを示していないにもかかわらず、です。

コロナショック時の安値の2倍に。「脱炭素」ブームでもプラチナ相場は下落していない

 現在のプラチナ市場は、悲観論を数年間にわたり盛大に振りまいた「フォルクスワーゲン問題」を克服したように見えます。

 足元の上昇の原動力は「新型コロナショック後の回復」といえます。同ショックで急落し、NY先物市場は600ドルを、大阪市場は2,000円を一時的に割り込みましたが、その後大きく反発し、現在に至っています。

 この1年強、プラチナ価格は明確に上昇してきたわけですが、ここで気になるのが世界的なブームである「脱炭素」との整合性です。

図:「脱炭素ブーム」下の連想
※VW問題=フォルクスワーゲン問題

出所:筆者作成

 上記の通り、「脱炭素ブーム」下、プラチナ相場は、「フォルクスワーゲン問題」発覚時と同様、排ガス浄化装置向けの需要が減少するという悲観論によって、下落してもおかしくありません。

 しかし、昨年発生した新型コロナショック時の安値比、およそ2倍に上昇しています。一体、なぜなのでしょうか?

「脱炭素」起因の下落圧力は、足元の諸上昇要因が相殺か

「フォルクスワーゲン問題」発覚時と同様の連想が働く中で、プラチナ相場が上昇しているのは、プラチナ市場にこの連想起因の下落圧力を相殺して余りあるだけの、上昇圧力がかかっているためだと考えられます。

 上昇圧力は、主要国の金融緩和やそれによる株高をきっかけとした景気回復期待でプラチナの産業用需要が回復する期待が高まっていること、金融緩和をきっかけとした「代替通貨」需要増加や新型コロナ感染拡大による「有事のムード」の高まりなどで金(ゴールド)価格が上昇していることなどによって、もたらされていると考えられます。

図:新型コロナショック(2020年3月)以降のプラチナ市場の環境

出所:筆者作成

「フォルクスワーゲン問題」発覚時と同様の連想によって生じている下落圧力を、「金融緩和」「株高」「金高」などの複数経路からの上昇圧力が、相殺していると考えられます。

 足元のプラチナ価格の上昇を説明する際、各材料がもたらす影響度を足したり引いたりする必要があるわけです。

長期的には「脱炭素」起因の上昇圧力も。「水素社会」でプラチナが活躍する可能性あり

 長期的視点で、「脱炭素」とプラチナの関係を考えると、実は「脱炭素」はプラチナ相場の上昇要因になり得ることが見えてきます。日本や欧州の主要国が「水素社会」を構築する際、プラチナが貢献する可能性があるためです。

 水素は無色透明ですが、便宜上、生成過程を区別するために色分けがなされています。

 天然ガスなどの化石燃料から熱分解などで水素を抽出し、その抽出過程で発生した温室効果ガスを大気中に放出した場合、その水素は「グレー水素」と呼ばれます。同過程で発生した温室効果ガスを回収した場合、その水素は「ブルー水素」と呼ばれます。

 一方、水の電気分解で生成し、かつその電気が再生可能エネルギーによって得られたものである場合、その水素は、生成過程で温室効果ガスを発生させていない「グリーン水素」と呼ばれます。理想の「水素社会」では、「グリーン水素」の生成・使用が望ましいでしょう。

 水を電気分解して水素を生成する装置や、電気分解の逆の原理を使った発電装置(例えば、FCV=燃料電池車の動力源)の電極部分に、プラチナが使われるケースがあります。

 これらの装置は、「グリーン水素」を生成したり使用したりするために必要な装置と言えます。理想的な「水素社会」を築くために、プラチナが一役買う可能性があるわけです。

図:水素とプラチナの関係

出所:筆者作成

「水素社会」が実現するかどうかは、国や地域の政策に依存しやすいため、とん挫した場合はほとんど進まなくなる可能性はありますが、逆に進んだ場合は、「国のお墨付き」が得られたこととなり、比較的短期間で社会が大きく変化し、その流れでプラチナの新しい需要が増大する可能性があります。

条件がそろえば、短期的には1,500ドル、5,000円回復もあるか

 条件次第ですが、目先数カ月間のうちに、NYプラチナ先物は1,500ドルを、大阪プラチナ先物は5,000円を回復する可能性があると、筆者は考えています。今年2月に書いた「プラチナ6年ぶりの高値!たった1週間で10%上昇!1,450ドルも射程範囲に入ったか」で述べた上値目標を上方修正します。

「脱炭素」をきっかけとした連想による下落圧力を相殺して余りある、短期的な上昇圧力をもたらす「金融緩和」「株高」「金高」が継続すること、理想の「水素社会」に求められる「グリーン水素」の生成・使用にプラチナが一役買う可能性がある点に強い関心が集まること、といった複数の上昇要因が同時に存在する状況が続けば、その可能性は上がると考えます。

 以前の「新社会人の皆さんに伝えたい、密になってはいけない“商品市場の過去の常識”」でも述べましたが、わかりやすい、理解しやすい、聞いたことがある、有名人が言っていた、自分の考えと一緒だ、などという理由で、見たい材料だけに注目してはいけません。

 プラチナ市場は単体で存在していません。米国の金融政策、株価、金価格、そして、脱炭素、水素など、金融や市場だけでなく、社会や環境などの規模の大きいテーマと関わりながら、存在しています。

「材料の俯瞰(ふかん)」そして「材料の足し引き」が重要であることは言うまでもありません。プラチナに限らず、どの市場もそうですが、今後ますます、この2つは重要になっていくと筆者は考えています。

 [参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)