前回は、配当利回りについて個人投資家が必ず知っておきたい基本的な知識をご説明しました。

今回はもう少し踏み込んだお話をするとともに、配当利回りで投資銘柄を選ぶとき、具体的にどのような手法を用いて絞り込んでいけばよいかをお話ししたいと思います。

配当利回りが高いのにはワケがある

マイナス金利導入により株式の配当利回りに注目が集まる中、投資情報サイトや雑誌などでは、配当利回りが高い銘柄のランキングがよく掲載されています。

しかし、ランキング上位銘柄のラインナップをみると、筆者であれば配当利回りの観点から買って長期的に保有するには怖いな、と感じるものばかりです。

株式市場ではたくさんのプロ投資家がしのぎを削っています。そんな中、誰が見ても明らかに割安な銘柄が放置されていること自体が考えにくいことです。配当利回りが非常に高く、それだけを見れば割安に思える銘柄も、何かしらリスクがあるからこそ、表面上割安な水準で放置されている、という思考を持たなければなりません。

楽天証券のスーパースクリーナーで、3月4日の時点での予想配当利回りが高い順にスクリーニングすると、上位5銘柄は次のとおりでした。

では、なぜこれらの銘柄は配当利回りが高いのでしょうか?

なぜ大塚家具の配当利回りが高いのか?

例えば、「御家騒動」で話題となった大塚家具(8186)は、平成27年12月期、平成28年12月期とも1株当たりの配当金を80円とすると発表しています。一方、3月4日現在の大塚家具の株価は1,417円ですから、配当利回りは5.65%に達しています。配当利回りだけみれば、非常に魅力的に映ります。

でも、なぜ5.65%もの高い配当利回りで放置されているのでしょうか。

大塚家具は会長と社長の経営権争いの中で、それぞれが「自分が勝ったら配当金を大幅に増やす」と株主に宣言しました。争いに勝った社長がそれを実行したために、もともと40円だった配当金が80円に増額されたという経緯があります。

ところが、平成27年12月期の大塚家具の1株当たり当期純利益は19円38銭、28年12月期の予想は19円86銭です。平成27年12月期の配当性向は412.8%、28年12月期も402.8%にもなります。

配当性向が100%を超えるというのは、当期利益だけでは配当金を賄えず、過去の利益の蓄積である剰余金を切り崩して配当することを意味します。でも、剰余金にも限りがあり、いつまでもそのようなことを続けることはできません。確かに平成28年12月期の予想配当金で計算すれば配当利回りは5.65%になります。でも、こんなことが永遠に続くはずもなく、業績が向上して利益が配当金に追いつくことも考えにくい、となれば近い将来配当金は大きく減らされるだろう、と多くの投資家が考えています。だからこそ、5.65%という表面上割安な配当利回りで株価が放置されているのです。

上位2~5位の配当利回りが高い理由は?

上位5位までのうち、3位の夢真ホールディングス(2362)は、大塚家具と同様、配当性向が100%を超えています。足元では業績が急速に伸びていますが、この勢いがいつまでも続くかどうか定かではなく、近々業績が伸び悩むのではないか、と多くの投資家が考えている結果と思われます。

2位の国際計測器(7722)と4位のデクセリアルズ(4980)は、いずれも国内外の景気の影響を受けやすく、さらに海外売上の割合が高いために円高が進むと業績に悪影響を与えます。それにより、足元の業績が伸び悩んでいるほか、今後の業績が不透明であることが嫌気され、配当利回りが高止まりしていると考えられます。

5位の藤商事(6257)は、足元の業績が良くないことから、今後、配当金が予想通り出されるかどうか不安視されているものと思われます。さらに、パチンコ台がどのくらいヒットするかにより業績が大きく変動するため、今後の業績が読めないという理由のほか、パチンコという業種がもともと投資家に不人気のため株価が常に割安気味であることも影響しているはずです。

これらの銘柄の特徴を一言でいえば、「将来的に業績も配当金も増額ないしは安定して推移するという展望が見出しにくい」ということです。

配当利回りに着目した銘柄の選定手順とは?

このように、単に配当利回りが高いというだけでその銘柄に飛びつくのは、リスクの高い行動です。配当利回りに着目して銘柄を選ぶ際は、次のような手順を踏んで、銘柄を絞り込んでいくのがよいと思います。

  • スクリーニングで配当利回りの高い銘柄を探す

まずはスーパースクリーナーなどで配当利回りの高い銘柄をスクリーニングします。あまりに配当利回りが高すぎる銘柄はリスクも高いため、最初から除外してしまってもよいかもしれません。個人的には、利回りが3%前後の銘柄であれば、業績や配当金が安定しているものを比較的簡単に見つけることができると思います。

  • スクリーニングした銘柄につき、過去10年間の売上、利益、配当金の推移を調べる

景気や商品市況、為替レートなどの状況により業績や配当金が大きく変動しがちな銘柄は、たまたま足元の業績が良く高配当だったために配当利回りが見かけ上高くなっているだけかもしれません。そこで、過去10年間の売上、利益、配当金の推移をみて、業績や配当が安定的に推移しているかどうかを見ます。過去10年間の業績は、会社四季報やそのバックナンバーをみたり、会社四季報CD-ROMなどを使って入手します。企業によっては、ホームページに掲載されていることもあります。

個別銘柄のリスクを低下させることも重要

  • 売上、利益、配当金の全てが10年間で横ばい~増加傾向にある銘柄に絞り込む

②で業績や配当金の推移を調べた結果、全てが過去10年間で横ばい~増加傾向にある銘柄に絞り込みます。できれば全てが増加傾向にある銘柄が望ましいですが、最低でも横ばいを維持できている銘柄に絞り込みます。リーマンショックが起こった後、多くの企業業績が急激に悪化した2009年ごろであっても、業績が悪化せず配当金も減額されなかった銘柄を選ぶとなお良いでしょう。

  • 最低10銘柄以上に投資資金を分散し、個別銘柄リスクを低下させる

例えば商社株は全体的に配当利回りが高い傾向にあります。それは、資源価格等に業績が大きく左右されてしまい、業績が安定しないためです。しかし、伊藤忠商事(8001)のホームページに掲載されている配当方針に関する記述をみると、2006年度に比べて現在の1株当たり配当金の額は3倍以上になっていて、明らかに配当金は増加傾向にあります。それでいて3月5日時点での配当利回りは3.4%と高水準です。過去の配当金や配当性向の推移をみる限りでは、例え年々の業績の変動が大きいとしても、3.4%の配当利回りは投資対象として十分魅力的な水準であると筆者も感じます。

でも、3.4%の配当利回りは他の銘柄に比べればかなり高いのも事実であり、何か目に見えないリスクがあるのかもしれません。

そこで、銘柄を選定した結果、配当利回りが高いにもかかわらず特段のリスクが見つからない銘柄であっても、そうした銘柄に資金を集中するのは避けるべきです。安定配当株の代表例だった東京電力(9501)でさえも無配に転落してしまったわけですから、できれば10銘柄以上に投資資金を分散させて、個別銘柄ごとの固有のリスクを低下させることが必要です。