前回のコラムにて、相続を考えるときまず真っ先に行わなければならないのが「現状把握」であること、そして現状把握の方法についてお話ししました。現状把握が済んだら、そこからようやく「相続対策」を検討することになります。

相続「税」対策は「相続対策」の中の一部分にすぎない

皆さんは、「相続対策」ときいて何を思い浮かべますでしょうか。例えば贈与や養子縁組、アパート経営、近年では「タワマン節税」も大流行りになりました。

実は、一般に相続対策と呼ばれているものの多くは『相続「税」対策』に位置づけられるものなのです。そして、「相続税対策」は、「相続対策」の中の構成要素の1つに過ぎません。

相続対策は、大きく分けて以下の3つの対策からなっています。

  • 遺産分割対策
  • 納税資金対策
  • 相続税対策

そして、これらの対策には、手掛けるべき順番というものがあります。それは①→②→③の順番です。そして、優先順位や重要度が最も高いのが①で、最も低いのが③です。人によっては「税金をできるだけ安くすることが最も大事だ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、一般的には①の遺産分割対策が最も重要です。

逆に、相続税対策を最優先に行ってしまうと、遺産分割対策や納税資金対策に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。詳しくは別の回でお話ししますが、相続税対策と遺産分割対策・納税資金対策には相反するものも少なくないからです。

①→②→③の順番を守っている限り、相続対策が裏目に出てしまった、という事態の多くは避けることができるはずです。

今回は、この3つの対策がどのようなものなのか、何となくでもご理解いただければそれで結構です。

遺産分割対策とはなにか?

では①の遺産分割対策からみていきましょう。遺産分割対策とは、「被相続人(亡くなった方)の遺志を尊重しつつ、被相続人の財産をもめることなくスムーズに相続人(遺された方)に移転するための対策」です。

被相続人となる方にとっては、財産を巡ってもめ事を起こさないでほしいと願うはずです。また、どの財産を誰に渡したいか、明確な希望を持っている方も多いことでしょう。

しかし相続は「お金」が絡む問題です。そのため、皆様が思っている以上に揉めやすいものです。いわゆる「争続」と呼ばれる事態も頻繁に起こります。争いがこじれてしまうと、いつまでたっても遺産が分割できず、納税資金のねん出ができなかったり、相続税の各種特例(小規模宅地等の特例など)を適用できないなど、多くの弊害が生じます。また、被相続人の意に反した形で遺産が分割されてしまうケースも数多くあります。そうならないためにも、相続が起きる前に事前に対策を立てておくことが重要です。

相続が起こったときに、被相続人の希望にできる限り沿った形で、遺産をスムーズに相続人に分割するために考えられる対策には、例えば次のようなものがあります。

  • 生前に遺言書を書いておく
  • 換金性が高く、分割しやすい財産をある程度残しておく
  • 生命保険に加入しておく
  • 生前贈与をする
  • 養子縁組をする(子供がいない場合など)

納税資金対策にはどのようなものがあるか?

次に、②の納税資金対策です。

相続税は被相続人が持っていた財産のほぼすべてが課税対象となりますが、例えば財産の大部分を不動産で持っていても、納税は現預金で行わなければならないのが原則です。そのため、我が家ではどのくらい相続税がかかり、それを払うためにどのくらい現預金を準備しておかなければならないのかをあらかじめ把握し、対策を立てる必要があります。

①の遺産分割対策は、相続税が課税される、されないにかかわらずほぼ全てのご家庭において検討しなければならないものです。相続税の有無に関係なく、被相続人の財産は誰かがもらうことになるからです。しかし、納税資金対策は、相続税が課税されない程度の財産しかない場合は検討する必要がありません。

実は、相続が起こってから被相続人の財産がどれだけあり、相続税がどのくらいかかるかをはじめて知った、という方が非常に多いのです。このことから想定されるのは、相続が起こる前に納税資金対策をしていない方がかなり多いという点です。これは現状把握をしていなかったことが大きな原因となっているはずです。

以前のコラムにて、現状把握が大事だと申し上げましたが、現状を把握しなければ、納税資金対策が必要かどうかも判断できないのです。

納税資金対策としては、例えば次のようなものがあります。

  • 生命保険に加入しておく
  • 生前贈与をしておく(現預金や収益性の高い不動産など)
  • 換金性が高い財産(現預金や金融商品など)を多く残しておく
  • 不動産など換金性が低い財産を売却して現預金に換えておく

相続税対策として挙げられるものは何か?

そして③の相続税対策です。これは相続税をできるだけ減らすことを目的とした対策です。相続税を減らすには、大きく分けて3つの対策があります。

1つは、そもそも被相続人となる方から相続人等に財産を生前に移してしまうこと、2つ目は財産の評価額を引き下げること、3つ目は基礎控除や非課税など、相続税計算上の特典を活用するものです。

先に遺産分割対策や納税資金対策を済ませてから相続税対策を行うのが原則ですが、対策の内容によっては、他の対策と同時並行で行う場合もあります。また、他の対策を実行することで相続税対策としての効果も合わせて生じる場合もあります。

具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 生前贈与する
  • 所有する土地に賃貸アパートや賃貸マンションを建てる
  • 手持ちの現預金や借入金を使って不動産を買う
  • オーナー社長やその一族であれば、保有する自社株式の評価を引き下げる
  • 小規模宅地等の特例が使えるようにしておく
  • 生命保険に加入する
  • 養子縁組をする

今回は、相続対策には大きく分けて3つの対策があること、そしてそれぞれの対策の概要についてご説明しました。今後、順次それぞれの対策について、活用法や注意点も含めてもう少し掘り下げてお話をしていきたいと思います。また、相続税対策を最優先で考えるとどのような弊害が生じるかについても解説する予定です。